食堂で
一悶着あって、俺たちはまだ余裕のある昼休みの時間を昼食にするため、主様の嫌々言う口を縫って食堂へ来た。もう半分以上はイジメに関して片付いたと言っても過言ではないので、気負うことなく食事に手をつけさせてもらうとする。
「へぇ、中々豊富なんだな。流石は金持ちの集まる学校」
学食を食べようと、未だに並ぶ列は残っていて、その最後尾から本日のメニューを眺めると、俺の生前の記憶ではない料理がいくつもあった。
食べたことはない。だが写真で見るとどれもこれも美味しそうと思えたのは、きっとそれだけ空腹なんだ。それと、写真の撮り方が上手だからかもな。
「別にこのくらいなら家でも食べているでしょう?」
音川茂は基本家に戻らない。なので実質俺と音川莉織の二人暮しのような空間。金持ちとはいえメイドだったり執事だったり雇うことは、まぁ、音川の性格を知っているなら言うまでもない。
とはいえ、関わらないだけでお手伝いさんは居たとか。それも高校に入学と同時に1人でするからと、音川が跳ね除けたらしいが。
だから料理に関しては、外食だったりデリバリーだったり、音川が料理上手なのでそれに甘えたりしているくらいだ。仲が良くなくても、食卓を囲む機会は数える程度あったので、俺が学食にある料理のどれを家で食べたか知っているのだ。
それでも、俺が異世界から来た変人だとは知らないが。
「家で食べても、見た目も味も違ったら分からないだろ?俺たちが居るのは金持ち学校なんだから、外食とかで食べる味と比べて上の段階にあると思うんだけど」
「それはどうかしら。お金持ちだからって、誰も彼も舌が肥えていることはないのよ?それに、学食を利用する生徒なんて多くないのだから、味の差なんて感じれるくらい魅力的なことは学食にはないわ」
学食が俺の言うような完璧な料理だったら、今頃食堂は埋まっている、と。
確かにそうだろう。今は数えるのが面倒だが、凡そ100人程度が居るだけ。その半数は食事を終えて歓談している、仲のいいグループで集まっているようだ。学校には購買もあって、そこで昼食を買う生徒も多いと聞く。だから学食はそれだけ生徒にとって、魅力に欠けたとこなのだろう。
「そうらしいな。でも病室育ちの俺からすると、毎日こうして食堂に通って、毎日違うメニューを食べるのは夢だな。学生って感じで」
「ここに来ることが面倒に感じたりしないといいけれど」
「未来のことは分からないからな。そう感じた時は、購買で軽く買って、お前がゼリーで済ませている横で、満面の笑みで昼食を済ませるとする」
「いい性格してるわね。いつだって下僕から他人にランクダウンしてあげるわ」
これが冗談で言ったことなら気にしないが、冗談を言いながらも、心の中ではゼリーで済ませることに悩みを抱えながら言ったことなら、やはり気にすることだろう。
本当は誰かと、じゃなくても、人目を気にしないで学食や購買に行きたいと思っていたなら、今回のお誘いは成功なんだが。
まっ、そんなことを把握できる心の距離感じゃないしな。今は考えるだけ無駄、か。
「二言はないんだろ?それに、寂しがり屋で既に俺が居ないと夜も寝れないお前が、今から俺という完璧で神のような聖人を手放すとは思えないけどなー」
「その自信だけは褒められたものね」
「実際、初日しかお前と一緒の部屋で寝てないけど、初日の無限かと思うくらいのマシンガントークは正直可愛かったぞ。だから今は熟睡できてるのか心配だ」
心配なんてこれっぽっちもしていない。音川はストイックでもなければ、普通に夜更かしをする普通の高校生。だから快眠していたら、その快眠していることが異常と思っているので、寝起きも悪いということも知っているから、それは杞憂だ。
そんな俺の煽りとも思えるような発言に、音川は当時を思い出して恥ずかしく思ったのか、開き直って素直になる選択肢を選ばず、珍しく顔を下に向けて言う。
「……あれは……まぁそういうことにしてあげる」
身長差は15cm程度。下を向かれれば見えないのだが、それでも何となくどんな顔しているのかは想像ができた。
「素直になれよ」
こういうとこを全面に見せて、他人と関わることを積極的にしてくれれば大丈夫だろうな。それを音川が実行できるか否か。まぁ、素直になれない性格っぽいし、道は長そうかな。
「うるさいわね。前の人も進んだことだし、早く進みなさい」
「後ろ誰も居ないし、遅くても問題ないと思うけどな」
「昼休みはゆっくりしたいの。既にゴミカスに時間を取られて、更に私は速く歩けない。離れた食堂に来て帰る時間と食べる時間、それらを考えると今、貴方と話してる暇なんてないのよ。分かる?」
「はいはい。ツンデレは嫌いじゃないぞー」
しっかり定着したゴミカス呼びよりも、ツンデレなのかもしれないという音川に対する考えが、ツンデレだという確信に変わったことの方が面白い。
しかし、ツンデレでも特殊なツンデレで、たまに冗談にのったりのらなかったり、気分屋のツンデレなので、それは新鮮で関わる上ではとても楽しみだ。
そうして俺たちは共に進んでメニューを選んだ。選ぶのに10秒を費やした俺に対し、一瞬で注文した音川は優柔不断ではないらしい。
今後も来ることを考えれば、毎日メニューが変化することもないし、単純にメニュー表の右からとか決めていればいつか全て食べれる。なので、また一緒に来ることを期待してくれている、という勝手で都合のいい考えを持って俺たちは受け取り口へ向かった。
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