困っている人を見かけたら? ☆14☆
そしてその表情がやがて恐怖に染まっていくのを見て、シュエは大きなため息を吐く。
「わらわたちにできることは、ここまでのようじゃの」
「そのようですね。あとはルーランに任せましょう」
リーズはシュエに近付いて、そっと細い肩に手を置いた。彼を見上げたあと、シュエは村長と若い女性に向けて眉を下げて微笑む。
「お
「――化け物の言うことを聞くとでもっ?」
恐ろしいものを見たとばかりに、声を震わせながら若い女性が声を荒げた。シュエは目を細めてやれやれとばかりに首を左右に振る。
「化け物なのは、果たしてどちらじゃろうなぁ?」
くすり、と口元に弧を描き、リーズの手を握る。
「嫉妬するなとは言わんが、ほどほどにせんと身を滅ぼすこともあろう。それは感情を持つ者すべてに言えることじゃ」
「特に、あなた方『人間』は寿命も百まで生きれば長寿ですしね」
リーズがシュエの肩から手を離し、ふわりと彼女を抱き上げる。シュエがリーズを見ると、彼はふたりに向けて頭を下げてから歩き出す。
「――お前らは、何者なんだ」
「あなたたちと同じように感情のある『いきもの』ですよ」
村長の問いにリーズが冷たい声色で返す。そしてそのまま村の中心に向かい、そこでルーランと合流した。
村の男性は艶やかで美しい女性に夢中になっているようで、あれもこれも畑で採れた野菜を渡されているようだ。その様子を見て、「流石じゃな、ルーラン」とぽつりとこぼすシュエに、「こうなると思った」と肩をすくめる。
「あら、シュエ、リーズ。用事はもう終わったのですか?」
「うむ。あとはルーランに任せたいのじゃが、頼めるかの?」
「どこまで干渉してよろしいのかしら?」
「……うーむ、そこはルーランに任せるとしよう。ルーランは『人間』のことについて、わらわより詳しいじゃろう?」
「かしこまりました」
ぽん、とリーズにお姫さま抱っこをされているシュエの頭を撫でる。シュエが彷徨える魂を解放したことに、ルーランは気付いていた。
「それでは、また今度……そうね、今度はリーズ抜きでお話ししましょう」
「ふふ、楽しみにしていよう」
ルーランと会話を終えて、村から出て行こうとすると、山の中で出会った青年とその母親が「待って!」と追いかけてきた。
リーズはぴたりと足を止め、彼らに振り向いた。
「あの、これ、うちで採れた野菜です」
「良かったら、持っていってください」
そう言って差し出されたのは色とりどりの野菜だった。ピーマンにトマト、ナス。艶と張りがあり美味しそうな野菜だ。
シュエはその野菜と青年たちを交互に見て、ふっと表情を和らげた。両手を伸ばして野菜の入った袋を受け取り、
「感謝する。ありがたく、いただくよ」
と、にっこりと微笑んだ。その様子にリーズも安堵したのか、青年たちに向かい頭を下げる。
「大切に食べますね」
「こんなことくらいしか出来なくて、すみません」
「いいや。わらわが勝手に首を突っ込んでしまったからの。お主(ぬし)ら、元気で暮らすんじゃよ」
シュエが軽く手を振りながらそう言うと、青年たちはこくりとうなずいた。そして、手を振り返してくれた。
シュエがきゅっとリーズの服を掴み彼を見上げると、彼は軽く首を傾げながらもなにも言わずに村をあとにした。恐らく、ルーランがうまく立ち回ってくれるだろう。
「……やはり、この世界の者からすると、わらわたちは悪鬼(あっき)と変わらぬ存在なのかのぅ」
自分たちの姿は人間と変わらない。しかし、持っている能力は人間よりも強いものだ。
竜人族であるシュエたちには『当たり前』の力だ。
「人は自分にない能力を持つ者を恐れますからね」
「リーズが旅立ったときもそうだったのか?」
「ええ、まぁ。それに、私が旅に出たときは姫さまよりも小さいときでしたから、余計異端に見えたんでしょうね。もちろん、親切な人もいましたが」
当時を思い出しているのか、眉を下げて微笑んでいる姿を見て、シュエは彼の旅はどんなものだったのだろうと考えた。
「それでも、その力を見ても受け入れてくれる人間もいましたよ」
「ほほう?」
「竜人族にいろんな人がいるように、人間にもいろんな人がいるということですよ」
リーズの言葉を聞いて、シュエは「そうじゃの」と呟いてから「歩く」とリーズから降りた。
あの青年たちはシュエの力を見ていない。だからこそ、こうして餞別をくれたのだろう。――でも、もしもシュエの力を見ても、同じように接してくれたのなら、それはとても嬉しいことだと彼女は思う。
「とりあえず、鮮度が良いうちにしまっとこうかの」
「そうですね」
誰もいないことを確認してから、リーズが野菜たちを収納する。
「この世界の人は、わらわたちが使える収納も使えないんじゃっけ?」
「そうですよ。この世界の人たちは悪鬼に抗う術(すべ)もあまりないようですね」
ふむ、と小さく呟きシュエは天を見上げる。まだ明るくシュエたちを照らす太陽を見つめて、眩しさに目を細める。
「――まぁ、困っている人を見かけたら、わらわはまた助けるけどな」
「いやな思いをしても?」
「わらわたちにとって、人間との交流はこの旅でくらいの繋がりしかなかろう。それに、困っている人を見捨てるのは心情的にもいやじゃ!」
きっぱりと言い切って、シュエは笑顔を見せる。そんな彼女の頭を、リーズが優しく撫でた。
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