第3話 プレゼント

 年が明け、一ヶ月が過ぎた。先輩が東京に戻って来てからすぐにカフェで話した。二月ということもあり、私は先輩に聞いた。


「もうすぐバレンタインですよ。私からのチョコ欲しいですか?」

 実は、今までバレンタインと言うイベントはスキップして来たが、これまでお世話になったから何か先輩にしたいと思い聞いた。


「あ〜、めっちゃ欲しいわ」

「なんで棒読みなんですか。私からのチョコってレアですよ。レア」

 私は、今までチョコすら作ったことがなかった。


「ありがたき幸せ」

 茶化すように返す先輩に少しイラついてしまった。


「まぁ、チョコなんて手作りできないんで適当なお菓子あげます」

「手作り期待したのになー」

「先輩なんかお菓子で十分です」

 先輩との会話は心地が良かった。なんとなくこの関係がずっと続けばいいなとさえ思った。


バレンタイン当日


 この日は、私も先輩も塾のバイトが入っていた。

 最後の授業を終えて、先輩にチョコを渡そうとすると先輩は色んな人からチョコを貰っていた。全部義理チョコだろうが、少しだけ嫌な気持ちがした。


 もう帰る直前の先輩を捕まえ私は、チョコをあげた。

「え?いいの。ありがとー。これ好きなやつだ」

 市販のチョコでも先輩は喜んでくれた。本当は手作りのチョコをあげたかったけど、失敗してあげれなかった。何回も練習したのに今日に限って失敗してしまった。

 先輩の驚く顔が見たかった。


 バレンタインの練習に必死で気がつかなかったけど、三日後が私の誕生日だった。

 いつぞやのボドゲカフェで遊んだ四人グループの連絡を見て気がついた。

 誕生日会を開いてくれるようだ。誕生日当日は私が塾のシフトが入っていた為、誕生日の次の日に祝ってくれるようだ。私はすごく嬉しかった。


 誕生日当日、私はいつものように塾にいた。誕生日に予定が入らなかった保険もかけて塾のシフトを入れていた。私は寂しい女かもしれない。誕生日だけれども祝われなかったことを考え、予定を入れることでただの日常として過ごしたかったかもしれない。


 塾に行けば先輩とも話せるので軽い足取りに塾へ向かった。しかし、この日先輩は、最後の時間まで授業が入っておらず、夕方になる前に帰って行った。


 ――なんか先輩がいないと楽しくないな。そう思いながら授業をやっていた。なんだか今日はやけに時間が長く感じた。


 休憩時間も誰とも喋ることなく、リフレッシュがあまりできないままやっとのことで最終コマの授業を終えた。


 精神的にすごく疲れた私はだらだらと帰る準備をしたら先輩から連絡が来た。

「バイトお疲れー。今ちょうど駅にいるから少しはなそー」

「ちょうど今、塾が終わりました!話しましょ!」

 一気にテンションが上がった。


 改札前に行くと先輩が待っていた。


「待ちましたか?」

 先輩がぼーっと改札の方を見ていたので袖を摘んで聞いた。


「ううん。待ってないよ。これあげる」

 先輩は片手に持っていたカフェの紙カップをくれた。


 お礼を言い一口飲んだ。私がいつも飲んでいるほうじ茶ラテだった。

「ん、これ好きなやつだ。先輩は私のこと分かってますね」

「俺が飲みたかったやつ買っただけ」

 先輩はたまに正直にならずにツンデレになる。


 それから私たちは、話すために公園に移動した。


 塾の休憩時間中喋れなかった分、私は先輩に今日あったことを色々喋った。


 けど、今日の先輩は少し様子が変で返事も上の空だった。どうしたんだろう。

「先輩聞いてます?」

 普段と様子が違う先輩の顔を見ている。何か緊張しているような様子だった。ちらっと先輩の左手側を見ると化粧ブランドの紙袋があった。私はもしかしたらと思って聞いた。


「そう言えば、今日私の誕生日ですよ?何かないんですか?」

 そう聞くと先輩は紙袋を渡して来た。

「二十歳の誕生日おめでとう」


 先輩も不器用な面あるんだなと思いながら驚くふりをした。

「本当にあったんですか?」

「二十歳って特別だからね。当日に祝いたくて」

 私は、この気持ちがすごい嬉しかった。けれど、それと私は本当に先輩に甘やかされてばっかりだなと思った。


「本当に嬉しいです。先輩には貰っちゃってばっかりだね」

「そんなことないよ、ほら、なんか話してるだけでも元気がもらえるし」

「適当に言ってないですか?」

「本心。本心」

 先輩の優しさに私は心が温かくなった。自然とプレゼントを強く抱いた。



「プレゼント見ていいですか?」

 私は、中身が気になったので聞いた。

「いいよ」


 私は、ドキドキしながら丁寧に一つ一つ梱包を外していった。


 開けたら、いいところのマキシマイザーとハンドクリームが入っていた。

 私は、思ったことをそのまま先輩に言った。


「なんかすごく女慣れしてません?けど、すっごく嬉しいです。あと、ハンドクリームもちょうど欲しかったんですよ!ありがとうございます」


 プレゼントを見たときは、誰にでも使えるようなものだったからいつも女の子にこれを渡してんだろって思ったけれど、色や匂いは私の好みだった。先輩のことだから私の好みを覚えていたんだと思う。

 そう考えるとやっぱり先輩からのプレゼントは嬉しかった。


「私、お返しに先輩の次の誕生日にハンドクリームあげます」

 私は、先輩に何かお返しがしたくてつい言った。来年になるけど、しっかり覚えとこう。


 それから、私たちは少し話して、公園を後にした。



 この日は、温かい気持ちになりながらベットについた。明日の誕生日会もすごく楽しみだなと思い目を閉じた。

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