ルーコ皇女の章の2 ピース・クラッシュ
その歌は愛する人がどこへいってもずぅっと強く想っている、忘れないよと歌っていた。若者の遠距離恋愛の他愛無い青春模様のようにも思え、死が愛し合う者たちを分つとも永遠の絆を尊ぶ歌のようにも思えた。
どこへいっても、ずっといっしょ。
まだ本当の恋も愛も知らない彼女たちに歌わせるには重すぎるような荷を感じさせないパフォーマンスがライブを彩る。
その歌を聴いてアレンはペンライトをモニターの前で振りながら涙して、その様子をティムは遠くから眺めていた。
「アイドルって、こうもハマるもんなのかね?」
「ティムってアイドルに興味はないの?」
アレンの様子を遠巻きに、まるで珍獣を見るかのような目で眺めながら野菜ジュースを飲むティムにレイが聞いてくる。
「なんかよくわからないんだよな。あ、でもレイ達フェミリーのアイドルは見てみたいかもな。もちろんの事、メンバーの中で一番好きな人……えっと、アレンはその事を最推しって言ってたかな……それはレイだよ」
「もー、結成してから言ってよね! でも嬉しい!」
レイの瞳がキラキラ輝く。妖精でも女の子は女の子だ。
「うぁあーーー!! ルーコちゃーーーーん!!!」
「……もしそうなったら、レイはああなってる俺を見ても嬉しく思うか?」
「うーん、わかんない! でも……あれほど感情が素直に引き出されるってのは凄い事だよ。アイドルって」
いつの間にかアンズも一緒になって号泣しながらペンライトを振っている様子を見てティム達は呑気に会話をしていた。
しかし……他の皇子達は違った!
「マーシャ、あのぬっこちゃんとか言うふざけた名前の機体照合は出来たか?」
まずアイゾンステラの皇子ジョージは自身の相棒である
彼が見ていたのはルーコの容姿と、彼女が連れている機械騎士の本性である。
言葉に出さずとも彼の中ではルーコは黒だと確信があった。
映像の中、無音にして歌を遮ったモニターに割り込む形でぬっこちゃんの中身に関する情報が転送されたのはマーシャに命じてからわずか1秒。
「これを……」
「それはそうだろうな」
元よりこのデコレーションされた機械騎士に対して強く疑いを持っていたジョージは……このライブを中継配信などで観ていた皇子達の中で現状、最も速くルーコが自分達の競合相手であると言う確信を持った。
「ジョージ様、どうしますか?」
「どうもしないよ。今はこの星の治安整備と軍事力増強が先だ。このライブ配信を観たのだって、あのアイドルがぼく達の相手か否か確かめるためだけのものだ」
意外かもしれないし妥当かもしれない判断。その返答にマーシャは静かに頷いたが通信していたビートビートの皇子ギリアスは驚いた声を上げた。
「ゲオルグ、攻めないのかい?」
「ジョージな、こんな時にぼくの名前をわざと間違えるんじゃあない。攻めてなんか意味あるのか? 互いにまず自分の星の状況をどうにかしてからだろう」
「ははは、それもそうだね! 相手の星に攻め込む前に自分の領土の問題を放置するようなバカは例え戦闘で勝ったとしても元首皇帝にはなれないね! うんうん、それに攻め込まないのか聞いたこっちがこんな事言うのもなんだけどサ、ボクは彼女の歌は好きだよ」
通信越しにギリアスの声に被って、シャイニースターのライブ音声が聞こえてくる。
「……ぼくは聞かないようにしていたのにお前は聞いてたのかよ」
「ははは、案外良い歌だよ! これから戦う事で歌う機会を潰しちゃうのが残念なくらいだよ」
「お前、時々めちゃくちゃ怖いよな……いや、いつもか……?」
「何か言ったかな?」
「何も?」
同盟を組んでいる緑の星の皇子が垣間見せているモノに背筋を凍らせつつもジョージは何がしかを思案する。ミュートされたライブはまだ無音のままだった。
さて一方、砂漠の星ジューヌトリアでは。
「へえ、それで自分はなれそうにないこんなピチピチのかわいいアイドルの映像を観てたってわけかい。ッダァ!!」
「アタシだってまだ若いわ! だいたいこのルーコと言うかルカ子と同年代だろうが!」
やはりユリエ皇女もまた、ルーコの正体に気づいていた。気づかない方が馬鹿であるとも内心思いながら自分のことを罵倒した相棒の機械人の男性イジェルの見た目には普通の人間に見えるがその実鋼鉄で出来た頭蓋を素手で殴り飛ばす。
そして彼女はルーコの事をルカ子と呼び直した。
どうやらユリエはティムと同様に幼い頃の彼女と交流があり、そしてティムと違ってその事を覚えていたようだ。
更にユリエはライブ配信の映像音声を出来る限りの最大音量で聴いていた。
「まあ、アイドルに憧れない女は少数派だ。覚えときなイジェル。そしてそんな事よりもっと大事なことがある。アタシ達はルカ子とは戦わずに同盟を結ぶ」
「同盟? 昔のよしみか歌に惚れたかどっちだァ?」
「どっちもだ、しかし本筋じゃあない。もっと踏み込んだところを言うとタカマガハラの持っている機械騎士さ……アレは味方にはつけたいが相手にはしたくない。アタシらの機械騎士とは方向性が違うし対峙した上での相性も悪い。無駄な戦闘は避けて味方につけつつ政治的交渉の方角でタカマガハラには元首戦争から退いてもらう」
「ユリエにしちゃあ頭の良いことで……ギャッ! コードを引っ張るんじゃあねえ!」
「イジェルは機人の癖に学習しないねぇ! その減らず口をやめれば修理費は嵩まないんだよ!」
愛機の狭いコックピットの中で暴れつつ、そうした思惑を秘めてキャラバンは目的地に向かっていく……彼女達の動向も気になるが一度ここでタカマガハラに視点を戻したい。
シャイニースターのライブパフォーマンスは配信を見ていた皇子達の反応など知る由もなく大盛況のうちに終わっていた。
歌の途中途中、圧巻の早着替えパフォーマンスがあり……予めルーコが愛機のコックピットに仕込んであったデータカードを通じて衣装を交換するシステムを使ったものでありシャイニースターの名物でもある……それにより最初はフルーツのようなドレスだった彼女達のドレスはイメージカラーはそのままに、花や蝶や星のようなイメージのドレスに次々とチェンジしながら息切れする事なくダンスと歌唱を続けていた。
だがそのライブの遥か遠くで蠢く闇があった。市街地戦用に白く塗装されたジャッコ達の武装集団を乗せた陸上船が会場に向かっていたのだ。
その装甲にはあの神々しくも禍々しい天秤と創造神のエンブレム!
そんな物騒な一団が迫り来る中、一頻り歌い終えたルーコは観客に見守られる中ぬっこちゃんのコックピットの中に入っていた。
ライブパフォーマンスで使ったカード達を1枚1枚丁寧に抜き取りカードファイルにしまっていく、その大事な作業の最中。
ルーコの脳裏にセピア色のヴィジョンが見えた。
断片的に次々と視界に割り込んできた映像は、謎の軍団に突如として制圧されるライブ会場……弾幕により呆気なく吹き飛ばされる命だったモノ達……ボロボロに犯された上に暴力によりちぎれ飛び地面に叩きつけられるモーリスやライラックの生首……何より、自身も捕まり処刑される……そしてそれらは、『これから起こることに対してルーコが何もしなかった絶望的な未来』である。
「……!」
そのヴィジョンを伝えていたのは他でもない、ぬっこちゃんである。残酷なヴィジョンでこれから起こる事を伝えるのがこの機械騎士の能力である。パイロットであるルーコが動けば、この未来は変えられる。
敵が来る。
幸いにもシャイニースターの出番は終わった。ならばやるべき事はひとつ。
「みんな、私は先に舞台裏に戻るね」
「ルーコちゃん?」
「……危ない人達が来る、ファンの人達に悟られないように安全策を」
コックピットの中からモーリス達に通信するルーコ。その伝達にモーリス達は何が起きているのか悟った。
「……わかったよ、運営スタッフさんや次の子にも迅速に伝えるね」
「お願いね」
幼い印象とは真逆の理解している対応でモーリスが頷く。返事こそはしていないがそれらの通信はライラックとヤップ、マネージャー達にも伝わっている。
モーリスが観客席に背を向けてぬっこちゃんに手を振り、それに応えながらぬっこちゃんが飛び立っていく。
観客達は普通にルーコが退場したと思い込んだのか、それとも。と言った具合に歓声と共に紫色のペンライトを振って見送る。
他のメンバーよりもたくさん動いたのか、滝のような汗を流しているヤップをライラックが肩を支えて、そしてモーリスと共に舞台裏に去っていく。
「……たより、何かあったらお客様達を安全な場所まで避難できるようにして」
「任せてください。……ルーコ、気をつけて」
ぬっこちゃんのコックピットの中で、マネージャーの春川たよりに頼み込むルーコ。その会話にはどこか、小さな頃から知己であるような絆があった。
「うん、もちろん! ぬっこちゃん、敵はどこから? ……北から!」
「ルーコ、ぬっこちゃんのまま戦うつもりでちか!?」
レーダーで軍勢の位置と数を確認した時、ミライがルーコの懐から飛び出した。
「まさか! ついたらすぐ脱いで真の姿にドレスアップはするよ! 気取られないようこのまま出ることは出るけど!」
「でちよね! このカワイイデコレーション、結構お予算かかってまちからね!」
そう会話しつつ、ぬっこちゃんは北の方角に飛び立った。
正直、これだけ派手に動けば何かしらあってお客様達に何が起きているか知られるだろうとは思いつつも、なるべく事を穏便に運びたかった。ルーコには、そうしたい理由があるのだ。
その頃、タキオン北部。
物々しい武装集団が陸上船で一般車道を蹂躙しながらタキオンドームシティのフェス会場に向かう様は既に緊急ニュースとして報道されており、一般市民の避難も開始されていた。
既に、戦闘が開始されていた。タカマガハラ正規軍の機械騎士達が先んじて出撃し、この謎の部隊と応戦していた。
竜のような姿をした生物的要素の強い量産型機械騎士で正規軍の兵器、ノヴァ・ロード。
その姿は何故かどことなく、ぬっこちゃんの下にありそうな、なさそうな……と言った雰囲気も持ち合わせつつ、赤き紅蓮の炎の化身であるかのような力強さを持っていた。
しかしその外見には似合わない近代的なマシンガンなどを装備している炎竜の部隊は規律の取れた動きで白きジャッコの部隊を迎撃する。
「この軍は……!? 何故だ……!」
迎撃するタカマガハラ軍の兵士のひとりが敵軍を見て焦りを見せる。後のアレンが定義するところの『運営』たる勢力の存在は把握しているところとしていないところとがあるようであり、タカマガハラ軍は前者であった。
「所詮は戦争を拡大させたいだけの『死神』だ! ……だが、確かに何故だと憤りたくなるお前の気持ちはわかる」
隊長であろう男が答えると同時に、彼の乗機である隊長機のノヴァ・ロードがその証である胸部の追加装甲の発光器官を光らせる。
「コイツらの侵攻方向は南、確かあの向こうには……とにかく迎撃、殲滅せよ!」
隊長が命令すると同時にノヴァ・ロード部隊が各々の武器を構える。その数は、最初に狼狽えた兵士と隊長を含めて12機。
指揮官などを乗せた陸上船が後方に3隻控えている。
一方、突如として意味不明な侵略を仕掛けてきた謎の軍……アレンが『運営』と後に定義し、彼らは『死神』と呼んだ軍は重武装型のジャッコが24機。奴らを乗せてきた陸上船は6隻。
そのいずれもが、平和な日常と市民の気配が消え失せつつあるコンクリートジャングルに陣を敷いていた。
謎の軍にはそれに所属している人間達の気配はあった。だが、彼らに血の通った交流の気配はない。
ただ粛々と、フェス会場を目指して侵攻していく。
「いったい、何が目的なんだ……」
「何でもいい、そして何でもよくない! 奴らを放置するわけにはいかん!」
「それはそうですね! 隊長、フォーメーションは!」
「これはあくまで俺の予想だが……奴らの目指す方向にはフェス会場のタキオンドームシティがある! ……奴らをフェス会場の敷地内に入れてはならん!」
隊長が防衛ラインを部下達に通達する。フェス会場から200m離れた大通り。ここに到達されたら終わりだと……そうなれば作戦失敗だと告げる。
「赤龍の陣で防衛ラインを築け! 奴らを一機たりとも逃すな!」
「了解!」
指示と同時にノヴァ・ロード達が横に展開していく。ジャッコ達はその赤い龍の壁に対して突撃するものと上空から越えようとするものと迂回していこうとするものを分割して対応する!
白い侵攻に赤の守護者が立ちはだかる。機械騎士の強さを決める要素のひとつであるランクはノヴァ・ロード達の方が上である。
だがランクなど所詮は誤差でしかない。守備防衛隊として出撃したタカマガハラ軍は相手の軍勢の数を見誤っていた。
先も説明した通り、圧倒的に例の勢力の方が機械騎士も陸上船も多い。そしてティム達が戦った、ケイオス国の賊軍のジャッコ達よりも整備のクオリティは高い。
次元干渉モードを仕掛ける兵士こそはこの段階では見受けられない。仕掛けたとして、ティム達と戦ったケイオス国の賊軍の兵士たちのような反動による自滅をするような者はいないだろう。それはタカマガハラ軍の方も同じである。
緊迫が平和を塗り替え切ったその時、戦いが始まった。
ノヴァ・ロード部隊は予め次元干渉モードに突入し、常人からは紅の朧めいた姿となって防衛壁を形成。
対空、対地、そして……迂回しようとする者達の三方に対して強烈なビームマシンガンやミサイルの弾幕を形成する。
更に、先ほど会話をしていた隊長と兵士が所属している中央に陣取った部隊が円盤状の爆弾を投擲、それをビームで射撃して炸裂させる。
「お前達はこの領域には入れさせん! ディスマイン展開!」
ディスマインと呼ばれたその爆薬が炸裂して展開された、目に見えて電撃が広がっていく領域に次元干渉モードで正面から突っ込んできたジャッコが入り込んだ瞬間、ほんのわずかにジャッコの速度が常なる時に戻された。
そうして比較的にスローモーションになったジャッコ達にすかさず弾幕を浴びせて破壊し、トドメとしてディバイドカタナ……生命エネルギーを流し込んで光の刃を形成する刀状の近接武器……を振るい切り刻んでいく。
だがディスマインの影響は一方的なものではない。領域に踏み込めば当然使った側も動きを制限される。強力すぎる電磁波の影響も免れない。
ノヴァ・ロード達が地上から攻めてきたジャッコ達を連携により撃ち落とした瞬間、上空から攻めてきたジャッコがノヴァ・ロード達に斬りかかり、あるいは弾幕を展開しながら接近する。
そしてジャッコ側達もまた、ディスマインをばらまき炸裂させる。まるで、隊長が想定し宣言した領域には入れようと入らなかろうと意味は違わないと言わんばかりに。
「くっ! 見慣れた量産機とて油断できるものではないがしかしそれにしても!」
「隊長、増援の要請を!」
「既にしてある! だが到着までおよそあと5分だ!」
「5分!」
「耐えられないなどと弱音を吐くような事はないな!?」
「もちろんですとも! それくらい、戦い抜いてみせる!」
会話の間に中央の隊長と兵士、その部隊は正面から挑んできたジャッコ達を斬り伏せていく。更に左右の陣の部隊が迂回するもの達を逃さんとディバイドカタナと接続し拡張合体により顕現したディバイドビームスナイパーライフルにより迎撃! その悉くを撃退していく!
だがそれでも、限界はある。優位に立った次の瞬間、撃退されたジャッコの爆風とディスマインの次元干渉阻止領域を振り払い、別のジャッコが飛び出し弾薬を撃ち尽くした武装を投げつけて怯ませながらディバイドセイバーを展開し、逆にノヴァ・ロード達を斬り伏せていく!
紅の朧ににわかに爆風が発生し、その壁が崩れていく!
「持たないなんて言うものかーーっ!!」
弱気になってはならないと叫ぶ若き兵士だが、眼前で頼りにしていた隊長機が2機のジャッコに組み伏せられる!
「あぁっ!」
もうダメか、自分達は任務を遂行できず市民を守れないのか。絶望しかけたその時。
隊長機を組み伏せ撃墜しようとしていたジャッコ達が唐突に後ろに下がっていく。援軍が来たのか? だが、それにしては……。
「ぐ……なんだ……?」
「隊長! あ、あれを……!」
若き兵士と隊長を筆頭にタカマガハラ軍の者達は観た。上空より飛来する、自分達の機体よりも遥かに上位の存在でありながら……戦場にあるべきではないおかしな存在が飛んできたのを。
「ぬっこちゃん!? 何の冗談だ……俺たちを助けにきたってのか!? あのアイドルが!?」
ルーコの知名度は堅物そうな軍人であるこの隊長でも知っているほどであった。
隊長は期待していた援軍とは違ったものが飛んできたのを観て混乱した。機械騎士を乗りこなすアイドルとは聞いていたが戦場をライブ会場か何かと勘違いしているのだろうか?
だがその疑念はすぐに振り払われる事となった。そのルーコから直々に通信が入った。
「軍の皆さま、大丈夫ですか?」
「!! あなたは!」
「ミルクレープ・ルーコです、知っていますね?」
巷で噂の人気アイドルにしてライブにて機械騎士を使うトンデモパフォーマー。正直なところ隊長にはルーコに対してそういった印象があった。だがそうではない。
彼女は確かにとんでもない。だがとんでもないの意味合いが違う。
ここまで来たならば何を隠すこともないがルーコの正体はこのタカマガハラの代表国第三皇女、
隊長は琉歌古比売の事をよく知っていた。見間違えるはずがないはずの間柄だったのだが、こうして再会すべきではない場所で再会するまで何故わからなかったのか?
「……ッ、そんな」
映像媒体や音声媒体に何らかの錯乱システムでも仕掛けられていたか、いや、無茶だ!
何故、長いことルーコを自身が仕える国の姫だと気づかなかったのか。隊長の動揺は兵士達にも伝わり、兵士達もまたルーコの通信を確認して自身の内から動揺し直していた。
何故気づかなかったのか、それはぬっこちゃんもそうであった。女の子のカワイイをハチャメチャに塗りたくったジュエリーでラブリーなキラキラに満ちた、シャイニーゴールドとピンクに染まった装甲の下に……自分たちの乗る紅き竜騎士の頂点の、燃え盛る太陽よりも熱く強い威力の気配があり、今まさにそれを間近で感じている!
「ここからは私が戦います。隊長さん、それに皆様方も。いったん、ぬっこちゃんのドレスを預かってください。お願いできますね?」
「は……? ッ、承りました!」
白いジャッコ達の標的は既にぬっこちゃんに切り替わっている。しかも、漏れ出ている殺気が尋常ではない。まるで、本命が自ら飛び込んできたのを喜んでいるかのようなプレッシャーが四方八方から来る!
迂回してライブ会場に向かおうとしていた部隊まで戻ってくるほどである!
そんな事などお構いなしにぬっこちゃんはミルクレープ・ルーコの宣伝看板であるシールド装甲から分離し、隊長のノヴァ・ロードに預ける。
そしてお姫様が執事に脱いだドレスを預けるように鮮やかにデコレーションアーマーを接続部分を炸裂させてパージしていき、それらを兵士たちにも預けていく……そうして姿を現したのは荒武者のような出立を思わせる鋭角的な風貌を更に尖らせた、炎の翼を持つ紅き英雄龍。
「ノヴァ・ロード・エクスプロード! やはりあなたは……いえ……今はルーコと呼ばせてください」
「ならばこの戦いの間は敬語はおやめくださいね、ゲンさん。と、私もそのような振る舞いでは説得力がありませんね。……っし、と言うわけでここからは私に任せてね!!」
隊長の名前を真名か渾名か親しげに微笑んで呼んでみせたあと、ルーコは……ノヴァ・ロード・エクスプロードは咆哮し白いジャッコ達を威圧する!
ここまでの戦いで残ったノヴァ・ロードは5機。対して、白いジャッコ達は12機。
陸上船と防衛ラインは無事ではあるものの、陸上船に関しては残念ながらあれだけの弾幕戦を展開しておきながら相手方も無事である。
その戦況を把握した上でルーコはここから単騎で挑むのである。
「隊長!」
「気持ちはわかる! だが信じるんだ!」
お慕い申し上げつつ世話をしていた皇女として、今を煌めく人気アイドルとして、そしてただ大切なものを守らんと立つ少女として。
ゲンは信じるしかなかった。
そして、ライブ会場にいるモーリスもまた……何事も伝えられないまま熱狂の渦の中にあるアイドル旋風の坩堝の中でルーコを信じていた。
「ヤッちゃん、大丈夫だよ」
冷や汗と動悸が止まらない様子のヤップを優しく撫でながらモーリスは言う。
「ルーコは絶対、すぐ帰ってくるからね」
「もっちゃん……」
モーリスの胸の中でヤップは顔を埋めるしかなかった。
セイファート銀河戦記 葛城修 @niaricenovel001
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