クロスリンク 完全版

浅貴るお

クロス第1話

 ああ、俺は音楽の道に進みたい。そう思ったのはいつからだっただろう。物心ついた頃には歌い始めていた。

 歌は独学だが、たくさん歌い練習して来た。なので、歌唱力に自信があった。しかし、俺には楽器を奏でる才能がなかった。

 最初に触れたリコーダーは勿論吹けなかった。

 ピアノ、ピアニカ、ウクレレ、ギター、ドラムなどetc。

 どの楽器も出来なかった。

 そんな自分に絶望した時期もあった。だが、歌は上手いよと皆から言われていたことにより、歌唱に関しては自信を取り戻していた。

 そして俺は18才の時、都心にある音楽学校に進学した。

 それから、数ヶ月後。

 俺は運命とも言えるアイツに出会うことになる。


 アイツと出会ったのは、偶然だった。いや、今考えると必然だったと思う。

 ヴォーカリスト科と演奏科の初めての合同授業の時だった。

 俺は楽器が出来ないため、自分で作詞した歌を自分の手拍子にあわせて歌った。

 皆、俺に呆れ果てていた。

 楽器が出来ないヴォーカリストなど、見たことがなかったからだろう。だけど、アイツだけは違った。

 ハトが豆鉄砲食らったような顔をしていた。

 最初は皆と同じで、呆れていたのかと思っていたが、アイツの顔が真剣なものに変わったからだ。

 そしてアイツは一人、キーボードの前に来て、即興で俺のリズムにあわせて、鍵盤を弾いたのだ。

 その鍵盤の音を聴いた瞬間、俺の体に稲妻が走った。

 この音。このリズム。ヤバい。とても心地よい。

 俺の歌が終わり、アイツの演奏も終わると、気付いたら、拍手が沸き起こっていた。

 初めて会ったはずなのに、アイツと俺はシンクロしていた。

 拍手の中、俺はアイツに向かって最高のスマイルを見せて、親指をグッと上げた。

 アイツはハニカミながらそれに応えた。

「こちらこそ」


 それからは休み時間は二人で一緒に、作詞作曲した。

 とても有意義な休み時間。だか、そこに思わぬ問題が発生する。

 アイツの授業の単位が足りないことが発覚したのだ。

 確かにアイツは学校を休みがちだった。そのため、毎日セッション出来ずにはいたが……。


 アイツが学校を辞めることが確定した。

 アイツが学校から居なくなってしまう。そうしたら、セッション出来なくなってしまう。

 俺は凄い悲観的になった。

 しかし、とある結論に至ると気持ちが楽になった。

「俺も学校辞める。それで、二人でプロミュージシャン目指さないか?」

 アイツにその気持ちを伝えると、アイツは目に涙を浮かべ、「ああ」と答えた。


 それからアイツと俺は、学校を辞めてプロミュージシャンを目指すことになった。


 それからは、駅前広場でストリートライブをしてみる。

 勿論、最初は見向きもされなかった。

 が、1週間すると、足を停めて聴いてくれる人が現れた。

 それから1ヶ月経つ。そうすると、2、3人は顔馴染みの人が足を止めてくれるようになる。

 半年経つ頃には、10人は超える人だかりが出来るようになっていた。

 そこで、スカウトに会う。


 アイツと俺がプロミュージシャンデビューすることが決まる。

 デビューしたのは、それから半年後。

 アイツが21。俺が20の時だ。

 デビューはライブハウスで行われた。

 広報のおかげか、ライブハウスは満員だった。


 それから、トントン拍子で話が進み、テレビ出演が決まった。

 テレビで、全国で放送される。

 一番手で、歌うとのことだったが、ホールを前にして、さほど緊張はなかった。

 むしろ高揚感が凄かった。

 それはアイツも同じだったと思う。

 名前を呼ばれ、ホールに立つ。

 そしてアイツがキーボードを弾き始める。

 俺は足でリズムを取りながら、出だしを窺う。

 歌い出す。

 曲の終盤に差し掛かる時、俺は振り向き、アイツのキーボードを弾く背中を見た。

 少しずつアイツに近づき、俺は背をむける。背中合わせになる。

 歌い切ったあと、俺はアイツの鍵盤の余韻にひたりながら、アイツの背中にもたれ、体を任せた。

 曲が終わり暗転。

 盛大な拍手が沸き起こった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る