第20話 モツ鍋

ふゆはなべ冬は鍋きゃべつホクホクはいふべきにもあらずキャベツほくほくだと最高。もういう事あらへんモツのいと白きも、またさらでもモツ白かったらもう神やいと寒きに寒い日にさ汁などいそぎおこして汁をさ酒もてわたるもいとつきづきし酒と一緒に流し込もうぜ


 枕草子になってしまった、幼女魔王。

 ご機嫌である。


「もつなべぇー!!」

「へい」


 奴隷少女から解放されたらしい、幼女魔王。

 今日はひとり飲みであった。

 ひとり飲みで、鍋の専有である。それは嬉しくもなろう。


「へい、おまち」

「ぷぉっふぉーう!」


 ドシンとカウンターの鍋敷きに置いたのは、モツ鍋である。

 ふつふつと良い香りをさせ、ニラどっさり。モツもどっさり。鷹の爪やにんにく、キャベツも決して忘れない。


「たいしょー」

「へい」

「ふゆになべはね、はんざいなの」


 犯罪らしい。俺も年貢の納め時だろうか。思えば悪い事ばかりしてきた。

 さておき。


「いただきまぁー!」


 大きい鍋を独り占めにする幼女魔王、魔王である。


「もにゅしゃくがつがつぱはぁーあーぁ!!!」


 最近はぱはぁれてなかった分、ジョッキを呷るのも良い勢いだ。

 本当は体調を鑑みて止めたい所だが。

 今日は華の金曜日なので、良い事とする。


「しょかんなんだけれど」


 所感を述べる、幼女魔王。


「へい」

「モツなべね、ほかのなべよりね」

「へい」

「しょっぱうぇひーなかおりする」

「なるほど」


 しょっぱうぇひー。どんな香りかは分からないが、なんとなく伝わった。

 モツの良い匂いと、ニラ系の香草パワーだと思われる。

 苦手な人は苦手だろうが、幼女魔王はうぇひーらしかった。


「うぇっへっへっへ……このうみはわたしのものぉ……」


 鍋を海に見立て、魔王っぽい顔と発言をする、幼女魔王。


「だれにもわけないでいー……う゛ッ」


 突然ダメージを受ける。

 襲撃だろうか。呪詛系への結界は既に張ってあるので、内臓系だと思われた。


「どうしました、魔王様」

「……たいしょー」

「へい」

「きづいちゃった」


 気付いてしまったという。


「しめらーめんまで、ひとりでたべれるほど、わかくない……」


 気付かなければ幸せでいられたのにな、と思った。


「んむー」


 唸る、幼女魔王。

 モツでつやつやした可愛い唇を尖らせている。


「ま、いいや」


 良いらしい。何がだろうか。


「ふっふっふ……」

「へい」

「『おこめたべたかったらいうこときけー』せんげんでね、もうすさまっじーきてんでね」

「へい」

「ゆーしゃかんらくしたので こう もういいや」


 勇者を陥落させたから何が良いのだろうか。


「しめらーめんじゅんびしといて!!!!!」

「……へい」


 お腹壊さなければいいけどなぁ、と思いつつ、麺は用意した。

 翌日は胃もたれしたらしい。


「うぇっへっへ」


 今は幸せそうだった。

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