(10)
「すまんな……気の効かない妹で……。あ……私も人の事を言えた義理じゃないが……」
気が付くと……宿屋らしい場所のベッドの上。同じ部屋に居たのはラートリーと、その妹。
「あ……あの……さっきの一体、何?」
「話は長くなる。草原の民のは、大昔に天から下って諸民族の王となった天人の伝説が……」
「え……えっと……『日の支族』とかが人間の王様になって、『月の支族』の方が、動物の王様になったって話?」
「知ってたのか……」
うん、ついさっき知った。
「『月の支族』の方には、太古からの純粋な血を、ほぼ守り通した者達が居た。王都で騒ぎを起こしてる『熊おじさん』一党の幹部格達は……多分、その子孫だ」
「じゃ……じゃあ、とんでもない化物って事?」
「まぁな。熊や狼の姿に変身出来る奴は、単なる熊や狼の力を持った人間じゃない。並の熊や狼より遥かに強い……熊や狼の王達の子孫だ」
「そして、『日の支族』は普通の人間との間に子供を作ってしまい……その子孫達は、天人の血を引いてるだけの普通の人間に限りなく近いモノになっていった」
ラートリーの妹が、そう説明を続ける。
「でも、稀に生まれる事が有る。古代の天人に近い体質の人間が……草原の民やこの国の王族の更に先祖である東方の遊牧民には、特に多かった。と言っても1つの部族につき、1世代に数人生まれれば多い方だったがな」
「どう言う事? 王様や草原の民は、その天人の血が濃いって事?」
「違う。そいつらは……他民族の血が混った者だ。戦争、交易、傭兵……草原の民の先祖は、色んな理由で、大陸の各地に行き、その中には、その地の人間と子供を作って、故郷に連れ帰る事も有った。草原の民や、それと同系統の者達によって滅ぼされた国々にも、記録が残っているらしい……
「え……えっと……」
「天人への先祖返りは……違った民族の混血によって生まれる可能性が高まる。そして、
まさか……。
「百数十年前、この大陸の少なくとも人が住んでいる場所の半分以上は……東方の遊牧民の英雄・
「い……いや……ちょ……ちょっと待って」
「君も、君にアスランと名乗った、あいつも……先祖返りで生まれた古代の天人に近い存在だ」
ば……馬鹿な……でも……。
「そして、王宮の隠し扉にかけた魔法も、さっきの呪符にかけた魔法も……古代の天人の先祖返りにしか効……待って……」
その時、ラートリーの妹は、何かを思い付いたようだった。
「これ、『天子殺し』の刀にかけられた魔法の不完全版だった筈なんで……」
そう言って取り出したのは……さっきの変な模様だか文字だかが書かれた紙。
「でも、あの魔法の完全版は失伝してて……しかも、その呪符にかかってるのは、あいつ用に調整したんだろ? 同じ『天人の子孫』でも『月の支族』に効くのか?」
「完全版は再現出来なくて、ようやく復元出来た不完全版は相手に合わせて調整しないと、効果は薄れる……筈だった。でも……」
「あの……ボク……あの子より遥かに強く効いちゃった気が……」
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