第4話 能力の確認をしよう

 そんなこんなあって異世界生活二日目を迎えた俺はとある草原へと来ている。

 ここはスターティアからそう離れていない場所にある草原だ。だだっ広く視界も良い。それでいて強力なモンスターもおらず平和そのものだ。


 何故こんなところに来ているかと言うと、色々と実験するためだな。

 この世界において自分の実力がまだよくわかっていない。一応ナビにステータスの基準は教えて貰ったものの、それが具体的にどれくらいなのかはわからないままだ。

 だから、実際に使ってみるのが一番手っ取り早いってことよ。


「まずは近接戦闘から行くか……!」


 鞘から剣を抜き、構える。どういう訳か体が勝手に動く。そうあるべきだと言うかのように。体がそうしろと囁いているかのように。


[スキルや能力に合わせて体が勝手に動いているのです。いずれは精神も追いついて本来の力を発揮できるでしょう]


 そうか。今はまだ一般大学生葛城晴翔の精神だが、場慣れして行けば徐々にバトルマジシャンHARUになっていくと言う訳だ。

 ……でもそれは俺と言う存在の消失では?


[あくまで戦いに慣れるだけですので人格の消失等は起こりません]

「そう? ならよかった」


 とにかく、今は少しでも体と心を慣れさせないとな。少しでも戦えるようにならないといつ何が起こるかわからんし。


「まずは軽く下級スキルから……ソードスラッシュ!」


 ソードスラッシュ、剣士系職業がまず最初に覚える剣技スキルだ。ダメージ倍率も低いし特殊効果も無い。しかし技の出が速いうえにクールタイムが短いため序盤は中々使い勝手のいいスキルだ。


 だがそんな超超超初心者向けスキルのはずのソードスラッシュは俺の予想外の結果をもたらした。


「お、おい……なんだこれ?」


 振り払った剣からは巨大な斬撃が飛んで行き、目の前にある丘を深々と斬り裂いたのだ。

 マジで人がいなくて良かった。というか何でこんな威力に……?


「ま、まあいいか。次は魔法の方を……ぶわっ!?」


 火属性の下級魔法であるファイアボールを放とうとした瞬間、俺は火だるまになった。


「あっっっ……つくはねえな……」


 流石にステータスが高いし防具の性能が良いからか、自ら行使した下級魔法でダメージを喰らうなんてことは無いようだ。

 しかしおかしい。下級魔法だぞこれ。それもファイアボールなんて、魔法職は最初から持っているものなんだが……何故こんなに規模が大きいんだ?

 それに発動に詠唱した覚えもない。お、無詠唱ってやつかこれ?


[貴方がたは魔法やスキルを詠唱無しで発動させることが出来ます。ですが詠唱無しだと性能が低下したり、今のHARU様のように魔法が暴走することがあるため、基本的には詠唱をすることをおすすめします]

「オーケー、そういうことね」


 なるほど今のは魔法が暴走したってことか。そういうことなら詠唱はした方が良いみたいだな。

 まあそうだよな。今の暴走もそうだし、後衛が詠唱無しで魔法放つの、前衛からしたら怖いもんな。何してるかわからんしこれから何をするのかもわからんのはシンプルに恐怖だ。


「さて、じゃあお次は……」

[警告。後方に敵正反応があります]

「なに!?」


 ナビの声を聞き、即座にその方向へ向く。するとそこにはぽよぽよと跳ねる小さい生物がいた。

 俺はそいつを知っている。アーステイルのマスコットでもあり、ほぼすべてのプレイヤーが最初に遭遇することになるだろうモンスターである「ダイフク」だ。

 ぽよぽよとした見た目に可愛らしい顔。完全にそういう方向を狙ったマスコット……モンスターだ。


「というかアーステイルって儀式魔法なんだよな? なんでマスコットなんかいるんだ……」

[アーステイルは儀式魔法が貴方がたの世界に合わせて作り出したものであり、その内容は自動的に作られます。ちなみにあのモンスターは儀式魔法上ではダイフクとなっていますが、実際はスライムです]

「あーそういうことか。確かにMMOとかオンラインゲームってだいたい何かしらのマスコットいるもんね」


 俺らの世界におけるMMOとは何か……を学習した結果生まれたのがアーステイルと言う訳か。そりゃ面白い訳だ。

 運営がやたらとネット文化に詳しいしそう言うノリが多いと思ったのもそう言う事だったんだな。

 

 と、そんなことを考えている場合じゃないな。いくら超序盤の敵とは言え、相手はモンスターだ。油断したら狩られるかもしれない。


 なんて心配したものの、全くもってそんなことは無かった。軽く振ったソードスラッシュ一撃でスライムたちは奇麗に吹き飛んでしまった。

 というかソードスラッシュ強すぎ。これ体感上級スキル相当の火力が出ているような……。


[申し訳ありません。攻撃力の異常な上昇については原因不明です]

「え、マジか……原因不明って怖いな」


 理由がわからないのが一番怖いんだよな……。さっきもファイアボールが中級魔法クラスの規模と威力になってたし。そのせいで巻き込まれたし。

 こうなってくると最上級スキルとか、あまり下手に使うべきじゃないな? 

 下手したら闇の勢力云々の前に世界が滅びかけてもおかしくない。


[原因がわかるまで使用を控えることをおすすめします]


 そうしよう。うん、それがいい。


 そんな訳で今日は無事にスキルのテストをして終わった。いや無事では無い……か?

 まあそれは置いておいて、着実に異世界での生活に慣れ始めているな。魔物を倒すのも思ったほどは抵抗感が無い。いやそれは相手がスライムだったからか。


 さて、寝る前にトイレに行っておくか……ってあれ、そう言えば俺ってこっちに来てからまだ一回もトイレをしてないような……。

 ……そんなことがあり得るのか?

 もう二日目が終わるんだぞ?


[貴方がた勇者は独自の人体構造をしており、排泄を行いません。そのため尿意や便意を催すことも無くなっています]

「……本格的に人間やめてんな」


 どうやら俺が思っていた以上に召喚された勇者と言うのは異質な存在のようだ。

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