鳥籠の世界は神の贄

七星北斗(化物)

1.「◻️」

 女の爪が剥がれ落ち、血塗れな手のひら。人を捕らえる鉄の鳥籠。


 必死に鳥籠から抜け出そうとする、抵抗の傷跡がそこら中に残る。


 そんな歪な空間で女は、鳥籠の外の子供に問いかける。


「あんたは、この鳥籠に入れられた意味わかる?」


「わかりません」


 幼い童子は答える。


 そして部屋を響かせるのは、歪なまでの金切り声。


「助けてよぉ、出してくれれば何でもしてあげる。だからさぁ」


 女の誘惑するような甘い声、しかし返答は期待と裏腹な静寂。女の声はやがて怒声に変わった。


「いいから出せってんだろうが糞餓鬼、あんたあたしを見殺しにするつもり?」


 このお姉さんは、七日後に神様と結婚するんだ。


 僕にはわからない。どうしてお姉さんは、こんなに必死なのか?


 開けてあげたいところだが、村の掟を破るわけにはいかない。


 村の名前は、十丘村。語源は古くから言い伝えられており、聖人を祭られる丘にある村なので十丘村。


 十丘村には古くからの仕来たりがあり、五年に一度神様へ清い乙女を捧げなければならない。


 何故そんなことをしているか問われれば、村の安寧や豊潤目的だそうだ。


 あまり詳しい話は、僕らにはまだ語られていない。


 結婚という意味も、幼い僕にはよくわからず、ましてや神様となのだから。


 神様とは、ずいぶん変わった名前である。神様には、会ったことがないため、どういった人物であるのか想像もつかない。


 しかし神様イコール、時の権力者であることは、幼い僕にもわかる。


 だけど…神様のお顔を、一目だけでも見てみたいところではある。


「なぁ、神様を見てみたくはないか?」


 僕は、幼なじみのサイカに問いかける。


 困ったように笑う顔が、そこにはあった。


「駄目だよ。決まりごとなんだから、守らなきゃ」


「って言ってたのにな~」


 コソコソと屋根裏に忍び込む二つの影、見張りから闇夜が隠してくれた。


「しょうがないじゃない。ムラサキ一人に行かせるわけにはいかないし」


 プンプンと可愛らしく、頬を膨らませるサイカ。


「バレなきゃ怒られないさ」


 そんなムラサキを他所に、人差し指を口の前に立て、シーッとジェスチャーをする。


「静かに。そろそろ神様のいる部屋の真上だよ」


 神様の住む御殿は、立派ではあるのだが、年季が入っている。


 だから天井から覗ける穴があるのだ。


 僕は、光が漏れる穴に瞼を重ねる。


 そして目を開けば、神様何ていなかった。座布団の上に大きな箱が置いてあるだけ。


 箱を祀ってある?


「サイカ、神様何ていないよ?」


 部屋の中には、ちゅうちゅうと走り回る鼠だけ。 


 その時、ガタガタと箱が震え出した。


 何かみてはいけないものを見てしまった。焦りの感情、しかし箱から目を離せない。


 箱は暴れるように揺れだした。そして元からそうであったかのように蓋が消えた。


 お前は誰だ。


 汗と涙が止まらない。


 箱の中からは、鼠が一匹♪

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鳥籠の世界は神の贄 七星北斗(化物) @sitiseihokuto

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