HO1:あなたは心優しい、世界の敵さえ恕すほどに
遠野 小路
なぞなぞ
「ほーちゃんになぞなぞです。何をしてても必ず自分についてくるものなーんだ?」
「影法師」
即答するおれに、
てか高校生にもなってなぞなぞってお前。
あるだろもうちょい言い方が……クイズとか。
いや別にクイズだってどうでもいいけど。
テレビで毎週繰り返されるクイズ番組とか、見るたびにばかばかしいと思う。
重箱の隅を突くようなニッチな知識を知っているか知っていないか、
それだけのことがどうしてそんなにすごいことのように扱われてるのか。
関係ないクイズへのdisりがおれの脳内で行われる中、なぞなぞ出題者の優二子は堪え性もなくすぐに答えを口にする。
「正解は『自分自身』でしたー」
「なーんだそれ」
もっとなんか納得させられるような言葉遊びでも返ってくるのかと思えば、
妙な思春期の悩み事みたいな答えが返ってきた。
いやまさに俺たちは思春期真っ只中の高校生なわけで、間違ってはないんだけど。
逆に恥ずかしいだろ……こういうの。
「どれだけ嫌でも、自分が自分自身であることからは逃げられないんだよ?」
「……成績優秀。眉目秀麗。文武両道才気煥発うんぬんかんぬん。
その辺の褒め言葉全部集めてまだ足りないくらいのヤツがお前だろ。
そんな人生の何が嫌なんだよ」
「そーいうのだよ」
優二子は顔を笑みの形に歪める。
うへえ、と俺は声を出す。
「やめろお前それ。キモい作り笑顔」
「ほーちゃんひどーい! それ、女の子に言っていい言葉じゃないよ!」
「おい、俺と話す時に『女』を使うなよ。
お前が言ったんだぞ、そういう奴らが嫌だから話し相手になれって」
「でも、ほーちゃんは優しいから、女の子にはもっと優しくしてくれるでしょ?」
「俺は誰にでも優しい」
そうだ。
女だから優しくするとか、そういうキモい騎士気取りをしているつもりはない。
俺は俺の内なる規範に従って、正しいと思うことをするだけ。
例えば毎朝、このストレスを抱えていらっしゃるらしい友人のために、とりとめもないおしゃべりの相手になってやるとか。
優しくあることは俺にとってデフォルトであるのだ。
「そうだよね」
ぎ、と布が軋む小さな音。優二子が袖口を強く掴む音だ。
ちらと視線を寄せれば、優二子は笑顔を貼り付けたまま曖昧に同意している。
「誰にでもだよね」
「そうだよ」
俺はそれを見ないふりをする。
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