リンク第1話

 僕は音楽家の家系に生まれた。そのためか、物心がついた頃から、ピアノを習っていた。

 だから、演奏には絶対の自信があった。 

 だけど、歌が壊滅的に下手だった。

 演奏家としては、良い。しかし僕がなりたかったのは、ヴォーカリストだった。

 なのに、歌が下手では駄目だった。聴く相手を不快にさせてしまう。 

 歌が下手クソなのは、何度もボイストレーニングをしたが治らなかった。

 僕は、親に勧められるがままに、地元の音楽学校に進学した。

 音楽学校に進学した僕は、そこでもボイストレーニングをしたが、歌の下手さは治らなかった。演奏だけは良いのに。

 完膚なきまでに、ヴォーカリストとして駄目だと叩きのめされている時、僕はソイツに出会った。


 ソイツは僕より、1つ年下だった。その時は偶然だと思った。だけど今思えば、必然の出会いだったと感じる。

 ソイツは、ヴォーカリスト科で僕は演奏科。本来なら出会うはずはなかった。

 僕が留年していなければ。

 僕は歌の下手さにより、自分の演奏にも自信が持てなかった。だから、ビックリしたのだ。ヴォーカリスト科と演奏科の合同授業の時、ソイツがアカペラで歌い出した時には。

 楽器が出来ないのか?

 衝撃を受けた。歌だけで音楽の世界に来たヤツがいるのかと。

 しかし、衝撃を受けたのはそれだけでさなかった。

 ソイツの歌声はとても綺麗で美しかった。

 身体中に電撃が走った。

 ああ、ソイツのために演奏したい。

 そう思ったら、身体が勝手にうごいて、キーボードの前に座っていた。

 そして、ソイツの歌声にあわせて、伴奏を始めた。

 次第にソイツの歌うリズムが分かって、気付いたら呼吸をするように、演奏が歌とシンクロをはたしていた。

 ソイツが歌い終え、後奏を引き終えると皆が拍手していた。

 ソイツは僕の方を振り向き、満面の笑みを見せて、親指を付き出して見せた。

 ソイツの笑顔に僕ははにかんだ。


 僕は、それから休み時間にソイツとセッションするようになった。

 とても有意義な時間だった。だが、僕にとある問題が発覚する。 

 単位が足りないのだ。

 いくらこれから授業をきちんと受けようとも。

 僕は留年か辞めるかを迫られた。

 僕が選んだのは後者だった。

 ソイツの歌にもうメロディーは乗せられない。

 後ろ髪引かれる思いはないとは言えない。だけども、ソイツのために頑張れた自分もいると言い聞かせた。

 そして、ソイツに言った。学校を辞めると。

 ソイツの瞳が沈んだ。

 けれどそれは少しの間だけだった。

 ソイツは僕の瞳を見て言った。

「俺も学校辞める。だから一緒にプロミュージシャン目指そう」

 そう言われ僕はとても嬉しかった。

 泣きそうになりながら僕は頷いた。


 ソイツと僕は学校を辞めた。プロミュージシャンになるために。


 ソイツと僕は、路上ライブをそれから始める。

 最初は誰も足を止めてくれる人はいなかった。

 だが、根気よく続けていると、1週間後に、ちらほら足を停めてくれる方々が現れ始める。

 1ヶ月経つと、いつも聴いてくれる方々がいるのが分かった。

 半年後、もう人だかりが出来るほど、足を止めて聴いてくれる方々がいた。

 その時、スカウトされる。プロミュージシャンにならないかと。


 それから半年後、ソイツと僕はライブハウスでデビューする。

 ライブハウスいっぱいに人が集まった。

 デビューは大成功だ。


 そこから、凄い勢いで話が進み、テレビ出演の話がまとまった。

 順番はトップバッターだった。

 それにしては不思議と緊張感はなく、 高揚を感じた。

 名前を呼ばれ、キーボードの前に座る。

 僕は前奏を奏で始める。

 ソイツが足でリズムを取りながら、歌い出す。

 やがて、曲のラストに近付くと、背中にソイツの重さを感じながら、力強く、後奏を弾き終える。 

 暗転。

 盛大な拍手でテレビデビューを終えたのだった。

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