幸せテロ、爆破まであと。

葉方萌生

プロローグ

1〜SHIOの投稿〜

【@kao_kisaさんが新しい投稿をアップしました! お気に入りの投稿を見つけてみましょう】



 電車の窓から差し込んできた朝日のまぶしさに、璃仁りひとは思わず目を瞑る。無意識に画面の上を滑らしていた親指を一瞬だけ静止させ再び目を開けると、反射して見にくいはずのスマホの画面に、写真投稿アプリの通知がはっきりと浮かび上がった。

 璃仁自身、写真投稿アプリ自体は鑑賞用で使っている。自ら投稿することはなく、時々こうして流れてくる他人の投稿を見るだけだ。


 今日も、学校の最寄駅に運ばれるあいだ、視界は四角い箱の中に閉じ込められていた。何気なくアプリを開き眺めているだけなのに、そこには璃仁が経験したことのない華やかな世界が広がっていた。友達と毎夜飲み明かす大学生、カラオケで熱唱する男女のグループ、菜の花畑で弾ける笑顔を浮かべる女の子。その中でも一際きらびやかな投稿をしている【@kao_kisa】というユーザーの投稿を、璃仁は人知れず追っていた。ユーザー名は「SHIO」と書かれている。「しおり」さんという名前なのかもしれない。だが、璃仁はこの「SHIO」とは知り合いでもなんでもなく、写真アプリ上で知っているだけだった。彼女は今日、「#新学期 #高校生3年目の桜」というハッシュタグと共に桜の花びらにキスをしているような写真を投稿していた。顔全体は桜で隠れていて、見えるのは艶のある唇と白い肌、少し茶色がかった長い髪の毛だけ。桜の花びらの向こうに、きっと美しい顔をした彼女がいるのだろうと想像が膨らむ。みるみるうちに「いいね」の数が増えていく。「顔見せて」「可愛い」「本当に綺麗」と肯定的なコメントが次々投稿される。璃仁は一足遅れて「いいね」を押した。



1年前くらいだろうか。璃仁が初めて写真投稿アプリを開いた時に、いくつかおすすめの投稿が出てきた。その中に「SHIO」の投稿があった。夕日をバックに花束を抱え、横向きで空を見上げている女の子の写真だった。


「可愛い」


 思わず口にしてから、周囲に誰もいないか確認した。その日、璃仁は高校の入学式に行く途中だった。今みたいに初めての通学電車に乗り、最寄駅を降りて学校まで歩いている時に見かけた幻想のように眩い女の子の投稿にため息が漏れてしまった。

 投稿された写真が本人なのか、はたまた誰か違う人物を撮ったものなのか確かめたくて、

「SHIO」のアカウントを覗いてプロフィール画像を拡大してみると、どうやら写真の女の子は「SHIO」本人らしかった。フォロワーはなんと10万人超。しかし公式マークなどはついておらず、モデルや芸能人でもなさそうだ。単なる一般人でこれほどのフォロワーがいるなんて、自分とは住んでる世界が違うのだと思う。


「お前、今日入学式なのに寝癖ついてんぞ」

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