第10話 ボイラーの使い道

 いくつか見繕ってみるが、やはりまともに動くボイラーはなく、壊れた物から使えるパーツを取って作るしか無いようだ。


 そして、見つけたボイラーは四つ、どれも落下時の衝撃で破損していたり、回路が焼き切れていたりしたが、ケイに手伝ってもらいつつ分解をしていくと、どうしても足りない部品が一つあった。


――制御基板がまともに残っているものがないですね。

「ああ……仕方ない。似た基盤を流用するか」


 俺は廃品の山から基盤のついた機械を再度いくつか見繕って、修理していたボイラーに合致するものを探していく。


 これは規格が違う。これはサイズが大きすぎる。これは耐久性に不安がある……


 いくつか見繕った結果、不安は残るものの一応は合致するパーツが見つかった。これを接着して動力に繋げば、一応は動くはずだった。


「流石ですね」

「割と慣れてるからな、始めのうちは大変だった」


 替えの部品があることが当たり前で、それをつなぎ合わせる作業だった中央街時代の修理と違って、物が無いことが前提の端街の修理は、創意工夫が求められる。


 ……創意工夫か。少し発想を変えれば、ジャンヌとケイも人目を気にせず話せるかもしれない。


「バイルさん?」

「少し思いついたことがあってな」


 俺はある機械を探す。ボイラーや他の物と比べるとかなり小さいものなので見つかるかはわからない。


――バイル。何を探しているんですか?

「無線機だ。三人で居る以上、こうやって話している訳にはいかないだろう」


 俺がそう言うと、ケイは納得したように可塑性の身体を廃品品の間へと滑り込ませていく。少し遅れて俺達の意図を察したジャンヌが、俺とは違う方向の廃品を漁り始める。


 しばらく時間を掛けて無線機を探すうち、古いマットレスと数本の細いパイプも確保しておくことにした。これがあればなんとかベッドを作ることもできるだろう。


「あの、無線機では無いのですが、通信用の機材なので、これを流用できませんか?」


 しばらく経った後、ジャンヌが壊れた電話を持ってきた。構造を見るに、無線機として使えそうではある。


「よし、まあこれでも代用できるだろう」


 最も、いくつか別の廃品パーツから収集すればだが、せいぜい二〇メートル程度の範囲で通信ができれば十分である。


――バイル、ありましたよ通信機。とても小さくて大変でしたが、何とかなりそうですね。


 身体から延びていたケイがそう言って、イヤーチップ型の通信機を持ってくる。


「随分質の良い物を拾えたな。ボイラーも含めて二輪車に積んで帰ろう」


 俺はケイにそう返すと、ジャンヌを呼んでから全員でバイクに乗り込んだ。



――



「おうバイル! 助かった!」


 ボイラーを受け取ると、ザルガじいさんはまばらに生えている歯を見せて笑う。


「一体何に使う気だ? 修理だったら言ってくれりゃあ――」

「ふひひ、教えてやろうか? ついてこい!」


 そう言って彼は意気揚々とコンテナの奥へと進んでいく。


「……バイル。お腹が減りました」

「もう少し待ってろ。じいさんが満足するまで」


 俺はそう言って、頭から布を被ったジャンヌの手を引いてコンテナハウスの奥へ向かう。


 資材用の巨大なコンテナは、ノアの修理時に大用部品を収めていたものが殆どで、それらのコンテナはかなりの大きさがある。それを縦横に連結し、必要な部分を溶断して穴をあけたのが、端街で一般的な家である。


 勿論ザルガじいさんの家もそれと同じ作りだったが、中央街から溢れ出す水の通る配管がそこかしこにあるのが他の家と違う所だった。


「おい、じいさん。腹減ってんだから早く飯をだな……」

「ようきた若造! これをみるのじゃ!」


 いつ使うのか分からない。動くかもわからない機械類と、配管パイプを通り抜けた先に、それはあった。


 採光用の窓だけがあり、外から見えないように調整されたそこには、水の入った巨大な容器が置かれていた。


「バイルさん。お風呂です」


 そう、風呂である。中央街に居た頃はありふれたものだったが、端街に来てからは全く見掛ける事が無いものだった。しかも、かなりでかい。


「あん? 何だバイル。ガキまで連れてやがって、また仕事関係か?」

「ああ、あんまり気にしないでくれると助かる」


 ジャンヌに興味を示したじいさんに、俺は軽い調子でそう伝える。お互い付き合いはそれなりにある。だからこそ、触っても大丈夫な領域はお互いに把握していた。


「なるほどな……じゃあ報酬だが――」

「ザルガさん。このお風呂、動くんですか?」


 俺たちの会話に割り込むように、ジャンヌは風呂に食いついてくる。


「おう、当然動くぞ! ボイラーが足りなくて湯沸かしができなかったが、バイルが持ってきてくれたからな!」

「おい、それより飯――」

「入ってもいいですか?」


 話が脱線しそうな気配を感じて口を挟むが、ジャンヌは全く気にしていないというようにじいさんとの会話を続ける。


「おっ嬢ちゃん入りたいのか? いいぜ、ボイラー持ってきてくれた礼だ。一回はサービスしてやる!」


 完全に脱線した話は、俺の制御できる範囲からはるか遠くへ脱線していった。


「バイルさん。入りましょう」

「はぁ……仕方ないな。まあ久々に入っておくのも悪くないか」


 無機質な表情ながら、少しだけ期待に上ずった声を出すジャンヌを見て、俺は観念する。もうどうしようもないので、俺は二日連続であの「カレーもどき」を食べることを決めた。

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