捨てられた大地の辺境伯は元勇者

うめとう

領地開拓

第1話 帰還、勇者追放


「勇者よ、よくぞ、魔王を討ち取った!褒めて遣わすぞ!」


偉そうに賛辞を送るヒゲのおっさん…もとい、皇帝の前に跪く黒髪黒目の何処にでもいそうな平凡な顔つきの冴えない俺は勇者だ


ホント、なんで俺なんかが勇者なんだろうか…

元々は農民だった、畑を耕して作物を育てる毎日に不満はなかったし、小さい頃に両親が死んでも村の人達に育ててもらった、村の皆とも仲良く平和に暮らしていたのに、村に魔物が押し寄せた…


幼馴染の女の子が魔物に食い殺されそうになるのを見て目の前が真っ白になった、気がつくと魔物を殴り殺していた…手の甲には変なアザが浮かび上がっていた


その後、駆けつけた兵士に連れられ、この帝都までやってきた俺は古い言い伝えの勇者と同じアザを持つということで勇者として魔王の討伐を命じられた…


今まで農民として生きていた俺にそんな度胸もあるはずもないのだが、断れば命がないと分かったので命じられるまま旅立った…


共として、賢者、聖女、剣聖といった実力者が揃えられていたが実際は俺が逃げないように監視役だろう


しかし、この3人、俺の扱いが酷い、自分は貴族だからと俺を小間使いの用に扱い、旅の準備、食糧の手配、炊事洗濯etc…全て、俺に押し付けた

戦闘もやったこともないのに俺だけが駆り出され、街の防衛や依頼なども当然俺しか働いていない、にも関わらず報告だけは自分達でして、報酬の取り分を3人で分け、俺には必要最低限の金しか渡されなかった…


不満しかなかったが、奴らの強さは本物で俺では歯向かえばボコボコにされるだろうし、最悪殺される、なので生き残る事に必死だった俺はとにかく強くなる為に励んだ、魔物より魔王より、コイツらよりも…


そして10年間の旅は終わりを迎えた…こんな奴らと10年も共に旅をした俺を誰か褒めて欲しい

まぁ、死に物狂いで努力したおかげで、賢者以上の魔法、知識、聖女以上の神聖魔法、剣聖以上の剣技を身につけた俺に流石に命令はして来なくなったが、嫌悪なのは変わらない


よくこんなメンバーで魔王を倒せたなって?

10割俺が戦いました

開幕直後に3人は吹き飛ばされてダウン、使い物にならない、役立たずにも程がある…


結局、魔王とは一騎討ちとなった


そして、帝都へと帰還した俺は何故か凱旋する3人とは別に先に城に連れられ王の前に放り出された


「本当によくやってくれた、余から賛辞など農民のお前からしたら天上の栄誉であろう、ありがたく受け取るのだ」


「…は、ありがたく頂戴いたします」


ホント、偉そうだな…自分を神だとでも思ってんのか?この親父…


「しかし、賛辞のみというのも味気ない、よって其方には領地を与える」


領地?いらない…すごくいらない…俺は農民だぞ?それなりの金さえ貰えれば村の人達に恩も返せるのに…領地なんか貰ってもしょうがないだろ!


「与える領地はカルバード領だ、そして領主なら其方には爵位も授ける、喜べ、辺境伯だぞ?其方はカルバード辺境伯だ!」


…………オーケー、分かった、これはあれだ…

お役御免、厄介払い、追放…なんでもいいが追い出されるわけだ


カルバードは帝国の最北端、隣接するのは魔王領と言われる死の大地、そこから流れる瘴気のせいで命なき荒野が広がっている

そんな所の領主だと?明らかに俺の存在を邪魔と思ってるな

恐らく、用済みの俺を暗殺でもするつもりだったのだろう、しかし、強くなりすぎた俺を殺せそうにもないので、辺境へ送ってしまおうという魂胆だ


これは、あれか?あの3人もグルだな…恐らく今、あの3人と俺の代わりに勇者として凱旋している奴がいる…確か皇帝には息子がいたな…その姿がない事から十中八九その皇子が勇者として民衆には思われているだろう…


やってくれるこの親父…さて、どうする…首を刎ねようかな…正直帝国にいや、この世界に俺より強いやつなんかいない、あの使えない3人と帝国軍が纏めて襲ってきても無傷で返り討ちにできる自信がある


しかし、追われる身になるのも避けたい所だ、逆恨みで村の皆に迷惑がかかる可能性がある…


待てよ?カルバードってここからかなり離れてるよな…よっぽどのことがない限り干渉もしてこない筈…なら


「はっ!ありがたく頂戴いたします」


追放されてこんな屑どもから離れよう…

こうして俺、勇者改めて

カルバード辺境伯ジン・カルバードとなった


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