第30話 悲劇の幕が上がった
パリブス王国は、と言うかインフィルマ=パリブス王は、とうとう腹をくくった。
いつまでもやって来る、オリエンテム王国。
いい加減鬱陶しい。
それに、メリディオナル王国に佐々木 慶子が渡ったのが大きい。
時間をかければ、技術的有利性がなくなる。そう考える。
今行っている戦争は、ものすごい勢いで民からの支持を受けている。
当然だ。出ていけば、此方の損耗はなく一方的な殺戮。
街角では、兵達がちょっと行ってくる。
そんな感じで、家族に別れを告げている。
これで何かがあれば、せっかく上がった士気が……
兵の中では、鳥撃ちにでも出かけているようなもの。
自身が死ぬ姿など、今は考えていないだろう。
佐々木 慶子の影響が、大きくのし掛かる。
「彼らと同じ人種。知識。裕樹は大丈夫だろうと言ったが、それは確実ではなく多分だ…… 安心など出来やしない」
あの銃と呼ばれるもの、あれの威力と扱いの簡単さ。
すべての兵が、戦力となる。
それの恐ろしさを、裕樹達は分かっていない。
この世界では、今まで数の戦いだった。
ところが、今は少数が多数を簡単に殺してしまう。
圧倒的な暴力…… それも、遠距離からの一方的な物。
それが、他国から此方に向かったとき。
だめだ。それだけは……。
「今度来た時を、最後にしよう。準備をして、追撃。オリエンテム王国、王都まで進軍をして、アレクサンデル=オルムグレン王。奴の首を取らねば戦争は終わらない」
悩んだ末、インフィルマ=パリブス王は、勝手にそんなことを決めた。
「まあ、仕方が無いか? でも他の国は、なんとなく友好的なんだろう」
「その様だな?」
慶子が居なくなったことで、王が焦り、何とかしようとしているのは聞いている。
「おい、裕樹。そのハンドガンは何だ?」
「んあ? M1911。コルトのガバメントモデル。第二次世界大戦で奴らが持っていた。拾ったのを使ったことがあるんだ」
ガバメントというのは、官給品という意味。戦時などで兵に配られた支給品。
「はっ? 使った? いつ?」
「だから、第二次世界大戦だ」
そこまで言って、おれは、しまったと我に返った。
「まあなんだ。と、言う夢を見た。だから作ってみた。良いだろう」
そう言うと、雄一は変な顔をするが、いい男の変な顔は、なんだかかっこいいぞ。
不公平だ。
「おれは、リボルバーの方が良いな」
「南部か? あー。ニューナンブだったか。おまわりさんの装備だ。南部と言ったら九四式だよな」
会話をしながら、あの時がフラッシュバックをする。
「何をぶつぶつと。もっと大きい奴が良い。四十四だったっけ?」
「ああ。色々あるな。S&Wとか」
「よくわからんが、銃身の長いやつな」
「使いにくいぞ」
まるで、裕樹は使ったことがある様に答える。
「そうなのか? それと、裕樹…… おまえ、少し休んだ方が良いぞ」
受け答えと表情、そして反応が、おかしな事に気がついた。
「分かった。戦争が終わったら、ゆっくり休むさ」
「おい」
そう言って俺は、場を離れた。
だが、その時。どう考えても裕樹の様子がおかしかった。
気がついてはいたのだが、俺は止められなかった。
奴は一人で、俺達全体を見てコントロールしている。
他の奴には、絶対無理だ。
「死ぬなよ。裕樹」
そうして、心配された裕樹は、案の定限界だったらしく、熱を出して三日三晩寝込んだ。
その間に、オリエンテム王国が、強化された弓を携えてやって来た。
むろん開発をしたのは、マウリ=ムルトマー男爵。
木で枠を作り、弓の中央を固定する。
そこから弓に沿うように、片側を中央部で稼働できるように固定し、長い棒が伸ばされている。その棒には中間部分に、弓の正面側を押す目的で、出っ張りがついている。
形としては、長いトンファー?
てこの原理を利用して、長い棒を押し弓をゆがめる。その状態で、数人がかりで弦を引き絞る。
Y字側の棒を下から突き出して、弦の状態を保つ。
矢をセットして、Y字の片側をハンマーでたたいて外すと、矢が発射される。
一応基本は、鉄を使った複合弓。
弦は耐える物がなくて、金属の板だ。
だがその、強引な作りの弓は、矢を一千メートルほど飛ばす。
今蒸気を使って、連射できる物を開発中だが、金属に弾性がなく、数度使えば、ゆがみが癖になる。
弾性とは、力を掛け、その時には変形をしても、力が掛からなくなれば、元に戻る特性。
つまり、一射ごとに飛距離は落ちていく。そのため、すべて数回で使い捨てる事になる。
弓の原料としていくつかの金属を、重ね合わせてみているが、なかなか良いものが発見できない。
金属の焼きによる性質変化に気がつかねば、発見は難しいかもしれない。
「耐久性はないが威力はある。試してくれ」
今回の遠征は、お試しのつもりで、百名ほどの隊で来ていた。
どうせ国境を越えては追いかけてこないと、オリエンテム王国は、パリブス王国の事を舐めていた。
力と、強力な武器は見知って恐れているが、線引きをして襲ってこないなら、怖くはない。
まるで今の日本が、おかれているような状態。
どうせ、攻撃はしてこないさ。彼らは今回もそう思っていた
弓を番え、要塞に向けて一回放つ。
飛距離は十分で、金属製の矢は、要塞の前に設置された壁を突き抜く。
そう思ったが、今はV字に壁が造られている。
一見すると分からなかったが、上から見ると、Wがならび大草原状態。
再奥側の頂点へ、綺麗にあたらないと力は壁に付けられた角度によって流される。
せっかくの矢は、甲高い音を残して、壁にはじかれて矢が落ちる。
その後が、いつもと違った。
破裂音が鳴り響き、強力なつぶてが、オリエンテム王国兵を襲う。
六百メートル位、離れていたのに、兵達の体が粉砕をされる。
二十ミリのホローポイント弾は、思ったより強力だった。
そして、一斉射で動きを止めたと思ったら、騎馬が要塞から出発をする。
その兵の手には、対人用ショットガンが握られている。散弾銃だ。
粒のサイズは八ミリ前後。ダブルオーとか規格には準拠せず、適当に作ったもの。
それを、紙製の筒状薬莢に詰め込んだ。ダブルオーは八・三十八ミリ。
銃口の先には、発射された弾の広がりをコントロールする、チョークと呼ばれる絞りを入れてある。
完全に対人用。射程距離は、五十メートルがせいぜいだが、凶悪。
それを携えて、百以上の騎兵が出てきた。
オリエンテム王国兵からすると、完全なる予想外。
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