とおりあめ

春川晴人

前編

「あ〜、やっべぇ。傘持ってくんの忘れてた」


 わたしは軒の下で雨宿りをしていました。


 青年のその声にハッとして、ゆっくりと彼の横顔を拝みます。


「すんません。おれも一緒に雨宿りしていいっすか?」


 こくり、とひとつ頷きました。断るなんて、とてもできません。


 でもまさか、こんな場所で会えるだなんて。


 夢みたいなことって、あるんですね。


 彼の成長ぶりに心があたたかくなってきます。


 そんなこと、わたしが言える立場ではありませんのに。


 大嫌いな雨でも、役に立つことがあるのですね。


「なかなか止まないっすね? 単なるとおり雨だと思うんですけど」


 彼の笑顔がまぶしくて。涙が溢れてしまいます。立派になったね。


「あれ? でも段々明るくなってきたっぽいすよ? ……あれ? あの人、まだ雨降っているのに、いなくなっちゃった。大丈夫かな?」


 わたしの未練は、ここでようやく果たされました。


 とてもたくさんの時間がかかりましたけれど、これで、安心して成仏できます。


 つづく

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