冬へと走りだそう

ノーネーム

第1話 遠景

夕方の河川敷。小学生二人組が、土手に座りながら会話している。

「いよいよ明日、お前ともお別れか。」

「ああ。お別れだ。」

「お前と出会ってから今日まで、なんやかんやあったな。」

「あったな。入学初日に喧嘩して、先生に怒られたり…」

「夜の学校に爆竹仕掛けて遊んで怒られたり、

俺らが作った落とし穴に落ちた近所のヤンキーにボコボコにされたり。」

「ホント、お前といるとロクなことがねぇよ。」

「そりゃこっちのセリフだよ。」

一瞬、二人はいつもの癖で取っ組み合いに発展しかけたが、すぐにやめた。

「もうケンカ、できねぇな。」

「そうだな。」

「なんでお前、転校しちまうんだよ…」

「こないだも言ったろ?親父の都合だよ。」

「遊び相手いなくなっちまうよ。」

「そんなもん、自分でなんとかしろ。」

「…」

木枯らしが一陣、河川敷に舞い降りた。ススキがなびく。

「ああ、この街ともお別れだ。」

‘‘友達‘‘が、伸びをする。‘‘俺‘‘は、拳を合わせる。

「俺、絶対お前より強くなってやっからな。こないだは負けたけど、

次は必ず勝つ!」

「おう、やってみろ。」

‘‘友達‘‘は笑う。‘‘俺‘‘は少し寂しくなって、

「そろそろ鐘が鳴っちまうな。」

と言った。

「帰んなきゃな。」

二人は立ち上がる。ズボンをはたく。

背後を通り過ぎる自転車や通行人が、家路を急いでいる。

「お前んちの母さんに言っといてくれ。こないだのカレーおいしかったです、ってよ。」

「言っとくよ。お前んちの母さんにも言っといてくれ。こないだのハンバーグうまかったです、ってな。」

「はは。」

二人は笑いあう。

「────じゃ、俺、帰るぞ。」

そう、‘‘友達‘‘が切り出した。

「わかってらぁ。それじゃ…」

「おう。」

「こっからダッシュして、先に家に着いた方が勝ちだ。いいな?」

「ったりめーだ。」

二人は、背を向けた。互いに、もう振り返ることはない。

「行くぞ。」

「行くぜ。」

その時、鐘が鳴った。二人は、別々の方向に走り出した。

「うおおおおおお‼」

俺は風を切って、切って切って、涙を流して、自分が泣いているのががわからないように、必死で走った。

冬はもう、すぐそこだった。

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