第15話 燻製卵
開店から10分。
カウンター席には、ジョッキを早速空にした、幼女魔王。
「たいしょー、くんたまー!!」
「へい」
「くんたまっ、くんたま…………」
小さな手をぶんぶんしながら、最近お気に入りのメニューを連呼している。
何が楽しいか分からないが、楽しいようである。
「くんたまってひびきがね、こう、れんこ……したくなる」
「なるほど」
くんたま。たしかに妙に語呂が良い。言いやすいし。
作る方も、調達したものを盛ればできるので、そこそこ楽だ。
「少々お待ちを」
「くんたまー」
時空在庫を確認する。
「あ」
「どったのたいしょー くんたま!」
「最後の2個です」
「らっきぃ!」
やりぃ! と指ぱっちんする、幼女魔王。
ということで。
「へい、おまち」
「くんたまー」
という事で、燻製卵である。
流石に魔王城内の居酒屋では作れないので、人間の国で調達したものを、時間停止してホカホカ状態で保存したものだ。
仕入れの関係で、常に数量限定である。
「いひかほり…………」
ルビーの瞳を細め、皿に盛られた良い色の燻製卵に思いを馳せる、幼女魔王。
「とろぉ……」
箸で割れば、見事にどろりである。
「いただきま」
パクつこうとする、幼女魔王。
「大将さん、いつものお願いします」
「へぁっ!?」
「へい」
そこで暖簾をくぐってきたのは、新人闇落ち女騎士である。
レモンサワーを作り始める。彼女のいつものはこれしかない。
「あ、魔王様……って」
「……」
「それ卵……ですか? 中身まだ柔らかそうですけど……あ、良いかおり」
幼女魔王の隣に座る、新人闇落ち女騎士。
その視線の先は、燻製卵。
「お……」
「はい?」
割ってない方、まだ食べていない1個を見つめて、頷く魔王。
「おんなきしも、たべるか?」
「えっ? 良いんですか、やったぁ」
残り2個、数量限定の燻製卵、の内1つ。
「むっ……これは不味いですね。わひゃります」
ぱくつく、闇落ち女騎士。目がきらきらしだす。
「よかったぁ」
幼女魔王は良い子だなぁ、と思った。
「……くんたま……」
今度はもうちょっと多めに仕入れる事にした。
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