第19話 塩鮭
魔王城の客は酒とツマミばかりなので、あまり出番がないメニュー。
という事で。
「へい、おまち」
「……白いッ!」
炊き立ての白米、大盛である。
お茶碗を受け取った奴隷少女の笑顔が心地よい。
「白い! つやっつやしてる! ねぇ魔王ちゃん見て!? おこめ!」
「さけのめないわたしにおしつけないでほしい」
「どうやって異世界でこんなお米を!?」
「土鍋です」
「土鍋かぁ」
「……あしたはひとりでもつなべしてやる……」
ジョッキ1杯を大事に大事に舐めている、幼女魔王。
そのしょんぼりとした感じとは対照的に、奴隷少女はどんどん元気になっていく。
「大将さん、日本人でいらっしゃる?」
「今の国籍は魔王城ですね」
「魔王城って国か……?」
「くにだよ」
不満げな声の幼女魔王を無視し、食べ始める、奴隷少女。
お茶碗と箸の扱いが上手い。日本人なのかもしれない。
昔滅ぼしたつもりだったが、やはりまだまだ居るようだ。
「うまい、銀シャリだぁ……甘い……つぶ立ち……」
「……たいしょー! わたしにもなんかぁ!」
「へい」
幼女魔王がカウンターで愚図りはじめたので、なんとかする。
流石にお米だけで晩御飯をあげた事にするのは可哀想だったので、丁度いい。
ということで、焼く。
「さかなっ」
「赤い。なるほどね?」
何か納得して、指を「やるじゃん」という感じに鳴らす、奴隷少女。
「へい、おまち」
焼いた、塩鮭である。
もう一回奴隷少女の指がパチンと鳴った。予想的中らしい。
「待ってましたぁ!」
「あ、しょっぱくてうまいやつー!」
「何年ぶりの焼き鮭定食かなぁ……」
骨を一瞬でほぐして取る、奴隷少女。箸捌きがこの世界の人間ではない。
対する幼女魔王は骨ごと、身だけを先に食べとった。
「しょっぱい うまい さけがたりない」
「魔王ちゃんも、お米食べればいいのに」
「まぞくのいが むげんだと おもうなよ……」
さり気ない奴隷少女の一言に、殺意の視線で返す、幼女魔王。
奴隷少女は一切気にしないで、まだ食べる。
「あー……塩っけ……お米には、良いっすねぇ……」
「かわ! かわたべなかったらちょーらい!」
「一番おいしい部位なのであげませーん」
「ぐぎがが」
呻きながら、残していたパリパリの皮をがじる、幼女魔王。
「……うぅ、ちょっとどろり、ぱりぱり、しお……おさけぇ…………!」
「お米食べれば良いのに……」
ビールおかわり禁止が効いているらしい、幼女魔王。
「うぅ……ゆーしゃぁ!」
「なぁに魔王ちゃん」
「たべおわったら、どくぼう、かえろうね!!!!」
「はーい」
「へい」
可哀想だった。
が、未成年を早く家に帰す事はできそうなので、良かった。
「あ、大将さん。味噌汁ありません?」
「へい、すぐに」
「んぐぎがぁ!」
幼女魔王も食べた。美味しかったらしい。
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