第6話 筑前煮

 新人闇落ち女騎士初来店から、しばらく。


「たいしょー、いつもの」

「へい」


 久々に幼女魔王が一人で暖簾をくぐってきた。

 いつも通り、開店から10分くらいの事である。


「ひえるねぇ、どうにも」

「ですねぇ」


 漆黒邪悪マントを椅子の背にかける、ゴスロリの幼女魔王。

 冬着なので、少しもこもこ。

 寒いのに一杯目はいつもキンキンのビールなのだから、身体が心配である。


「んこくっ……ぱはぁ」


 流石に冷たかったのか、今日は一口でジョッキを空に、という感じではなかった。ちょびっと飲んでドシンっとジョッキを置き、メニュー石板を手に取る。


「んん-……ちくぜんになきぶん」

「レンコン多めですね」

「さすがたいしょー、わかってらっしゃる」


 という事で、筑前煮であった。

 冬はモツ煮に次いでよく出るメニューなので、既に煮てある。


「せかいへいわな かおりが する」

「どんな香りですか」

「だし」


 出汁は世界平和の香りらしい。


「へい、おまち」

「まってました」


 目の前にきた湯気に、小さく拍手する、幼女魔王。

 いつもはひょいっとぱくつき始めるものなのだが、今日は少し、ゆったりとしていた。


 ゴスロリぷにぷにな手で器用に箸を使い、鶏もも肉、シイタケ、こんにゃく、そして好物のレンコンと、具材一種類一種類をちょむちょむと摘まんでいく。

 間に、まだ残っていたビールを啜る、幼女魔王。


「……しみるねぇ」

「寒いですからねぇ」

「さむさには、あったかさだねぇ……」


 遠い目の、幼女魔王。

 いつもの酔っ払い幼女とは違う、実年齢1万5千歳らしいルビーの瞳であった。

 何かあったのか……と、俺からは聞かない。


「たいしょー」

「へい」


 幼女魔王が話したい時に、諸々は話されるのである。


「ちょっとね、なかよくなったよ」


 誰と、とは言わず。ジョッキをちょぴりとする幼女魔王。


「良かったですね」

「よかったぁ……」


 良かったらしい。


「わかいこ、のみにけーしょん嫌いだとおもってたけどね……うん」

「へい」

「おなじかまのめし、だねぇ」


 しみじみとレンコンをかじる、幼女魔王だった。

 俺にはよく分からないが。

 新人闇落ち女騎士とは、職場……もとい、魔王城でも、よくやっているようだった。

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