第75話 ゴンドリア帝国へ  屋敷での出来事

戦いに参戦することとなったダバンが、一歩前に出ると

標的を、エブリンへと向けていた兵士達の動きが止まった。


「我らの邪魔を、しおって・・・」


そう告げた兵士が、ダバンを睨む。


「いいから、かかって来いよ」


ダバンが、深く呼吸をし、構える。


ダバンは、無手。


それが、癪に障ったのか、

兵士は、一瞬、怒りを露わにしたが、

一呼吸し、自身を落ち着かせると

仲間に、声を掛ける。


「いいか、よく聞け。


 誰でもいいから、あの入り口から、脱出し

 後続の部隊に、このことを伝えるんだ」


「ですが・・・」


「あの方には、他の者達がいる。

 

 直ぐに、負ける事はないだろう。


 ならば、我らの使命は、ここを脱出し

 援軍を呼んでくることだ」


「わ、わかりました・・・」


他の兵士達も、この案に納得し、

誰か一人を逃す為の作戦に切り替えた。


「もう、話し合いは、いいのかよ?

 なら、かかって来いよ」


ダバンの挑発を受け、兵士達が一斉に、動き出す。


だが、狙いは、バラバラで、ダバンを食い止めるために

攻撃を仕掛ける者もいれば、エブリンを標的とする者もいる。


そして、もう1つ。


仲間が戦っている間に、屋敷から、脱出を試みる者達がいたのだ。


指示を出した男の狙いは、ダバン。


「なめるなよ、この若造がぁぁぁぁぁ!!!」


鬼気迫る表情で、剣を振り下ろす。


対するダバンは、無手。


受ければ、大怪我を負うが、

ダバンが、そんなことをする筈がなかった。


剣を躱すように、態勢を低くすると、

その状態のまま、男の足を刈る。


剣が空を切り、態勢も崩され男の体が半回転すると

ダバンは、下に向いた頭部に向かって

蹴りを放つ。


無防備となっていた頭部は、

ダバンの攻撃を、まともに受けて、吹き飛んだ。


そこから、ダバンの攻撃が始まり、

突撃してきた兵士達を、次々に屠るが、

今回の攻撃は、ダバンだけにではない。


エブリンも標的にされているのだ。


ダバンが、前進した為、エブリンの護衛はいないのだが

エブリンは、表情一つ、変わらない。


「あんな大声で、作戦をばらしたら、

 こっちにだって、手は打てるのよ」


そう言い終えると、呪文を唱えた。


『ファイヤーウォール』


その言葉に従い、

突如、兵士達の前に、炎の壁が、立ちはだかり

エブリンと入口への道を阻んだ。


「クッ!」


通路を塞がれ、成す統べが無くなった兵士達が、立ち竦んでいると

背後から、ダバンが襲い掛かり、残っていた兵士達を次々に屠った。


その間に、エンデも、敵を殲滅しており

この場には、エンデ達だけとなったのだが・・・・・


エンデは、慌てていた。


「お、お姉ちゃん!」


エンデは、叫ぶと同時に、水の魔法で火を消す。


「エンデ、上出来よ」


笑顔を見せる姉に、エンデは言う。


「屋敷が火事になったら、この街の人達も

 死んでしまうよ」


「それは、大丈夫よ」


「なんで?」


「エンデが、何とかするから」


そう告げたエブリンは、笑みを見せていた。


「・・・・・」


見ない振りをし、空気と化すダバン。


『仕方ない』と諦めた表情を見せるエンデは、

 エブリンの言葉を、肯定する。


「うん、そうだね。

 

 僕が、なんとかすればいいんだ・・・」


「これからも、頼んだわよ」


「あ・・・うん・・・」



ひと段落着いた屋敷の中は

静寂に包まれていて、物音1つしない。


エンデ達は、1階の奥に向かう廊下を進むことにした。


1階の廊下を進んでいると、

奥の部屋の扉の隙間から、

こちらを見ている者達がいることに気付く。


「あれは、隠れているつもりなのかなぁ?」


「それにしても・・・・・・」


息を殺しているようだが、扉の隙間から、

3つの顔が、はっきりと見えていた。


「取り敢えず、先に進もうか?」


「では、俺が先頭に・・・」


「うん、任せるよ」


先頭をダバンと交代し、エンデが最後尾で進む。


そして、潜んでいる部屋に近づくと、

隠れている者たちが動き出すより先に、ダバンが駆け出した。


『!!!』


一気に、距離を詰めたダバンは、

その勢いのまま、部屋の扉を破壊する。


すると、隠れていた者達は、身動きも取れず

吹き飛ばされた。


奥の壁に激突し、唸り声を上げる3人に

ダバンが近づく。


「おい、お前ら・・・・・」


この時に、気付いたのだが、3人は、戦闘服を着ていなかったのだ。


どう見ても、屋敷の使用人の姿をしていたのだ。


「お前らは、ゴンドリア帝国の者達とは、違うようだな」


ダバンのその言葉に、3人は、壊れた人形のように

何度も頷く。


「そうか、それは、悪かったな」


ダバンが、謝罪の言葉を述べていると

エンデとエブリンも、部屋の中に入ってきた。


「あら、この人たち、兵士じゃないわ。


 この屋敷の従者ね」


確かに3人の服装は、調理服や執事服のようなものを着ていた。


そんな3人の様子を見ていたエブリンが告げる。


「エンデ、この男だけ、治してちょうだい」


「うん」


エブリンの指示に従い、

エンデは、小太りの調理服を着た男の治療を始める。


光に包まれると、徐々に傷が癒え、

男の傷は、完全に消えた。


すると、その男に、エブリンが話しかける。


「もう話せるでしょ。


 貴方たちは、ここで何をしていたの?」


エブリンの問いに、小太りの男が答える。


「私は。【デロップ】と申します。


 この屋敷で働く料理人です」


「その料理人が、どうしてここに隠れているの?」


「はい、その・・・・・外の騒ぎを聞いて、

 逃げようとしたのですが・・・その・・・

 逃げ遅れてしまって・・・・・」


「もしかして、あの2人も?」


「はい、彼らは給士です。


 私と一緒に、逃げようとして、ここに取り残された者です」


「そう、なら、この屋敷の事は、詳しいわよね」


「は、はい、勿論です」


「なら、この街の人達が、

 閉じ込められている場所に案内してもらえると

 有難いのだけど」


彼らも、この街の人間。


その言葉に、安堵の涙を浮かべた。


「私たちは、助かるのですね」


「ええ、勿論。

 

 私達は、その為に来たのよ」


その言葉に、声を上げて喜ぶデロップ。


だが・・・・・


「喜ぶのは後にして。

 今は、案内を優先しなさい!」


「は、はい!」


デロップが、急いで立ち上がる。


「では、ご案内します」


助かると思い、笑みを見せながら案内を始めたデロップが

先頭で、部屋を出た瞬間、炎に包まれた。


『ぎゃぁぁぁぁぁ!』


大声を上げ、のた打ち回るデロップ。


エンデが、急いで水魔法で、消火を試みたが

鎮火した時には、デロップは、息絶えていた。


「デロップさん・・・」


呼び掛ける仲間の声も、もう、届かない。


そんな状況の中、水を差すような声が響く。


「チッ、しくじったか・・・・」


デロップを焼き殺した魔法士の声だ。


彼の狙いはエンデ達で

使用人など、邪魔でしかない。


しかも、その使用人のせいで、

作戦が失敗したのだ。


魔法士は、部屋の中を覗き込む。


「まぁいい、このまま部屋ごと焼き払ってやる」


魔法士は、炎の呪文を唱える構えに入ったが、

飛び出して来たダバンの蹴りを顔面に受けて、吹き飛ばされた。


「お前は、絶対に、許さん」


そう言いながら、部屋から出ると、再び炎が襲い掛かる。


魔法士は、1人ではなかったのだ。


「お前も、焼かれてしまえ!」


放たれた炎を、間一髪で躱すことの出来たダバンは、

その魔法士に、視線を向けた。


「そんなもので、焼かれてたまるかよ!」


ダバンは、倒れている魔法士を無視して、

新たに現れた魔法士へと突撃をする。


「お前は、ここで死ねぇぇぇ!!!」


連続で、炎魔法を使い、ダバンを追い詰めようとするが

ダバンは、難なく躱す。


「死ね!死ね!死ねぇぇぇぇぇ!」


壊れたかのように、叫び続ける魔法士だったが

全ての炎が躱されて、

最後には、ダバンの接近を許してしまった。


「火遊びは、おしまいだ」


ダバンは、そう告げると

側頭部に一撃を加えて、魔法士を絶命させた。



しかし、これで終わりではない。


魔法士の放った炎のせいで、

辺り一面に、火の手が上がっていたのだ。


「このまま火事になったら、この街の人達も

 死んでしまうわ!」


どこかで、聞いたようなセリフだったが

エンデは、敢えて突っ込まない。


だが、心の中で、思うのは自由だ。


──お姉ちゃん、それ、さっき僕が、言ったよね・・・・


そんなこと思いながら、エンデは、全ての火を消した。



消火作業を終えたエンデが、振り返ると

そこには、黒焦げになったデロップの遺体に

縋りつくようにして泣いている給仕達の姿があった。


「だんなぁ・・・・・」


「・・・・・・」


流石に、死んだ人間を、生き返らせる術は、知らない。


慰める言葉も、浮かんでこない。


エンデは、この場から立ち去ることにした。


「僕たちは先に行くよ」


そう告げたエンデの言葉を聞き、給仕は立ち上がる。


「ま、待ってください!

 だんなの代わりに、私達が案内します」


「いいの?」


「はい、お任せください」


2人は先頭に立つと、エンデ達と共に、地下牢へと向かった。




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