読書-ノンフィクション

ヴェネツィアの宿/須賀敦子

 池澤夏樹さんの随筆で名前を知り、興味を持ってたまたまこれを手に取った。

 いい文章だ。凝った言い回しが目につくわけではなく、実直とも言えるような丁寧な文章で世界の一端を切り取って見せてくれていると思った。


 昭和一桁生まれの、翻訳家、随筆家である須賀敦子さん。

 今とは違う時代の新鮮さとか懐かしい思い出話という感じはまったくせず、「今見ると」「逆に」という前置きなしに魅力的でわくわくする話がたくさんあった。


「昭和初年の開発ブームからも、また、十年代にこのあたりの人たちが一様に冒されていたモダニズム熱からも忘れられたよう」(P31-32) なひっそりと落ち着いた雰囲気の阪急沿線の岡本の街並み


「当時はまだ武士階級とそれに仕えた人たちの区別が厳然と存在して」「町では一応大切にされている」(P34) という鬼藤の家の伯母たちの話


「「えらい国」が、たくさん植民地を持っている、そんなふうにこの言葉が使われる時代」(p236)


 贅沢が心底大好きだった父に連れられて行ったホテルのレストランや、お母さんの家はお殿様のおうちだったと母が聞かせる昔話。


「維新の頃」という言い方も、その時代ではそういうふうに言うのかと発見だった。

 世代から言えば我々にとっての戦前よりも近いくらいだし、距離感としてはそうなんだろうとわかるけど。

 教科書上の歴史が生々しい記憶として生きている時代だ。


 その時代の人の文章を自分があまり読んだことなかったから新鮮に感じるのだろうかと思い、自分が読んだことのある人の生年を調べたら

 須賀敦子1929年

 川端康成1899年

 白洲次郎1902年

 坂口安吾1906年

 太宰治1909年

 池波正太郎1923年

 という感じだった。自分から見ると昭和一桁生まれが近代と現代の間の随筆なのかもしれない。


 もちろん時代ではなく、私が単純に須賀敦子さんの随筆のディテールを好きになってしまったということもあるんだろう。



 全集の第一巻も買った。全八巻くらいあるんだけどどうせ買うなら一気に買った方がいいだろうけど、どうしよう……全部しっかり厚いんだが、読むだろうか…

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