ずっと貴方の傍にいる……。

上野蒼良@作家になる

ほら、そこに

「……ねぇ、やばくない? なんか、それで……アイツがね言ってきたの。お前は、いつまでも過去の亡霊に縛られてるって!」



「……ヤバイね。まず、うちらみたいな普通の女子高生に過去って……」




「ホントマジそれな。ウザ過ぎて、アタシ昨日ソイツと別れてきちゃったわ」




「……香帆かほヤバすぎ! じゃあ、昨日の2023年11月11日は香帆のお別れ記念日だね」


「……ちょっとぉ!」



「あははは」


 うちらは、今日も普通に暮らしていた。いつも通り放課後2人で帰って、いつも通り途中の道で別れて……いつも通りの毎日を過ごしていた。



 私は、香帆。普通の女子高生。同じクラスに親友の萌々ももがいる。いつもこうしてダラダラと2人で一緒に帰るのが好きだ。いつもは、帰り道に寄り道とかして食べ歩いたりしてから家に帰るのだが、今日は珍しくそう言う事もしないで、普通に家に向かって行った。


 私と萌々は、中学からの付き合いで家の方向は途中まで一緒だ。けど、途中の別れ道で萌々が町の西一軒家が横一列に並ぶ住宅街の方へ行き、私は町の東側の小さい団地に住んでいる。



「……それでさ、今日の歴史の授業なんだけど……萌々、分かる?」



「……あぁ、古代エジプト文明ね……。分かるよ」



「……まじぃ! 助かるぅ。後でラインにノート送っといてくれる! 見たいぃ!」



 私達は、そんないつもの学校の話をしているうちにとうとう東西に別れるあの場所にやって来てしまう。





「……じゃあ、今日はこれでお別れだね」


 いつも通り、私達がそこで別れようとしたその時だった。私達の町の東と西を隔てている大きな川の流れる音が聞こえる中、その川の上を通っている橋の真ん中で萌々は、急に少し顔色を悪くして私の耳元まで寄って来て小さい声でこう言った。




「……ねぇね、あのさ……ちょっと申し訳ないんだけど、家まで着いて来てくれる?」




「え? どうして?」



 萌々は、物凄く言いづらそうに私に言った。


「……あそこの電柱見える?」



「え……?」



「なんかさ、3日前からずっと……後をつけられてるんだよね。……なんだろ? ストーカー? だからさ、一緒に家まで来てくれると助かる」



「……なるほどねえ。そう言う事なら任せてよ」


 私は、そう言うとそのまま萌々と一緒に西側の方へと歩いて行った。



「……それでアイツがねぇ〜」


「ヤバ!」


 それからも私と萌々は一緒に歩いた。なんの変哲もなくただ普通に高校生の青春ってやつを満喫していた。だがしかし、そんな中でも私達の後ろを永遠とつけてくる人の気配を感じる。




 ──何なんだろう……。もう10分くらい一緒に歩いているのに……。



 怖かった。別に自分が追われているわけではないのに……どうしてだか、凄く怖い。なんだろうこの怖さ……うまく表現できないが、この迫ってくる感じ……。そろそろ、萌々の家にも着くのに……!



 私達は知らないふりをして歩き続けていたが、しかしついに後ろから追いかけてきていた謎の男がこっちへ走り出してきた。



 ──え!?



 怖くなった私の足が一瞬固まりそうになったが、そんな時一緒に歩いていた萌々が私の手を物凄い力でギュッと握って引っ張る。


「……来て!」


「……え!?」


 萌々ってこんなに力強かったっけ? そんな事を一瞬思いながら、しかし私は今自分の後ろで追いかけてくる謎のストーカーに怯えながら、萌々に引っ張られるがまま必死に走る。


 ── 萌々の家、通り過ぎてるけど……もうそんな事言ってる場合じゃない!



 走る私は、考えないでそのまま萌々に手を引かれるままに走り続けた。




 ──怖い。凄く……凄く怖い。男性恐怖症とかではないが、本能的な怖さを感じた。でも、どうしてなのだろう。怖いと感じるのと同時に私の心の中で相反するもう一つの感情が芽生える。






 ──楽しい。



 それは、決して追いかけてくる謎の男をこれからどうしてやろうか、とかそう言う事を考えて思っているのではなかった。ただ、なんだろう。物凄く奇妙な感情だと自分でも思うのだが……これもまた青春。友達と一緒に何かから逃げる。それもまたこれから歳をとっていくに連れて無くなっていくような若い今しか味わえない感情……なんと言えば良いのだろう……。そういう不思議な恐怖に対するアンチテーゼ的感情を心の何処かで抱いていた。




 萌々の走るスピードはどんどん上がっていった。やがて、私は自分の住んでいる所だというのに何処なのか分からない謎の場所にやってくる事になった。



 何処なんだろう? ここ……それにさっきまでまだ明るかったのに……いつの間にか空が暗い……夜? それにしても暗い。まるで洞窟の中へ入っているような感じだ。そんな暗い暗い光景を見ている私の耳にずっと鳴り続けていた音は、川の流れる音。あの時、ストーカーの男の存在に気づいた時からずっと鳴り続けているあの川……どんどん近づいてきているのか……音が鮮明に大きく聞こえてくる。本当にここは何処なのだろう。洞窟のように暗いこの場所……。



 そういえば、今ふと思い出したが私は、街の西側に全然来た事がない。いや、全くないかもしれない。だから、今何処にいるのか全然分からない。そもそも町にこんな場所があった事が初めて……。ってあれ? そういえば、後ろから追いかけてきていたあの男は……。謎の男は何処にいってしまったのか? 私は、何処を走っているのか……。




 すると、そんな私に手を引っ張る萌々は、走りながら告げてきた。


「……香帆、そろそろだよ!」



 何がそろそろなのだろうか……。彼女にはストーカーから隠れるためのとっておきの場所の目星があるのだろうか。いや、それにしてもこの暗い暗い場所に……そんな隠れ家なんてあるのだろうか。



「……!?」


 ふと、私の首筋をスーッと冷たい風が吹き抜ける。それと共に私の背筋がゾッとなって全身に鳥肌が立つ。



 なんだろう。この感覚……。寒いっていうよりなんだか……怖い? 私、怖がってるの?



 それでも尚、走り続ける萌々とそれに引っ張られる私。やがて、私は今まで辺り一面全部が暗くて広かったはずのこの場所がどんどん狭くて暗い小道みたいになってきている事に勘づき出す。



 あれ……?



 これに気づいた時、私の足は本能的に止まる。今自分がどんな感情なのか分からない。だが、体が恐怖している事だけは理解できた。それも……この得体の知れない場所とこの前を走っていた彼女に。


「……どうしたの? 香帆? 早く行かないと大変だよ」


「…… 萌々」


 私の口から何か言葉がでかかったが何も出てこない。すると、萌々は手を伸ばしてきて私に言ってきた。



「……行こうよ。一緒に」



 だが、何故だか怖くて私はその手を取ろうと出来なかった。それどころか私は気づくと萌々から一歩遠ざかってしまっていた。自分の足が地面から離れた時震えていたのがわかった。そして、一歩下がると私の背中に何かがぶつかる。



 いや、何かではない。誰かと言うべきだろう。振り返るとそこには、さっき電柱の影で私達を見ていた男の姿があった。


「……ぁ」


 いつの間にかここまで来ていた。私が男から離れようと今度は萌々の方へ近づいていこうとしたが、しかし体が言う事を聞かない。




 ──あれ……?



 すると、男の姿を見ていた萌々が、私と同じように震えながらも男に怒鳴った。



「……こんな所まで! くそっ……今回は成功すると思っていたのに……」



 その言葉を発していた時の萌々の顔は恐ろしかった。何十年と言う人生の中で今までここまでかと思うくらい……見た事もないくらい般若のように恐ろしい顔を男に向けていた。しかし、これに対して男は無言。ただ数珠を巻きつけた両手を合わせて何かをぶつぶつと言っているだけだ。



 なんだろう……これは……お経?


 よく分からなかったが、しかしそのうちに男は、今までブツブツ言っているだけのそのお経らしき言葉の中で突然大きな声で叫び出した。



「……ハッ」


 刹那、萌々が頭を抱え出す。そして、私の方に手を伸ばしてくる。



「……香帆。香帆、香帆ォ……香帆香帆香帆香帆香帆…………香帆ぉぉぉぉぉ」


 それと共に何故か、萌々は消えていってしまう。



「……え!? 萌々! 待って! どうして! いや……いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

















 ──チリリリりンン! と鳴り出すスマホのアラームを眠たそうに且つ、めんどくさそうに止めた私は、自分の部屋のベッドの上にいた。



「……ん? あれ?」



 時計を見ると、もう夕方。9月23日と表記があった。



「寝てたのか……」


 そう思って私がダラダラとベッドから体を起こそうとしたその時、目覚めつつあった自分の勘が後ろに誰かいる事を察知する。



「……え?」


 バッと勢いよく振り返ると…………
























「……」


 黒い影の中に立つ大きな男、いや……いつも私の所に来る霊媒師の人がいた。彼は無言で何も言わずにお辞儀をすると私の部屋から出ていく。



 私は、いまだにバクバクとなる心臓に手をやりながらベッドにまた横になる。すると、部屋の外から母の声が聞こえてきた。さっきの霊媒師と話をしているのだろう。



「……いつもいつも娘がすいません。あの子……高校生の頃に友達を亡くしてからずっとあの調子で……家に引き篭ってばかりで……たまにあぁやってうなされる度に来て頂きとても感謝しています」



 すると、男は少し間を空けて言った。









「……いえ。とんでもない……」








 男は、また少し間を空けてから喋り出したのだった。



「……とても可愛い娘さんですね」










































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