第7話 じゃがバター
「しょせん、ふかしたいもと、バターなのにねぇ」
「へい」
「おいしいねぇ……」
そういう幼女魔王は、じゃがバターひとつを食べ終え、生ビールで口の中を洗っている所だった。
開店から、既に30分ほど。
今日の幼女魔王は、じゃがバターの気分だったらしい。
「ほくじゅわしょっぱ、だねぇ……」
「へい」
「あぶらとたんすいかぶつと、ちょっともさっと感がね、いいのよね……」
「へい」
だいぶご満悦の様子である。
ご満悦の様子だったが、メニュー石板を手に取っている辺り、満足ではないらしい。
「んーむー……」
空の皿と、空のジョッキを前に、悩む幼女魔王。
仕事の悩みではなかろう。
次のツマミは何か、考えているのだ。
「たいしょー」
「へい」
「じゃがバター、もいっこちょーだい」
「……へい」
芋を洗い、蒸かしに入る。
珍しい事だった。
だいたい、いつもの幼女魔王は内臓を心配して、ツマミは基本1品のおかわりなしである。
代わりに、生ビールは水のように飲む。
「ふっふっふ……たいしょー」
「へい?」
「わたしにはね、かんがえがね、あるんだよ」
酔っ払い赤ら顔に、えらそうな腕組の、幼女魔王。
「しおからもちょーらい」
「へい」
塩辛。
じゃがバターに塩辛とくれば、あとはもう読めたものだった。
「へい、おまち」
「さいきょーのふじーん……!」
最強の布陣らしい。
ほかほか湯気をあげ、溶けかけのバターが金色の、じゃがバター。
その横の小皿、少しひんやりとした、いかの塩辛。
「いただきまー」
躊躇なく、塩辛をじゃがバターにのせる、幼女魔王。
「ひんやりじゅわほくしおしおぱぁ……ぱはぁ」
空のジョッキをひとつ増やす、幼女魔王。
「かったね」
「勝ちましたか」
「だいしょーりだよ、こんなの。うぇへへ…………」
大勝利らしい。
じゃがバターが大きいので、小さな口では食べるのに少し時間がかかる。
唇がつやっとして。
それをおかわりのビールで流し込む、幼女魔王。
「うぇへへへ…………」
笑みが止まる気配がしない。
「うん。そだね、やっぱりねぇ……」
「どうしました」
「うんとね、えっとね。これね? おせーてもらったの」
教えてもらったらしい。誰にだろうか。
「さいきんはいってきたねー……くらーけんの子」
「……」
クラーケン。
イカの怪物がイカの塩辛をおすすめして良いのか、と思ったが。
「しゃーわせぇ…………」
幸せなら良いかな、となった。
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