第23話 スペアリブ

 座敷に、4人の客。

 とりあえずで持っていく酒は、日本酒の辛口と、芋焼酎のお湯割りと、生ビール。


「大将、今日は保護者同伴だから、見逃してくれないかい?」

「へい」

「魔王ちゃんは保護者って認められてなかったんだねぃ」

「やんのかごら」

「まァ、ちっせぇからな……」

「わたしやるっていったらやるこだよ?」


 それと、大盛の米である。


 今日の客は奴隷少女と、クラーケン賢者と、武者髑髏と、幼女魔王。

 大所帯だった。

 異様な集まりだが、そもそも人間の形に近い客の方が少ないのが、魔王城である。


「それじゃあ、だいはちかい。てんくーとし しっついけいかく……」

「魔王ちゃんお腹空いた!!!」

「たいしょーなんかあげちゃって」


 マジメに切り出そうとした幼女魔王。奴隷少女に弱すぎる。


「かぶりつける肉が良い……そう思うんだ。あたしは」

「わかさをかんじるちゅうもん」

「ボクよりも年下だからね、そりゃ若いだろうさ」


 この場での年齢は、幼女魔王が最高齢。次いで武者髑髏、クラーケン賢者である。

 奴隷少女は種族:人間らしいので、納得の順番であった。


「んじゃ、すぺありぶかな。たいしょー!」

「へい」


 最古参の常連である幼女魔王、流石のメニュー把握度である。

 時空在庫に貯蔵があった筈だ。


「へい、おまち」


 という事で、スペアリブである。

 骨付きのまま漬け、じっくり焼いた品だ。

 照明で油とタレがテカテカ、どろりとしている。


「わぁい!」

「……ゆーしゃ、さきたべてていいよ」

「魔王ちゃん太っ腹!」


 箸でスペアリブを威嚇する、奴隷少女。

 その横の大人三人組は、どこかキリッとした顔で、小難しい話をはじめた。


「かいろだめだね」「時空魔法で軍勢を動かすのはダメなのかい? 接続はできたろう」「大将が動いたら天空都市で略奪できる品がなくなるぜェ?」「でもむしゃどくろでも落とせなかったでしょ?」「ハッハッハ」「やはり勇者に爆弾を括りつけるべきじゃないかな?」


 仕事の話らしい。居酒屋まで持ち込むという事は、中々大変なのだろう。

 その点未成年はよいものである。

 小難しい話の三人をしりめに……箸を動かす、奴隷少女。


「わっすごい……箸だけで肉外せる……」

「においきてるからじっきょうしないでいいよゆーしゃ」

「ね、ね、魔王ちゃん。あーん!」

「あーんって、だからわたしはしごと……ぱくっ」


 あーんされたら抗えない、幼女魔王だった。

 もにゅもにゅする、幼女魔王。


「……とろじゅわ……にくじぅ……!!」


 仕事モードの顔が、一瞬で消えた。


「うん。お米にも合うね。大将さん良い腕だよ」

「へい」

「……」


 静かに頷く、幼女魔王。


「っぱはぁ!!!!」


 ジョッキが空になったので、今夜はもう仕事の話は無理そうだった。

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