第15話 男のロマンは仕方が無い

「ラダーフレームをベースに、車を造ろう」

「その方が、後々応用が利くか」

「そうだな」


 テーブルの真ん中に紙を置き、思いついたことを書いていく、ブレーンストーミングという手法で話を詰めていく。それで造るなり、ディスカッションで問題があればKJ法で問題を系統立てて解決をしていく。


 KJ法は、文化人類学のフィールドワークによって得た、膨大な情報を効率的に整理する目的で生み出された。実際に使用される中で、本質的問題の特定や新たなアイデアの創出など、発想法としても優れた効果を持つ手法であることが分かり、近年使われている。


 KJは発案者である、川喜田 二郎先生のイニシャルだそうだ。


 前述の、ブレインストーミングとは、1950年頃にアメリカで考案されたアイデア発想法のようだ。


「しかし、足立が死んじまうとはなあ」

「ああ。しかし、サンプル採取に行って、五人だったか兵に守られて、生き残ったのは菊地 さやかだけか」


「安全な移動のためにも、車や電車は必要だ。何なら、一足飛びに戦車でも良いぞ」

「その前に、個人用パワードスーツが欲しいな」

 誰かが、ぽろっと言葉にする。


「それに一票」

「俺もだ」

「考えようぜ」


 どうやら、車がまだ出来ていないうちに、彼らは、パワードスーツを造るようだ。



「パワー伝達は、空気で良いだろ」

 関節部ににょろっと出ているパイプ。某アニメを思い浮かべる。


「指先でバルブをコントロール。圧を解放」

 関節部の試作品として、中点に関節に見立てた支点を置く。

 ぽちっとボタンを押すと、パシュンとすごい音がして……


 安全のために、離れた所でスイッチを入れると、関節をぶち壊して、拳に見立てた重りは、机にめり込む。

「おい。関節が折れた。生身だとやばかったぞ」


「ああ。テストは大事だな」

 皆が、逆に曲がった肘関節を想像する。


「でー。痛そう」

「関節の可動域には制限をつけて、絶対折れない様にしないとな」

「それに、思ったよりパワーがありすぎだ」

「なあに、ありすぎるパワーを落とすのは簡単だ」


 そして彼らは、フルアーマータイプの試作品を一月で仕上げた。

 アルコール燃料。ツインスクロールコンプレッサー搭載。

 背中に、ランドセルのようなエアタンクを背負った姿。

 二宮金次郎と言いたいが、実際は……


「どう見ても、○クだな。だれだよ、汚し塗装まで入れたやつは」

「ヘルメットが丸い形だし、それをベースに造るとこうなるよ。仕方が無い」

「角が欲しいな。陸戦だから○フでいいんじゃね」

 そう、○クの陸専用モデルが○フだと言われている。


「あーまあなあ。ところで、ランドセルのエアブロー。バーニャノズルがついているけれど使えるのか?」

「一〇センチくらいは浮いた。一発でタンクは空になるが、砂埃で目くらましに使える。ただ使った後はパワーサポートがないから、動きがすごく遅くなる」

「駄目じゃん」

 皆が笑う。だが本質は、ロマンだ。これだけは、女の子には理解してもらえなかった。



 後日。王宮の練兵場。

「あれが、サポートスーツと言うものか?」

「随分音がしますな」

 インフィルマ=パリブス王と宰相マルムベルム=アスセナも見ている。


 二体のサポートスーツ。中には、裕樹と雄一。


 対するは、騎兵を含めた一小隊。

 騎兵五。弓隊五。槍隊五。騎士一〇。歩兵二〇。


 危険回避のため、装着せず矢が放たれる。

 幾度も試したので、問題ない。

 次に、槍隊が攻撃を行うが問題ない。


 安全第一設計。真っ直ぐな所は減らし、曲面で構成されているため。まともに突けない。


「うむうむ。素晴らしい。しかしあの模様は何じゃ?」

「迷彩と言って、草木の茂るところで、目立たぬようになっているとのことです。その場に合わせて色を変えるとのこと」

 王が驚きながらも、うんうんと頷く。


「ほほう。色々考えておるのう。さて、装着して、武器はハルバードというのかの?」

「そのようでございます。持たせて貰いましたが、重くて持てませんでした」

「ほう」


 装備は、腰に下げた長剣と、ハルバード。長い斧。戦斧(せんぷ)と呼ばれるもの。この世界にもある様だが一般的ではなく、柄まで金属の物はないようだ。



「じゃあやるか。お互いの背中は任せたぞ」

 そう言って、裕樹と雄一は、つい手を合わせて、お互いにはじけ飛ぶ。


「力加減をしろ。二台しかないんだから壊すなよ」

 チームの皆は、中身よりスーツの方が大事なようだ。


 ハルバードは危険なので、単なる木の棒で今回は行う。

 騎兵達が突進し、相対する二人は元々この世界の人間より二回りは大きい。

 それが、スーツのおかげで二メートル近い。


 大きなボデイが、バシュッという音とともに移動する。

 今回は、お披露目なのでしないが、馬すらノックアウトが出来る。

「おお。早い」

 周りから、驚きの声が漏れる。

 大柄な物が早く動くと、違和感を感じる。


 あっという間に、騎兵達の頭に攻撃をした後、騎士たちにぶちかましをする。

 勢いがあるため、三人から四人程度なら押し返せる。


「ありゃ、歩兵は駄目だな」

 見ていて危険なため、歩兵には入らないように伝える。


 棍棒の一振りで、騎士達の鎧がベコンと大きくヘコむ。

「かなり脆いな」

「この国貧乏だから、装備がショボいんだよ」

 一緒にスーツを造った、井上忠男と坂本秀彦がぼやく。


 その言葉が聞こえたのか、王と宰相は苦笑いだ。

 とにかく、実用にはなりそうだ。

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