コミック・サウンド・スクアリー~擬音能力者アリカの怪音奇音なステージファイル~

北乃ゆうひ

Fail.1:

孤独な蠱毒 - アイロニー・コロニー - その1

 需要をガン無視した、趣味とノリと勢いの産物です。

 小説家になろうからの転載になります。


 お読み頂いた方々が少しでも楽しんで頂ければ幸いです。


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「――何事にも例外がある」


 すでに住民がおらず、放置されていた二階建ての廃アパート。

 そのアパートの側面に付けられた階段。赤錆が錆び付いて踏みしめるごとにギシギシ言うその階段を昇りながら、探偵さんは私を見ずに言葉を続ける。


「――それは、能力舎ステージなんて呼ばれる。

 超能力に目覚めた無機物。特に建物のコトだ」


 私はそれを聞きながら、震えながら探偵さんのあとをついていく。


 正直、彼の解説はあまり耳に入ってこない。

 探偵さんが悪いというよりも、私に余裕がない。

 気持ち悪いし、怖いし、得体がしれないし、人の話を聞く余裕なんてない。


「生き物の能力者がアクターで、建物の能力舎のうりょくしゃがステージ。誰が名付けたのか知らないが、結構シャレの聞いたネーミングだと思わないか?」


 問いかけに、答えている余裕はない。

 探偵さんが階段を昇りきる。私もなんとか昇り切る。


 朽ちてボロボロの柵を横目に二階の廊下を進んでいく。

 目的地は真ん中あたりにある204号室。


 その部屋の前で探偵さんが足を止めた。


「そして君は今、その能力舎ステージの影響を受けている。

 人が怪異や呪いと呼んだりもするものだ。どちらにせよ、君に憑いている――あるいは寄生か。ともあれソレの侵攻は進んでいる。早急に対処する必要があるだろう」


 そう口にしてから、探偵さんはドアノブに手を掛けた。


「さて――」


 気持ち悪い。怖い。おぞましい。

 あの時の光景が脳裏に過ぎる。


「君が虫の群れを見たという部屋はここだったな?」


 探偵さんがドアをあける。

 瞬間、以前に見た時同様に、ゴキブリにもフナムシにも、ただの黒い楕円にも見えるそれが、一斉に部屋の中で逃げながら拡散していった。


「なかなかひどい光景だったな」


 その虫たちはすでに影も形もなければ気配もない。

 ただ、以前見たと時と同様に、気持ち悪くて、怖いくて、おぞましい。


 だというのに――


「ともあれ、中だな。悪いが君も来てくれ」


 あの黒い虫の群れの中に身体を横たわらせたい。

 あの虫に群がられたい。

 あの子たちの為に卵を生みたい。


 ぼんやりとそんな思考が脳裏に過ぎってかぶりを振る。


 そんなワケがない。

 なんなの、今の思考は――


 沸き上がる吐き気を堪えるように口元を押さえる。

 

「だいぶ影響が強くなってるようだな。

 すぐに核を見つけて対処しないとマズいか」


 探偵さんが何か言っている。


(どうして、こんなコトになってるんだっけ?)


 先日同様に、カビだらけのフローリングへと足を進めながら、思い返す。


 思い返しながらも、別の想像が脳裏に過ぎった。


 黒い虫たちにたかられて全身を食い荒らされる。

 あるいは、毎晩見る悪夢のように――身体の中に卵を産みつけられて……。


 そんな光景を想像すると、おへその下辺りに疼きを感じる。

 違う。そんなこと望んでいない。


 自分で自分が分からなくなっていく。


「大丈夫……ではないだろうが、ついてきてくれ」

「……はい」


 だからこそ、探偵さんの言う通りにする。

 このままだと呪い殺されるまえに、虫たちに身体を捧げてしまいそうで――



 ……私が、最初にここで虫の群れを見たのは三日前だ……

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