とおりあめ
春川晴人
前編
「あ〜、やっべぇ。傘持ってくんの忘れてた」
わたしは軒の下で雨宿りをしていました。
青年のその声にハッとして、ゆっくりと彼の横顔を拝みます。
「すんません。おれも一緒に雨宿りしていいっすか?」
こくり、とひとつ頷きました。断るなんて、とてもできません。
でもまさか、こんな場所で会えるだなんて。
夢みたいなことって、あるんですね。
彼の成長ぶりに心があたたかくなってきます。
そんなこと、わたしが言える立場ではありませんのに。
大嫌いな雨でも、役に立つことがあるのですね。
「なかなか止まないっすね? 単なるとおり雨だと思うんですけど」
彼の笑顔がまぶしくて。涙が溢れてしまいます。立派になったね。
「あれ? でも段々明るくなってきたっぽいすよ? ……あれ? あの人、まだ雨降っているのに、いなくなっちゃった。大丈夫かな?」
わたしの未練は、ここでようやく果たされました。
とてもたくさんの時間がかかりましたけれど、これで、安心して成仏できます。
つづく
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます