エクスターゼ劇団の花々~エリンジウムとアルストロメリアの旅路~
青時雨
序章 幕が上がる
第1話 開演前の客席にて
エリンジウム・リュフトヒェンはここエクスターゼ劇団の役者で、エクスターゼの花と呼ばれている。華のある役者だからなのか、彼女自身の名が花であるからなのかはわからないがね。
彼女の演技は観るたびに、どうしようもなく心惹かれるよ。彼女の一番の友人であるアルストロメリア・ツェーゲルンはエクスターゼ劇団の名の知れる針子で、今は衣装部の最高責任者も務めているそうだよ。その手先の器用さから、今や他劇団からも引っ張りだこな多忙な女性だ。
彼女たちの故郷は遥か遠く、海の向こうにある大陸にある小国の小さな町だった。その町で幼少期を過ごすも、アルストロメリア・ツェーゲルンの失恋をきっかけに故郷を飛び出してこの国へやってきたらしい。
どうして私がこんなにも彼女たちに詳しいかって?。それは、このパンフレットに……書いていないね。なら、私が誰であるかは君の想像にお任せするよ。
この度エクスターゼ劇場では、役者であるエリンジウム・リュフトヒェンと針子であるアルストロメリア・ツェーゲルンの若き時代を元にした公演を行うそうだよ。彼女たちがエクスターゼ劇団に入団した年にも同じ演目を公演したそうだけれど、再演を望む者が多くて再び同じ物語の幕が上がるようだね。
舞台上では彼女たちの実話であることは伏せられ、名前も別のものに変えられているんだけれどね。なぜ私がそれを知っているかって?。それも言えないなぁ。
当人たちは、自身の未熟な頃を人々に知られる気恥ずかしさもあっただろう。しかし、彼女たちが勇気を持って自身の歩んできた軌跡を脚本にすることを脚本家に許可したおかげで、私たちはこんなにも素晴らしい舞台が観られるのだから感謝しなければね。
公演が始まっていないのになぜ素晴らしいとわかるかって?。それは私がこの公演を過去にも観たことがあるからさ。前に観劇した時とはまた違う感動を味合わせてくれるだろうけれどね。君も、エクスターゼ劇団の舞台を一度観たらもう一度ここへ足を運びたくなるさ。
それに、実際に彼女たちと共に青春時代を過ごした役者たちがエリンジウム・リュフトヒェンと同じ舞台に立つのだから感動すること間違いなしさ。……おや、先程から反応が薄いとは思っていたけれど、君は名舞台役者のエリンジウム・リュフトヒェンも針子のアルストロメリア・ツェーゲルンもエクスターゼ劇団のことも、全く何も知らないのかね。
全く仕方がない、私が説明して……あげたいところだけどそろそろ幕が上がるね。舞台上で紡がれる物語を観劇していれば、私の説明したかったことの全てが君にも伝わるはずだよ。
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