ガーデン・ドール ~エピソード オブ アイラ~

黒斐みかん

七不思議調査


「掲示板で約束した子、まだかなぁ?」

「調査!わくわくするねえ」

「ほんとほんと、夜の体育館に響くボールの音、だっけ。んー…と…」

「……体育館に響くボールをつく音」

「そうそれだ!」

「ガーデンは暗に調査をしなくてはならないと言っている、けれど調査はひとりで行ってはいけない」

「だから掲示板で待ち合わせ!友達になれるかな?」


複数人が会話をする声が暗闇に響く。しかし声の主はひとり、体育館の壁に凭れるようにして立っていた。退屈に任せ、身振り手振りをしながら自問自答。こんな時でもなければ、頭の中で片付かない声を表に出すことも出来ない。


「…怖がらせないようにしないとね」


ストンと表情の抜け落ちた顔で呟いたその時、ふと視線を感じて見やれば、かわいらしいドールが立っていた。


「やほやほ!こんにちは〜」


日頃人に見せている普段の調子で手を振った。

油断した。怖がらせただろうか?


「………?」

「あ〜〜………アイラです、どうも〜」


(さて困ったぞ!)

アイラは内心で頭を抱えた。疑問符を浮かべて小首を傾げたその表情からは、考えていることが読み取れない。訝しまれた、だろうか。


「ぼくは流音。よろしくね」

「あなたが流音くん!待ってましたよ〜」

「………早く行こう。」


スン、となって先を行く流音の、先程のにこっと笑顔を見せてくれたかわいらしい自己紹介との落差。怖がっているとか、訝しまれたとかいうより、苦手に思われているような気がする。


(……早く調査を済ませよう!)


アイラはイエロークラスのドールだ。イエローのクラス魔法のひとつに、筒を繋げた壁の向こうを透視するというものがある。それを使えば外に居ながら安全に体育館の中を調べることができ……


「およよ、待ってください〜!2人揃ったから今魔法で中の偵察を…」

「………」

「あっ、ちょと、調査は2人でしないと罰則が〜!」


手始めに手筒を使って中の様子を覗こうと考えていたのだが仕方ない。

流音がスタスタと体育館の扉を開け中に入っていくのを追いかけ、暗い体育館に踏み込む。


『トン……トントン』


「……今の音、聞こえました?」


顔を引き攣らせてアイラが問えば、


「聞こえた。やっぱりボール跳ねてるのかな?」


流音は音の方を見た。

何も無い。


「ひや〜〜!!こわい!!何も見えない!!暗い!!調査ってここグルっと1周!?1周でOKですかね!?」

「電気探そう」

「えっっ…あっ、じゃあそっちはお任せしました!私こっち行ってみます!」


目をキュッと瞑ったまま手探りで壁伝いにぎこちなく歩き、探索を開始するアイラ。

一方流音は呆れたように首を小さく振り、電気のスイッチを見つけて明かりをつけた。


『トン…トントントン…ぱしゅ!』

「ひええーーー!!音!!また音が!!」


「!」


アイラの悲鳴はさておき、音のする方を注視していた流音は、ゴールネットが揺れるのを見た。トン……トントントン…………相変わらず音が聞こえるが、ボールは確認できない。


「誰か居るの?」


流音は音のする方へ声を掛けた。


「こ!声なんて掛けたら私達がいるのバレちゃいますよ!!何が居るか分からないのに!!」

「それだけ騒いでたら今更でしょ。」

「あうう、それはそうなんですが……」


流音は天を仰ぎついでに天井を確認した。

明かりは正常についている。怪しいものも特になし。

更にぐるりと体育館全体を見渡した。バスケットボールの練習をしているかのようなボールの音は続いていれど、何者かの姿は無し。時折ゴールネットが揺れる…外してボードに当たる音もする。


「………」


流音がゴールポストに近寄りじっくり観察している間に、アイラは壁沿いの探索を終え入口まで戻ってきた。


「何かありましたー?!」

「………ん、何にもなかったよ」

「壁際もなにも異常無しでした!!!」

「そう………」

「調査終了ですね!!!帰りましょう!!!」

「………」

「こわかった!!こわくなかったですか!?」

「別に………」


暗い夜道に賑やかなアイラの声が響く。まとわりつかれている流音はやや迷惑そうに、アイラを適当にあしらっている。

そんなこんなで寮に辿り着いたふたりは、それぞれ自室へと帰った。




誰も居なくなった静かな体育館に、ボールの音が響く。


『トン………トントン、パシュ!』


ゴールネットが揺れた。


***



【調査報告】


調査対象:体育館に響くボールの音

調査者:アイラ、流音


調査結果:ボールの音を確認。ボールを扱うものの姿は確認できず。照明は正常。明かりをつけても音は変わらず鳴っていた。ボールとそれを扱う者の姿は見えないものの、ゴールポストへ向けてシュートされたかのように、ボードにボールがぶつかったり、ネットが揺れたりしていた。終始大騒ぎをしていた調査人(アイラ)、対象へ声を掛けた調査人(流音)双方への攻撃等被害は無し。危険は無いように思われる。



以上をもって、対象の調査の完了を報告します


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