第29話 殺しのレイラ

 レイラの蹴りは今まで何人もの人間をあの世送りにした。

 それを食らえばサツキも同じだ。即死である。


 だが危機一髪、サツキはなんとか持っていたナイフでガードをしてみせた。


 しかしその威力は凄まじい。

 あり得ないことに、蹴りでナイフの刃を折ったのだ。

 まともに食らえば相当なダメージ、いや死んでいたはずだ。


「うおっ!?」


 サツキは回し蹴りをされ、刃物が折れた後の勢いで飛ばされかけた。


「いきなりビックリしたなぁもう〜」


 サツキは刃物を捨てて体勢を立て直す。


「ナイフでガードしたか。お前のような反射神経を持つものは初めて見たよ」


 レイラはニヤリと笑うと、瞬足でサツキに近づき打撃をかましてきた。


「死ねッ!!」


 サツキは攻撃を流すようにかわす。


「危なっ」


 だが一発だけじゃない。それに続き、二発、三発と、とても速く連続して攻撃をしてきた。


(速すぎる!!でもコイツが殴りにきているのは好都合だ)


 一瞬だけサツキは動きを読み、レイラの腕を掴んだ。


「なっ、、、!!」


 レイラは思わず声を漏らす。

 そしてサツキは即座にそのまま背負い投げを決めた。


「ぐはっ、、、!!」


 レイラは叩きつけられ痛みから声をあげる。

 勝負はついた、サツキはそう思っていた。

 だが彼女を舐めてはいけない。掴まれた腕をサツキが離す前にぐいと引っ張り、彼を床に転ばせたのだ。


「うおぅっ!?」


 そして勢いよく跳ね起きたレイラは、床に寝転んでいるサツキの片腕を踏みつけた。


「いってぇ!!」


 サツキは踏まれた箇所にちらりと目をやると、目を丸くした。


 踏まれた片腕はぐしゃぐしゃに踏み潰されており、骨がはみ出てしまっているのだ。


「うわっ!グロっ!え?まじで?!死ぬ!?痛い痛い!」


 痛みで苦しそうなサツキの顔面にレイラは銃を向けた。


「甘いな、サツキ」


 引き金が引かれ銃声が鳴り響く。


 バン。

 ガツッ。


 銃声の直後、弾丸は床にぶつかった音を立てる。サツキは頭を逸らして何とか弾丸を避けることができた。


「こわぁぁぁ」


 頭のすぐ横で響いた爆音に思わず汗をかく。


「殺す気か!?お返しだバカ!」


 サツキはレイラの脛を蹴り、腹を蹴り飛ばした。


「うぐぉぉぉ〜、、、!」


 レイラが呻き声をあげている間にサツキは起き上がり、スタンドライトを掴んで彼女を殴りつけた。


「クリティカルヒットだ」


 サツキは手応えを感じた。


 よろけながら銃を向け発砲するレイラ。

 だが狙いが定まっていない。サツキに当たらず弾丸は窓をぶち破った。


 レイラは今、冷静ではない。この瞬間を逃すわけにはいかない。


「没収!」


 サツキは彼女の銃を取り上げてから、レイラを殴りつけた。


「うっ、、、!!?」


 彼女はガクンと姿勢を崩すと、床に倒れ込んだ。

 今度こそ勝負アリだ。


「強かった、、、。終わってよかった」


 サツキは動ける腕でほっと胸を撫で下ろしていると、突如強い風が吹いてきた。

 どうやらさっき銃で割った窓ガラスから風が吹いてきたらしい。

 サツキは窓の外を覗き込んでみた。


「うおお、、、。それにしても、すっごい高いな。高層ビルはやっぱすげえや」


 だがサツキは気づいていない。


 彼が窓を見ている間、レイラは立ち上がっていたのだ。


(間抜けめ。呑気そうにしている今がチャンスだ!窓から突き落としてやる!)


 レイラは助走をつけて、サツキに向かって思いっきり飛び蹴りをしようとした。


(勝った!!死ねサツキ!)


 だがその時。


 サツキは自分のすぐ足元に大きなガラスの破片があったことに気づいた。


「ふわぁぁ!ガラスだ!こわっ!」


 怪我でもしたら大変だ。

 サツキはその場に落ちていたガラスからサッと逃げるように避ける。

 そのサツキがガラスを避ける時と、レイラが飛び蹴りをしようとしたタイミングがちょうど重なった。


「あっ」


 レイラはサツキを蹴飛ばすことができず盛大に外した。そして、そのまま窓の外へと飛び出した。

 彼女は建物から真っ逆さまに落ちていく。

 近づいてくる地面。

 叫ぼうとする暇もない。

 レイラは地面に叩きつけられ、体のパーツが四方八方に飛び散った。

 外では通行人の叫び声が飛び交う。


 しかし、サツキはというと下を見ながら避けていたせいでレイラが外に飛び出していたなんてことも知りもしなかった。

 なのでサツキ視点からだと、さっきレイラの倒れていた場所に目をやっても、そこには"いつの間にか誰もいない"という状況でしかない。


(ん?どこいったんだ?)


 部屋全体を見回しても誰もいない。


(逃げたのかな、、、。まあ、多分もう会うことはないだろう)


 それよりサツキにはやるべきことがある。


「よし、じゃあエースを追うか!あ、ちがう!アルファだ。うん、アルファくん」


 サツキはドアに向かって、負傷した箇所から血をボタボタと流しながら歩く。


「うぐっ、、、!!」


 腕が痛む。千切れる寸前かもしれない。

 サツキは苦労しながらも扉を開けた。


 しかし、廊下に出ようとしたその時だった。


 腕の痛みを忘れるくらいの衝撃が後頭部を襲った。


「油断したな。お前には死んでもらう」


 そんな声が聞こえた。


 サツキの視界がぼやけていく。


 痛い。でも行かなきゃ。沢城さんに怒られる。ツツジと合流しなきゃ。

 だけど、こんな腕で自分はどうやって戦えるんだろう。


 そんなことを考えながら、沈むようにサツキは意識を失った。

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