竜人族の末っ子皇女の珍☆道☆中
秋月一花
旅人として
食欲はいつも旺盛 ☆1☆
とある国に、食べることが大好きな一人の皇女がいた。
その皇女は、深い森のような濃緑の髪を背中まで伸ばし、カワセミの羽色のような翠色の瞳をらんらんと輝かせ、人の目を奪う可愛らしさを持つ少女の姿をしていた。
そんな少女が屋台から串焼きを買い、目をキラキラと輝かせて大切そうに串を受け取る。
「うむ、これも美味しい!」
ぱくりと一口、串焼きにされた牛肉を食べている少女。
あまりにも幸せそうに食べるものだから、その串焼きを売っている屋台には人が集まってきた。
「そんなに食べて、お腹を壊しませんか?」
「平気じゃ、このくらい。あと十本はぺろりといけるぞ」
塩コショウのシンプルな味付け。それがとても牛肉の旨味を引き立てている。
「せめて座って食べてください、シュエさ……」
自分よりも数歩先を歩く二十歳くらいの青年の背中を勢いよく叩く少女――シュエ。
彼女の見た目は十歳程度だが、青年がよろめく程度には力が強かった。
「敬称をつけるでない、リーズ。なんのための偽名じゃ」
こそっと小声で注意するシュエに、リーズと呼ばれた青年はハッとしたように目を見開き、「申し訳ありません」と頭を下げる。
シュエは「うむ」とうなずいて、辺りを見渡す。ちょうどベンチが空いていたので、そこに座って串焼きを堪能することにした。
「それにしても、シュエは本当に食べることが好きですね」
「美味しいものは大好きじゃ!」
熱々だった串焼きは少し冷えてしまったが、それでも牛肉は柔らかく、噛めば噛むほどに肉汁があふれ出る。
最後の一つまで美味しく食べて、満足したように息を吐いた。
そして、ちらりと隣に座る青年を見る。
シュエの護衛として父から紹介されたのは、
「まさか、お主と二人旅をすることになるとはのぅ……」
食べ終わった串をゴミ箱に入れて、シュエはなぜ彼と旅に出ることになったかを思い返す。
――そう、それはわずか、一週間前の出来事だった。
竜人族の末っ子皇女として生まれたシュエは、食べることが大好きだ。食べるだけでは飽き足らず、食材のことを調べて、自分で料理をしてしまうこともしばしばあった。
そのことをとがめられたことは一度もない。
ただ、父である皇帝はそんなシュエが百年ものあいだ城に留まっていることが不思議だったのか、ある日こう言ったのだ。
『そんなに食べることが好きなら、いろんな国を巡ってみたらどうだ?』
――と。
シュエを可愛がっていた兄たちからは大反対されたが、皇后である母からは賛成された。
『竜人族の皇女として、世界を見ないで過ごすのはもったいなかろう』
と、まさに鶴の一声。
うきうきと旅支度を始めたシュエ。さぁ出発! というタイミングで、父からリーズを護衛に連れていけと言われたのだ。
リーズは乳母の子どもであり、幼い頃から一緒に過ごす時間が多かった。
つい先日二百歳になり、竜人族の成人を迎えたため、ついでにいろんな国を見てこいと背中を押されたらしい。
そんなわけで、シュエとリーズは一緒に旅をすることになった。
「それはこちらの台詞ですよ。成人してからもシュエとの縁は続くんですね……」
「なんじゃ? 成人後の旅がわらわと二人では嫌じゃと?」
「そんなこと、言ってませんよ。ただ、なぜ私を護衛に選んだのか……それが謎なだけです」
それは確かに、とシュエはうなずいた。だが、すぐに国にいた屈強な戦士たちを思い浮かべて、隣にいるのがリーズで良かったと心の中でつぶやく。
リーズの体格はまだあの屈強な戦士たちよりは細く、すらりとしている。
それでもいざとなれば竜の姿になり、空を
「腐れ縁ということで、諦めることじゃな」
「……腐れ縁。……ええ、まぁ、そうでしょうね」
はぁ、と
「むぅ。せっかくわらわが慰めてやっているのに」
「頼んでいません」
「可愛くないっ」
「成人男性は可愛いと思われたくありません」
早口で言われてムッとしたように唇を尖らせる。その唇を思わずというように人差し指と中指で摘まむリーズに、じたばたと手を動かすシュエ。
ぱっと手を離すリーズと顔を見合わせ、同時にプッと
「それにしても、あの牛肉の串焼きは美味じゃった。リーズも食べてみたらどうじゃ?」
「遠慮します。そんなにお腹空いてませんし、憂色が食べられなくなりますよ」
「旅の
「他にもあるでしょう。観光やら温泉やらが」
「うむ、それも楽しみじゃ」
すでに宿は予約してある。
故郷を離れて一週間。
シュエはこの旅を満喫していた。
期間は――シュエが満足するまで。
「じゃが、やはり食よ! 面白いと思わぬか、リーズ。美味しいものを食べると幸せを感じるじゃろう?」
「……そうですね。ほら、シュエ、冷えてきましたから、宿屋に行きましょう」
「宿屋までいきますよ」
「任せた」
シュエを抱えたまま、リーズは歩き出す。
その姿を周囲の人たちから微笑ましそうに見られていることに気付き、彼女は目を伏せた。
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