第197話 アガサ 決戦に向けて③

当初、マリオンは、私兵と共に

この戦いに、参戦するつもりだったが

シャーロットが参加することを知ったバルドーまでもが

参戦すると言い出したのだ。


確かに、今回の戦いは、悪魔との闘いであり

今までのものとは違う。


だからこそ、娘だけを戦場に送るなどということは

看過かんかすることが、出来る筈が無い。


その気持ちは、マリオンにもわかる。


だからこそ、バルドーと共に、サラーバに向かう事に決めたのだが

話は、これで終わりではなかった。


国王ゴーレン アンドリウスが、出撃の命令を下したのだ。


その為、アンドリウス王国軍も、この戦いに参戦することとなり

いきなり、大所帯となる。


確かに、悪魔を相手にするのだから

兵士は、多い方が良いのだから、悪いことではない。


そう、問題は、この後にある。


この度の参加者について、ある人物が、異議を唱えたのだ。


「世界の危機ともいえるこの度の戦いに

 兵士だけ送り出して、王族が、誰も参加しないなんて

 あってはならないと、思いませんか?」


確かに、もっともな意見だ。


だが、その言葉の裏には、何かあるような気がする。


そう感じた、国王ゴーレン アンドリウスは、

サーシャに尋ねる。


「お前は、何を言いたいのだ?」


「ですから、この度の戦いにおいては

 私が、王族の代表として、参加いたしますわ」


はぁ~と、溜息を吐き、頭を抱える国王ゴーレン アンドリウス。


──やはりか・・・・・

  ダバン殿と一緒にいたい気持ちは、わからなくもないが・・・・・


国王ゴーレン アンドリウスは、サーシャに話しかける。


「サーシャよ、お前が、ダバン殿と一緒に居たいと思う気持ちは、理解しよう。

 

 だが、これは、練習ではないのだよ。


 それに、お前が、行ったところで何が出来るというのだ?」


「そ、それは・・・・・・ダバン様の身の回りのお世話を・・・」


「やったことの無いことを、お前が、出来るわけがないだろう。


 メイドでも、連れて行く気なのだろ?」


「・・・・・」


返す言葉もない。


黙り込んだサーシャに、国王ゴーレン アンドリウスが告げる。


「だが、お前の言う事も、間違いではない。


 我が王族からは、アレンを行かせることにする。


 話は、これで終わりだ」


そう言い残して、国王ゴーレン アンドリウスは、席を立った。


1人、残されたサーシャーは、ポツリと呟く。


「ダバン様・・・・・必ず、戻ってきて・・・」




一波乱あったが、こうして、出来上がった国王軍と共に

サラーバに向けて、出発することとなったエンデ達。


途中、砦にて、マリウルとガリウスも、合流したのだが

その時に、初めてアンデットオオトカゲを見たマリオンとバルドーは

固まっていた。


「お、おい、本当に、大丈夫なのか?」


そう問いかけたマリオンに対して、

いつの間にか、その場にいたメビウスが答える。


「なんだ、流石のマリオンも、こ奴が怖いのか?」


「ぐ・・・メビウスか・・・」


「久しく会わないうちに、貴様は衰えたのか?」


「馬鹿なことを言うな!

 私は、衰えてなどおらぬわ。


 だが、このようなアンデットを、見たことが無かったのだから

 驚いても、仕方がないだろ。


 それよりも、本当に、大丈夫なのだな?」


「ああ、それは、保証できる」


メビウスが、合図を送ると

アンデットオオトカゲは、メビウスの横で

頭を地面につけると、

メビウスは、アンデットオオトカゲの頭を撫でる。


『グギャァァァァァ!』


気持ちよさそうな声をあげるアンデットオオトカゲ。


その光景に、驚くしかない。


「本当に、心配なさそうだな」


「だから、そう申したではないか」


「うむ・・・・・そうだったな」


こうして、メビウスとマリオン達が、話をしている傍らで

エンデ達も、マリウルとガリウスと、

今回の遠征の説明をしていたのだが

やはりというか、当然のように

2人は、同行を申し出た。


「それは、僕が、決める事ではないから・・・」


「まぁそれはそうなのだが、

 お前達の了承があれば、この先の話が、楽になるのだ。


 それで、同行しても、構わないよな?」


「うん、僕としては、大歓迎だよ」


「有難い。


 では、父上と話をしてこよう」


エンデの了承を得たマリウルとガリウスは、

その足で、メビウスのもとへと向かい

エンデ達の軍勢に加わる許可を求めた。


「ああ、ここは、心配ない。


 行ってくるがよい」


「有難うございます」


こうして、軍勢に、マリウルとガリウスも加わり

再び、サラーバに向けて、進行を始めた。


それから数日後、

エンデ達は、サラーバの砂漠の手前まで、到着する。


その砂漠への入り口には、何かが作用しているのか、

白線を引くように、はっきりと区切りがついていた。


──ここから先は、領地だとでも、言いたいのかなぁ?・・・・・


エンデが、そんなこと思っていると

1人の兵士が、声を上げる。


「おい、あれを見ろ」


砂漠の一か所に、暗雲が広がっているのが見て取れた。


「あそこがサラーバ?」


「そうだと思うけど・・・・・

 あれ、前より広がっているよ」


砂の精霊サウドの言葉に、

アガサの力が増したことが、想像できた。


「エンデ、分かっていると思うけど・・・」


「作戦の事だよね?」


「ええ、分かっているのならいいわ。


 私は、ワァサに知らせてくるよ」


ルンは、そう言い残して、姿を消した。



「じゃぁ、僕たちも行こうか」


エンデ達以外は、前もって決めていた作戦に従い、

万が一に備え、ここで待機する。


「エンデ、必ず、戻ってくるのだぞ」


「はい、父上」


「エブリンも、エンデの事、頼んだぞ」


「お任せください。


 何があっても、この子を守りますから」



エンデとエブリンが、マリウルとの会話を終えると

既に、バルドーとの話を終えていたシャーロットが、

待っていた。


「行きましょうか」


「ええ」


こうして、エンデ達は、砂漠に足を踏み入れ

サラーバ目指して、歩き始めた。



エンデに、同行したのは、

エブリンにシャーロットにダバン

それと、ゴージアにマリウルとガリウスと

その側近の精鋭たち。


他は、アンデット達だ。


そのメンバーで、砂漠を進んでいると

当然のように、サンドワーム達が現れたのだが

いつもとは、何かが違う。


本来、サンドワームは、砂と同じような色をしているが、

目の前に現れたサンドワーム達は

黒い斑模様をしていた。


また、サンドワーム達は、

体の黒い部分から煙のようなものを噴射しながら現れ、

エンデ達の視界を奪ってゆく。


「こいつ、本当にサンドワームなのか!?」


呟かれた言葉に、皆が警戒をする中

エンデとゴージアに

アンデットオオカミのメルクとシェイク、

アンデットオオトカゲは、

この噴射された黒い煙に心当たりがあった。


この黒い煙は、黒い霧を模したもの。


エンデは、周りを警戒している仲間達に告げる。


「これ、僕の黒い霧に、似ているから、気を付けて」


「わかったわ」


エブリン達は、背後から襲われないように、陣形を組むと同時に

砂の中から現れたサンドワームが、襲い掛かった。


5メートルを超えるサンドワームの襲撃。


人族だけなら、恐怖するところかもしれない。


だが、こちらには、アンデットオオトカゲがいる。


10メートル近いアンデットオオトカゲにとっては、敵にもならない。


襲い掛かって来たサンドワームは、アンデットオオトカゲの餌食と化した。



その後も、メルクとシェイクが、警報変わりとなり、

吠えてサンドワームの位置を、正確にアンデットオオトカゲに知らせると

場所を把握したアンデットオオトカゲが始末してまわる。


この3体の連携により、サンドワームは、あっさりと倒したのだが、

予想できたことだが、黒い霧は、晴れない。


「まだ、サンドワームがいるのかしら?」


シャーロットの問いに、シェイクは『ガゥッ!』と一鳴きして、

首を横に振ったが、直ぐに2頭が吠え始める。


それは、先程と違い、目の前に向かって吠えていた。


「メルク、何かいるの?」


エブリンの前に立ちはだかり、唸り声をあげるメルク。


その視線の先には、グールがいた。


次々と、砂の中から現れるグール達。


グールは、人を喰らう魔物。


黒い霧に包まれた砂の中から現れたという事は、

魔界から呼び出された可能性が高いので、エンデは聞いてみる。


「ゴージア、あれも魔界から来たの?」


「はい、間違い御座いません。


 あれは、悪魔でも、人でも喰らう魔物です。


 まさか、あんなものまで、呼び寄せるとは・・・・・


 ですが、主の手を煩わす程の魔物ではございません。


 ここは、私が・・・・・」


ゴージアが、前に進み出ると

グール達は、迷いなくゴージアに襲い掛かった。


集団で襲い掛かるグールに対して、

ゴージアは、覇気を貯めて構えると

グール達が、触れると思われた瞬間に、その覇気を解放する。


途端に跳ね飛ばされるグール達。


だが、ただ、跳ね飛ばしただけではない。


ゴージアの覇気は、刃のようにグール達を、切り刻んでいたのだ。


一瞬にして、グールの集団を屠ったゴージアが告げる。


「では、先に進みましょう」


何事も無かったように、歩き始めたゴージアに、皆は思った。


──強ぇぇぇ・・・・・



その後も、サンドワームに、グールと、襲い掛かってきたが

ゴージア、アンデットオオカミ、アンデットオオトカゲにより

悉く屠られ、エンデ達は、少しずつだが、

サラーバに近づきつつあった。


だが、魔物の襲撃は、これで終わりではなかった。


突然、マリウル達の側近の兵士の1人が声を上げる。


「痛っ!」


その声に、皆が振り向くと

兵士の足元には、変異したポイズンスコーピオンの姿があった。


黒い霧に紛れるかのように、黒く変色したポイズンスコーピオンの毒により

刺された兵士は、足元から黒く変色し、グールへと変貌を遂げる。


「みんな、離れて!」


エンデの声に従い、皆が距離を取ると同時に

メルクが、ポイズンスコーピオンに襲い掛かって倒すと

グールの方は、シェイクが倒していた。



ポイズンスコーピオン自体は、弱かった。


だが、刺されただけで、グールへと変化する。


それは、厄介この上ない。


エンデ達は、まだ潜んでいる可能性がある為

今まで以上に、慎重にならざるを得ない。


そう考えていると、メルクとシェイクが動き出す。


彼らは、一度覚えた魔力は忘れない。


2頭は、潜んでいるポイズンスコーピオンを、

次々と見つけ出して、屠ってゆく。


そして、一通りの始末を終えたシェイクは、

シャーロットのもとに戻ると

頭を撫でられた。


「本当に、いい子ね」


『がうっ!』


甘えたような声で答えるシェイク。


だが、それは、シェイクだけではなく

メルクも同じ様に、エブリンに褒められ、満足げな顔をしていた。


2頭の活躍のおかげで、足元を気にせず進めるようになり

エンデ達は、とうとう、暗雲の立ち込めるサラーバに辿り着く。


「ここからが、本番ね」


気を引き締めるエブリン。


「ええ、行きましょう」


シャーロットの声と共に

皆は、サラーバの門を潜った。


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