ミストリアンエイジ
幸崎 亮
Welcome to The World of MYSTLIA'S.
第1話 ミストリアンクエストの世界へ
この世界は
どうしてこうなったのかはわからない。世界統一政府による人類教育プログラムは、「すべて人間が悪い」としか教えてくれないから。
僕らには知る必要はない。知るべきことだけを知ればいい。
いわゆる、ニード・トゥ・ノゥってやつなんだと思う。
◇ ◇ ◇
「ただいま」
本日も無事に労働義務を終え、僕は政府から与えられた居住室へ戻る。すると僕の声に反応し、真っ暗な壁から明るい光が
当然ながら、ここは地下だ。人工的な光によって形成された
それは抑圧された世界からの解放には程遠い、あまりにも
それでも僕らは空を求め、手を伸ばし続けている。おそらく人間という生物は、空の
「――うん?」
ふと気づくと、部屋の入口にある配給品ボックスの中に、見慣れない郵送箱が入っていた。箱には
「へぇ。本当に届いたんだ」
僕は帰宅後の労働者に定められている
〝ミストリアンクエスト この世界では、あなたは何にでもなれる〟
ケースの表面には、シンプルなタイトルとキャッチコピー。
裏面にはプレイ中らしき人物の画像と、簡易的な説明が書かれている。
「製作・
書かれた文章の中でも特に目を引く、制作団体らしき名称。
なんというか、明らかに
「異世界ね……。本当に
地球は、もう
多くの人々の間では、そういった
なかには本気で異世界に移住しようと〝
そう。異世界転生とは名ばかりの、単なる〝自殺〟だ。
みんな何かしらの理由をつけて、〝この世界〟から逃げたがっている。
もちろん、僕だって例外じゃない――。
僕ら〝最下級労働者〟は使い捨て。未来なんて、無いんだから。
僕は少し
今どき〝ディスク〟を使うだなんて。
機械が正常に動くことを確認した僕は後頭部の黒髪をかき分け、
「まあいいや。とにかく試しにやってみよう」
機械を繋いだ状態で、僕はベッドの上で
少々硬めの枕といったところだろうか。それほど寝心地に違和感はない。
まずは
どうやら、おおよそのプレイ時間は八時間らしい。それくらいならば、このベッドが自動的に
「
僕は起動の言葉を唱え、そのまま静かに目を
すると機械が動作を始め、ゆっくりと僕の意識を吸い上げはじめた――。
◇ ◇ ◇
真っ暗だった視界がやがて、霧がかったかのように真っ白な光景へと変化する。
どうやら仮想世界への接続は、問題なく成功したらしい。
「――さて、どうすればいいんだっけ」
僕は脳内に刻み込んだ操作方法を呼び起こしながら、自分の手足も見えないほどの白い空間を、ただ真っ直ぐに歩いてゆく。
すると僕の聴覚に、中性的な声が
「ようこそ、ミストリアンクエストの世界へ。私は
GMとは、おそらくゲームマスターのことだろう。ミストリアと名乗った音声は
要するに――これから僕は望みの
そこで
「まずは、あなたの情報を登録いたします。八文字以内で名前を決めてください」
「えっ、名前か……。うーん、じゃあ――お試しということで〝アインス〟で」
「わかりました。――これより、アバター・アインスの
なんとなく本名を登録するのも気が引けてしまい、僕は〝一番目〟を意味する単語を名乗った。何なら、アルファやイチローでも良かったかもしれない。
すると少しの間をおいて、ミストリアが再び音声を発する。
「――登録が完了しました。親愛なる旅人・アインス。それでは、よい旅を」
そう言い終えるとミストリアの存在は消滅し、白い空間に僕だけが取り残された。
何はともあれ、これでようやく、ゲームの世界に入ることができる。
僕はミストリアから説明されたとおり、自分の〝なりたい姿〟をイメージしながら霧がかったような空間内をひたすら真っ直ぐに進んでゆく。
金髪・
外見年齢は――うーん、無難に十八歳くらいがいいか。
どうせなら、
なにせ最近のゲームだと、自由に
――さて、頭の中のイメージも固まり、自分の
いかにもファンタジー風の厚布の服に、腰には片手持ち用の剣がぶら下がっている。鏡が無いから顔は見えないけれど、チラリと見える前髪は、ちゃんと金色をしているようだ。
◇ ◇ ◇
やがて霧も少しずつ晴れ――。
気づくと周囲には、
視覚以外にも、温かい日差しや風の感触、草や生物の
もちろん本物を見たことなんてないけれど、ものすごいリアルさだ。
僕は自然と、大きく両腕を広げながら深呼吸をしていた。
「へぇ……。思ったよりすごいな」
何よりも、こんなに大人しい〝植物〟は初めてだ。
僕は生命力に満ちた柔らかい土を踏みしめながら、まずは目の前に見える小屋を目指すことに。
――しかし、そんな穏やかな僕の気分を吹き飛ばすかのように。
不意に〝畑〟の方角から、絹を裂いたかのような少女の悲鳴が響いてきた!
「きゃー! やめてっ! 来ないでっ――!」
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