2〜きみを見つけて〜

 後ろから振りかけられた声に、璃仁ははっと振り返る。しかし、声の主は隣を歩く別の男子へと声をかけたらしく、璃仁に言葉を投げかけたのではなかった。ほっとすると同時に、羞恥が全身を駆け巡る。それほど気にしなくてもいいことなのかもしれないが、璃仁にとって、見た目のこと——特に服装や身だしなみについて指摘されるのは身に堪えることだった。


「こんぐらい大丈夫だって」


「そんなこと言ってたらモテねえぞ」


「おい、入学式の日から不吉なこと言うなよ〜」


 二人は同じ中学校から進学してきたのか、仲良さげな様子で肩を叩き合っている。新しい紺色のブレザーはまだ少し大きく、二人とも制服に「着せられている」感が否めない。でも、璃仁だって端から見れば同じように「着せられている」のだろう。どうか不格好にだけは見えませんように、と密かに祈った。

 周囲を見渡してみれば、璃仁が入学する県立東雲高校の制服を着ている新1年生が公道を占領していた。後ろから自転車に乗ったサラリーマンが気怠げにベルを鳴らすと、女子集団がさっと横に避けた。璃仁は自転車に轢かれないように道の端っこを歩いていた。坂を登ればもうすぐ学校に着く。高校の前の坂道には桜並木がここぞとばかりに植えられていて、入学式の今日、満開を迎えていた。


 普段、癖で下を向いて歩くことが多い璃仁だったが、この時ばかりは咲き乱れる桜の木を見上げながら坂道を登っていた。

 その時、坂道を登りきった場所——つまり、校門の前に佇む一人の女子生徒が目に飛び込んできた。


「あっ」


 自分の口からアホらしい声が漏れたことを、璃仁は意識することすらできなかった。なぜなら、そこにいる女の子が、先ほど写真投稿アプリで見かけた「SHIO」の写真とそっくりだったからだ。

 女子生徒の胸には青色の校章が付いており、璃仁よりも一つ上の2年生だということが分かった。ちなみに璃仁の学年は緑色の校章だ。彼女は桜の写真を撮りたいらしく、スマホを掲げて桜の花を見つめていた。璃仁のことはもちろん視界には入っていない。スマホ越しに桜を見つめるその横顔が、まるで作り物みたいに映って、璃仁は息をのむ。

 桜なんかより、自分を撮ればいいのに——。

 ふと心に浮かんだことが、どれだけ恥ずかしいことかを自覚する前に、後ろから誰かに肩をぶつけられた。


「あ、すみません」


 自分と同じ一年生の女の子だった。友達と喋るのに夢中で前を見ていなかったようだ。


「いえ……」


 璃仁の方も、桜を撮る女子の先輩に見惚れていたので仕方がない。ぶつかった女の子から、再び先輩の方へと視線を写したところ、彼女はもうそこにはいなかった。


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