緊急操縦

堕なの。

第1話

 衝動決めした旅行である。観光ガイドブックに乗っている温泉にどうしても入りたくなって、その日のうちに二泊三日の旅行を立てた。祝日が日曜日と被っており、たまたま三連休となったこともそれを後押しする要因となった。

 飛行機が離陸する。うつらうつらと眠くなって、目を閉じて、……そして起きたら銃を持っている男が人質をとって脅していた。

「おい、死にたくなかったら動くんじゃねえ。今から俺たちは政府と交渉する。破談になったらこの飛行機はドボンだ。分かるな。分かったらせいぜい政府の人間の決断を祈ってろよ」

 なんとまあ、社畜の温泉旅行を邪魔しようとするなどいい度胸である。しかしこの状況。キャビンアテンダントがどこにも居ないことや、パイロットらしき格好をした男が人質をとっていたりと何やら不可解なことが起こっている。

「政府は俺たちの要求を突っぱねたらしいな。ならお前らも道連れだ」

 男は人質を連れたまま操縦室へ戻ろうとする。チャンスはここしかないと、俺はソイツの後頭部をツボで思いっきりぶっ叩いた。変なマルチ商法だかで買わされたツボだ。壊れたところでなんの問題もない。

 狙い通り、男の身体が傾いていく。人質を男の身体の下から引っ張り出せば安心したのか腰が抜けてしまった。

「大丈夫ですか?」

「はい。……怖かった、です」

 気丈に振舞おうとしたのかはいと言った声は震えていて、やっぱり怖かったと呂律の回らない舌で紡いだ。

 元警察志望だった。皆を笑顔にしたかった。試験に落ちて、ブラック企業で働く退廃的な歯車となって、それでも、こんな理不尽で人の命が奪われていいはずがないと思った。

 男の身体検査を軽く行い、銃や包丁などの危ない物を取り上げてから縄で縛った。

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