(5)

 そのまま姿を消したラートリーは夕食の頃になっても見付からなかった。

「前向きに考えよう……。あいつの言う通り、あいつが次の指示を出すまでは王子の身の安全は保証されてる」

「ふざけるな。今度こそ、お前の一族は、あいつのせいで全員斬首だぞ」

「何が有ったか、よく判んないけど……あの酋長の息子なんて、殺せばいいじゃない」

 呑気にそう言ってるのは、第2王女。

「戦争がまた始まります」

「勝てるでしょ」

「勝ってからが大変なんです」

「なら、西の蛮族を皆殺しにして、西の土地は、全部、野っ原にして草原の民にあげちゃえばいいじゃない」

「よくありません」

「だって、みんな西の蛮族の事は醜豚鬼オーク扱いしてるじゃない」

醜豚鬼オーク扱いされてても、我が国の人間の多くが神聖王国の者達を『自分達を文明人だと勘違いしてる阿呆な蛮族』だと腹の底で思っていても、現実問題として人間です」

醜豚鬼オークの血が何割までだと人間なの?」

「あの国の人間に醜豚鬼オークの血なんて混ってません。多分ですが……」

「と……ところで、お姉様……今晩も添い寝してもらっていい?」

 第2王女の声が、急に変になる。

「あ……あ……は……はい……」

 答えたのはお嬢様。

「がじっ?」

 その時、足下で声?

「あれ、どこ行ってたの? それに……?」

 そこに居たのは手紙を入れた筒を背負った赤い鳳龍。

 第2王女は、筒を鳳龍の体に結び付けてた紐を外し、筒の蓋を取り……。

「あ……ちょ……ちょっと待って下さい。私が先に見ます」

 ウシャスさんは慌てて、中に入ってた手紙を横取りしようとするが……。

「私に読まれたらマズい事でも書いてあるの? 大体、何の手紙?」

「いや、国王陛下に出される文書だって、先に目を通す係の者が……」

「私、いつ王位についたっけ?」

「ですので……」

 けど……。

「読めない……」

 手紙は、草原の民の文字で書かれていた。

 それに……。

「あ……あの……」

 最初にその事を指摘したのはお嬢様だった。

「何で、一番下が破られてるんですか?」

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