第6話 暴走するモンスター①

 俺は思った。転移アイテムを山ほど持っているから街の外に出ることにそこまで抵抗を持つ必要ないじゃんと。

 そう、そうなんだよな。他のプレイヤーも何人かこの街に残っているみたいだけど、日中だけ転移して他の街に行って、夜になったら戻って来るとかいうクソ強いムーブが出来ちゃうんだよな。

 

 治安の悪い街や危険な森に行ったとしても平和なこの街にすぐに戻ってこられるのは圧倒的なアドバンテージだ。

 ならそれを存分に使わせてもらおうじゃないか。


 ということで早速転移しよう。行き先は情報探しにはうってつけの街、中央国家オールアールだ。

 ゲーム内では多くの種族や民族が暮らしているという設定だったはずだが、こちらでもそうなのならこれほど情報探しに向いている場所は無い。

 貿易も盛んだし、そう言う点でも情報は集まるはずだ。


 確か転移アイテムはアイテムボックスに……あった。

 使い方はゲームと同じように視界の中に出てきたウィンドウから選択っと……。


 よし、いざ中央国家へ!

 



「中央国家オールアールへようこそ!」


 衛兵による確認の後街の中へ入ると、その瞬間スターティアとは段違いの活気が俺を出迎えた。

 中央国家オールアール。恐らくゲーム内で最もプレイヤーが滞在することになる街であり、ゲーム内で最も規模の大きい街だ。


 本当に何でもあるんだよここ。

 装備屋も道具屋も品揃えが最高だしカジノもある。

 それだけでは無い。フレーバーテキストのみでの登場ではあったが夜のお店もあるはずだ。


 しかしそこで重要なことに気づいた。


「……そうか。俺、もう……」


 下を向くとそこには起伏の無い体があった。

 そう、今の俺はょぅじょ。二十年以上の付き合いだった大事なアレも今や影も形も無い。

 こうなる前にせめて一発やっておけば……いやいや真昼間から何を考えているんだ俺は。


 よし、気を取り直して情報集めをするぞ。

 まずはやはりと言うべきかギルドだな。これだけの街の規模なんだ。集まっている人だって相当な人数になるはずだ。


 そういう訳なので冒険者ギルドへ行くと、予想通り大量の冒険者がいた。

 とは言え闇雲に聞いて周るのもなぁ。これだけの人数だと聞いて周るだけで日が暮れちまう。


 とそんなことを考えていた時、ふと違和感に気付いた。

 何故か物凄く視線を感じるのだ。いや何故かなんて、そんなことわかりきっているか。


 こんな幼女が冒険者をしているのは普通に考えておかしいもんな。

 いや、こんな『可愛い』幼女が冒険者をしているのは普通に考えておかしいもんな。


 せっかくこの姿なんだ。少しくらい自意識過剰自己肯定感マシマシでも誰も怒らないだろう。

 せっかくだからサラサラの長髪をみせびらかすように歩いてみる。顔も見て良いぞ。どうだ可愛いだろ。


 ……ヤバイ、変な扉を開きそうだ。このままだと精神がおかしくなりそうだな。さっさと目的を達成してしまいたいところだが……よし、とりあえずこういう時は受付嬢に聞くのが一番良いよな。


 ということで受付嬢に聞いてみた。


「闇の勢力ですか……? 確かに最近は特に盛んになっているとは聞いていますね。依頼にもいくつか関連しているものがあります」


 おお、ビンゴだ。流石は中央国家のギルド。あらゆる情報の集まる場所ってか。

 それに依頼があるのなら好都合。直接何かしらの情報を得られるかもしれない。


「しかしそれらの依頼は最低でもブロンズランクからでして……」


 そうだった。この世界において俺たちプレイヤーは最低ランク冒険者なんだった。すっかり忘れていた。

 ゲームと変わらないのであれば冒険者ランクはアイアンから始まってブロンズ、シルバー、ゴールド、プラチナ、ダイヤと上がって行くはず。

 俺たちはまずアイアンから下積みって訳か。


 ……きつくない?

 これ後々ダイヤじゃないと受けられないものも出てくるよね?

 仮にそうならどうにかしてギルドを通さずに闇の勢力の本体を叩く方が速いのかもしれないな。


 しかしそれもある程度の情報が手に入ってからだ。まずはそこに行き着くためにとにかくランクを上げないと。

 はは、少しワクワクしているな。ゲーム序盤、少しずつ強くなっていきながらランクを上げて行く感覚を……勝てば順位が少し上がり負ければ一気に落ちる殺伐としたPVPの世界にいたせいでその辺りを完全に忘れていた。


 となれば依頼を受けようじゃ無いか。情報集めはそれからだ。


「それじゃあ、アイアンで受けられる何か良い依頼はありますか?」

「そうですね……あ、そうだ。この依頼なんかはいかがでしょうか」


 受付嬢が取り出した依頼書に目を通す。それはフィールドウルフの討伐という簡単なものだった。

 フィールドウルフはスライムの次くらいに戦うことになる序盤の雑魚モンスターだったはずだ。基本的に二体以上で行動しているから、複数を相手にするためのチュートリアル用の初心者向けモンスターとして扱われている。

 ……で、合ってるよね?


[はい、その認識で問題はありません]


 良かった。序盤のモンスターはまともに戦っていたのが数年前だから記憶があやふやなんだよな。

 よし、それなら冒険者としての依頼一発目はフィールドウルフの討伐だ。

 

 そのままオールアールで冒険者として活動するための登録をした後、早速討伐のために街を出た。




「よいしょ!」

「ギャンッ」


 振り下ろした剣はいとも容易くフィールドウルフの体を斬り裂いた。もはやスキルを使う必要も無いみたいだ。あんなに不確定要素の強いもの、使わないにこしたことは無いが……それもいつまで通用するかだな。


 ということで今回俺が相手したのは5体のフィールドウルフの群れ。獣型のモンスターだからか少し抵抗感はあるが、それでも少しずつ慣れて行った。

 ナビは問題ないと言っていたが、それでもこの世界に適応しつつある自分が時折怖くなるぞ……?

 これ元の世界に戻った後まともな生活できなくない?


[元の世界に帰還する際には記憶処理も可能です]

「何それ怖いんだけど!?」


 記憶処理ってもうそれ宇宙生物のあの映画とか収容違反とかのあれじゃん。


[この世界でのことを全て忘れ元の生活を送ることも可能というだけで、それ以外への影響はありませんのでご安心を]

「そ、そうなのか……」


 改めて異世界の存在との倫理観の差を感じる。まあ儀式魔法由来のシステムってのもあるんだろうけど。


 そんな感じで危なげなくフィールドウルフたちを片付けた訳だが……一応受付嬢が言うには数を狩ればその分報酬は増えるらしい。

 とは言えお金には困っていない。ガチャで出た余り品をゲーム内市場で売っていたからゲーム内マネーはたんまりあった。それが今この世界ではリアルなマネーとなっている。


 なのでまあ、そもそも依頼なんかしなくても生活には困らないのよな。

 あーこんなことなら追加報酬次第でランクアップも近くなるのか聞いておけばよかった。それなら多めに狩って早くランク上げが出来るんだけど。


 とか考えていた時だ。


[警告。異常な魔力反応を確認]

「異常な魔力反応……!?」


 ナビはただそれだけ言った。それが何なのかは全くもってわからない。

 しかしただならぬ雰囲気だという事だけはわかった。

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