第2話 変化

 結局、私たちが遊ぶ場所はボードゲームカフェという所になった。先輩の提案だ。

 なんでもオセロや人生ゲーム意外にも様々なボードゲームがあるらしく、ハマる人はハマるらしい。


 こうして私たちは、ボドゲカフェで遊ぶこととなった。


 遊ぶ当日、先輩が一人知らない人を連れてくる為、一応おしゃれをして家を出た。普段、髪を巻かないけどこの日は巻きたい気分だった。


 ボドゲカフェは十五時集合だったので私とあかねちゃんはお昼過ぎに集まってショッピングをした。あかねちゃんは面白いものが好きらしく、お寿司の指輪のガチャガチャや卓上呼び出しボタンのガチャガチャを見て回ってた。あとは、女の子らしく化粧品を見て回ってあかねちゃんのオススメも教えてもらった。


 そう言う風に過ごしていると集合時間になっていた。


 待ち合わせ場所に着いたら既に先輩たちがいた。


「ごめんなさい、待ちましたか」

「いいや、全然待ってないよ」

「なら良かったです」

「今日髪巻いてるの?可愛いね」

「はいはい、ありがとうございます」

 何気ない会話をして先輩の隣に視線を移すと見たことある人がいた。先輩が誘ったもう一人の男の人は個別塾の講師だった。名前は川崎隆司と言うらしい。今日ちゃんとおしゃれして来て良かったなと思った。


 それから四人でお店に入った。私は、川崎さんの隣になった。やっぱり初めましてだとすごく緊張した。川崎さんと違って先輩の時はなんで緊張しなかったんだろう。けれど、四人でボードゲームしているうちに少しは緊張は溶けた。けど、少しだけ。緊張を誤魔化すかのように私は川崎さんの肩を叩いたりしていた。


 緊張しながらだったけど、ボドゲカフェはまた来たいと思えるほど、楽しかった。

 お店をでると外は少し暗くなっていた。この後どうするか、話しているとあかねちゃんは彼氏と夜ご飯の予定があるといいだした。

 ――正直ほんとに!?って思った。ってか予定入れるなよとさえ思った。


 残された三人はそのまま解散するのもあれだった為、ご飯に行くことになった。

 三人のご飯は気まずかった。先輩が私たち二人によく話題を振ってくれたが、私は緊張して喋れないし、川崎さんは川崎さんで人見知りであまり話してなかった。そこは同じだなって思った。


 先輩が話を振ってくれてるうちに井上さんと私に同じ趣味があることが分かった。共通な話題があるのは嬉しかった。私は、その話題についてたくさん喋った。


 帰る頃には、人見知りしない程度に川崎さんと話せるようになっていた。嬉しかった。


 帰りは、私だけ家が逆方向だった為、川崎さんと先輩に見送られ帰った。


 電車で今日のことを振り返ってみるとなんか不安になってきた。

 ーー私、人見知りすぎて変じゃなかったのかな。


 家に着いてから先輩に電話をかけた。


「今日の私変じゃなかったですか?」

「変じゃなかったよ。普通に喋ってたし」

「そうですか。なら良かったです。そういえば川崎さんってどんな人なんですか?」

 今日少し話しただけではイマイチ人柄が分からなかった川崎さんのことについて色々聞いた。


 川崎さんのことを聞いてる間の先輩は少しだけ元気がなかった。あんまり人のことを喋りたくないのかなって思った。なんとなく会話の流れが電話を切る方向に進んでたので前から考えてたことを先輩に提案した。


「そう言えば冬期講習のシフト決めました?合わせましょうよ」

 先輩は二つ返事で答えてくれた。これで冬期講習も楽しめると思った。


「冬期講習期間は、バイトが終わったらカフェで話しましょうね」

 私はそう言い、電話を切った。


 冬休みは毎日のように先輩と話をしていた。しょうもないやり取りやどうでもいい会話をするのが楽しかった。ずっとこのままぬるま湯に浸かっていたかった。けれど、先輩はもう春には東京からいなくなる。そのことが頭をよぎる時はすごく寂しくなってしまう。


 カフェで話したばかりなのに、その寂しさを紛らわすため、先輩に電話をかけた。


「もしもし、どうしたの?暇でも潰しにきた?」

 いつもの優しい声だ。


「そうです。暇つぶしです」

「めっちゃ正直に言うやん。嘘でも声が聞きたかったですって言えよ」

 あたらずも遠からずですよ。先輩。


「私、可愛くないんでそんなこと言えません―」

「いや、後輩は可愛いよ」

「はいはい、ありがとうございます」

 やっぱりずっとずっとこのぬるーいお湯に使っていたいと思った。

 それから色んな話を先輩に話して、眠たくなったら電話を切った。


「先輩眠たくなったので電話切りますね」

「はいよ。おやすみ」

「お休みさなさい」


 先輩がいなくなっちゃうまであと三ヶ月くらいしかない。けれど、今年のお正月、先輩は地元に帰ってしまった。――どうせ三ヶ月後に帰るんなら今帰らなくてもいいじゃん。って思った。


 年末年始は、先輩は地元を堪能してるだろうから私は毎日のようにかけていた電話も流石に自重していた。しかし、一日一日と経っていくごとに寂しさが大きくなっていったので一週間と我慢できず、先輩に電話した。


「もしもし」

 久しぶりの先輩の声だ。


「いつこっちに帰って来るんですか?」

「なに寂しいの?」

 いつもだったら暇をつぶす相手がいないんですとかって言って誤魔化すけど正直な気持ちで言った。


「寂しいです。早く帰ってきてください」

「帰るの二月かな」

「それじゃあ遅いです」

「冬期講習の予定合わせる時わかってたでしょ」

「そりゃそうですけど……」

 いつまでも落ち込んでてもしょうがないと思い、私は気持ちを切り替え、先輩に最近あったことを色々話した。



「先輩と話していると時間があっという間に過ぎますね。もうこんな時間なのでおやすみしましょ」

「そうだね。おやすみ」

「はい、おやすみさなさーい」

 いつもはここで電話を切っていたけど切るのが名残惜しかった。だから、先輩から電話を切るのを待った。


 けれど、先輩はやっぱり電話を切らない。

「なんでまだ切ってないんですか」

「そっちこそ切ってないじゃん」

 なんかカップルみたいなやり取りで気恥ずかしかった。


「そう言えば、先輩から電話切ることないですよね」

「自分から電話は切らない主義なの」

「なんですかそれ」

「切られる側って寂しいじゃん」

 先輩らしいなぁって思った。どこまでも人に優しくて気恥ずかしいような言葉も正直に言っちゃうのが先輩だった。褒め言葉も最近本心から言ってるんだろうなとも感じた。先輩は嘘がつけない人だから。きっと先輩は誰にでも優しい。


「先輩ってそういうとこありますよね」

「何悪口?」

「そういうのじゃないですよ。今度こそ切りますね。おやすみなさい」

「いい夢見なよ」

 そう言われ、私は電話を切った。切られた先輩は寂しいと思ってくれているのだろうか。けど、先輩は電話がかかってきたらきっと誰にでもこういう態度なんだと思う。

 いつも見たいな電話だったけど、通話が終わった後はいつもより寂しかった。


 そんな時、携帯に連絡が入った。誰からだろうと見ると川崎さんからだった。

 川崎さんからはボドゲカフェに行った日からちょくちょく連絡が来ていた。私は、あんまり連絡を返さないタイプなんだけど、私が返信遅い時は川崎さん追い連絡が来たりしていて何か可愛かった。


 連絡は、好きな食べ物は?とか好きな芸能人は?とか面白くはない内容だったが、なんだかその不器用さから川崎さんのことが少しだけ気になっていた。

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