第20話蹂躙

エンデが、馬車から降りた後、馬車の中に残っているエヴリンが

正面に座っているヘンリエッタとジャスティーンに告げる。


「いいこと、従者にも厳命したけど

 これから見る事は、絶対に他言無用よ。


 もし、それが出来ないのであれば、今回の話は、無かったことにするわ」


「えっ!

 そ、そんな・・・・・」


ジャスティーンが驚く中、ヘンリエッタが告げる。


「何があっても、ここで見た事、聞いたことは、口外致しません。


 ジャスティーン、いいわね」


「は、はい」


2人の了解を得ると、エヴリンは、心配そうに、窓の外を見た。


馬車の外には、大勢の盗賊達がおり、

エンデに近寄ろうとしていた。

 

「僕は、なんのつもりかなぁ?


 叔父ちゃん達は、後ろの荷物に用があるから、そこをどいてくれる?


 それとも、死にたいの?」



ふざけた言い方をする盗賊の姿に、仲間の盗賊達も笑った。


そんな態度の盗賊達を前にしても、エンデに、変化などない。


ただ、盗賊達に向けて告げるのみ。


「ここから先は、行かせないよ・・・・・」


「はぁ?

 貴様みたいなガキに、何が出来るんだよ。


 調子に乗ってんじゃねぇ!」



スタスタと歩き、エンデとの距離を詰めた盗賊は、エンデの胸倉を掴む。


「おい、クソガキ、お前は、変態おやじに売り飛ばしてやる。


 覚悟するんだな!」


そう吐き捨てた盗賊だったが、突然、体の力が抜けたように

地面に倒れる。


突然の出来事に、盗賊達も動くことが出来ない。


「お、おい・・・・・」


驚きながらも、少年に目を向けると、その手には

いつの間にか、剣が握られていた。


血の滴る剣。


倒れた盗賊を中心に、広がる血溜まり。


何があったのかは、直ぐに理解できたのだが

もう遅い。


この時、エンデは、既に、次の行動へと移っていた。


エンデが、左手を前に差し出している。


そこから、一気に放出される悪魔の力。


周囲の雰囲気が一気に変わり、気温が下がり、辺りが暗くなる。


凍える程の冷気に、盗賊達は、驚きを隠せず、

空や、辺りを見渡す事しか出来ない。


「何だ?


 何が起きているんだ・・・・・」


そんな中、盗賊の1人、ネウロが気付く。


「おい、何処に行ったんだ?」


ビーストテイマーであるネウロの足元にいる筈の

山ネズミの姿が見当たらない。


動物である彼らは、エンデの姿を見るなり

一目散に逃げ出し、近場の木の陰に隠れたのだ。


「お前ら、どうしたんだ!

 一体、なんなんだよ・・・・・」


我先にと、逃げたした召喚獣に向けて、悪態をつくネウロ。


そんな様子にも、エンデに変化はない。


淡々と抑揚のない声で、告げる。


「従い、貫け、我が命に応えよ」


エンデの言葉に従い、木々の枝が、山ネズミ達を貫いた。


『ギャン!』


短い悲鳴と共に、絶命してゆく山ネズミ達。


その様子に、ネウロは、愕然と跪き、絶望しているが

セルグードは、これをチャンスと判断し

仲間達に、攻撃の合図を送った。


セルグードの命令に従い、一斉に動き出した盗賊達だったが

直ぐに、後悔する事となった。


「ぎゃぁぁぁぁぁぁ!!!」


途端に響く、叫び声。


その叫び声は、木霊するかのように、辺りからも、聞こえてくる。


蹲り、のた打ち回る仲間の姿に、

セルグードは、呆然しながらも、エンデに視線を移す。


そこで見たもの。


それは、6枚の翼を持つエンデの姿だった。


「お前は、何者なんだ・・・・・」


必死に、絞り出した言葉だが、エンデが答える筈が無い。


一方的に告げるのみ。


「動いたら、同じことになるよ」


エンデから告げられた、恐怖の言葉。


身動きを封じられたセルグード。


ただ、立ち尽くすのみ。


万事休すかと思われたその時、

遅れてきた盗賊の魔法士達が合流する。


そんな魔法士達の目に飛び込んで来たのは

地面に横たわり、唸り声をあげている仲間達の姿だった。


中には、当たり所が悪く、既に、息絶えている者もいた。


「これは、どういうことだ・・・」


驚いている魔法士達に向けて、セルグードが叫ぶ。


「あの化け物を殺せぇぇぇぇぇ!!!」


『化け物』という単語を聞き、

魔法士達は、臨戦態勢へと移行して、

視線を、倒れている仲間達の先へと向けると

そこには、6枚の翼を持つエンデの姿があった。


魔法士達を見つけたエンデが呟く。


「まだ、いたんだ」


そう呟いたエンデは、

6枚の翼を操り、空へと舞い上がる。


魔法士達を空から見下ろすエンデ。


今度は、右手を前に差し出した後、上空へと伸ばした。


「光よ、かの者達に鉄槌を・・・・・」


唱え終えると同時に、右手を振り下ろすと

地上に向けて、レーザービームのような光が、盗賊達に降り注ぐ。


蹲っていた盗賊達、遅れてきた魔法士達を

光は平等に貫き、次々と絶命させてゆく。



光の攻撃を終えた時

生き残っている者は、殆どいなかった。


生き残っているのは、意図してエンデが残したか

運良く生き延びた者達だけ。


光の攻撃を止め、ゆっくりと地上に降りて来るエンデ。


その先には、両腕を失くしたセルグードの姿があった。


彼は、まだ生きていた。


いや、正確には、生かされていたのだ。


そんなセルグードの前に、降り立ったエンデが告げる。


「覚悟、出来てる?」


うっすらと笑みを浮かべるエンデ。


「あああああ、悪魔ぁぁぁぁぁ!!!」


踵を返し、逃げだそうとするセルグードだが、

両腕を失くしている為か、上手く逃げる事が出来ない。


「逃げれないよ」


いつの間にか、距離を詰められ、耳元で囁かれた言葉に

セルグードは、今まで感じた事のない恐怖に怯え、

失くした筈の腕で、必死に藻掻く素振りをみせる。


そんなセルグードの姿に、生き残っていた者達も絶望を感じてしまった。


戦意を失っている盗賊達だが、

エンデは、容赦しない。


新たな呪文を唱える。


「我が命に応えし者達よ。


 従い、貫け、

 その者達を贄とし、この地に、緑の楽園を」


その言葉に、応えるかのように

地中から木々の根が飛び出し、一斉に、盗賊達を貫いた。


体中の水分を抜き取られ、枯れて行く盗賊達。


体中の水分が奪われると、盗賊達は、土へと還り、痕跡も消え失せた。



戦いを終えたエンデが、馬車に向かって歩き始めると

馬車の扉が開き、エヴリンが降りて来る。



「お帰り、終わったようね」


「うん。

 でも、あそこに生き残っている盗賊もいるよ」


エンデが示した方向には、呆然とするネウロの姿があった。


召喚獣を殺され、呆然としていたところに聞こえてきた

『動けば死ぬ』という言葉に囚われ、じっと堪えていたのだ。


「ねぇ、私が近づいても大丈夫?」


目の前で、起った出来事に、戦意も抵抗する気力さえ奪われたネウロに

逆らう意思など、微塵も存在しない。


届いた言葉に、必死に頷くネウロを見て、エンデが答える。


「平気だよ」


「そう・・・・・」



エヴリンは、エンデを連れてネウロに近づいた。


怯えるネウロ。


その目の前で、腕を組み、偉そうに告げるエヴリン。




「私は、エヴリン ヴァイス。


 子爵家の長女よ。


 それで、貴方に聞きたいことがあるの。


 正直に答えれば、命だけは、助けてあげるわ」


ネウロは、何度も頷いた。



「じゃぁ、まずはアジトね。


 案内しなさい。


 それと、喋っても大丈夫だから」



その言葉に、安堵の表情を見せる。


「わかっていると思うけど、

 途中で、妙な動きをしたら、この子が、許さないわよ」


自信満々で、告げるエヴリン。


完全に虎の威を借る狐状態。


だが、エンデは、それでいいと思っている。


所謂『お姉ちゃん特権』なのだ。



エヴリンは、何処に行くにも、エンデを連れて回るが、世話もする。


その代わり、言う事も聞かせる。



そんな関係で、2人は仲良くやって来た。


だから、『お姉ちゃん特権』を発動されても、エンデは嫌な気がしない。


それよりも、姉であるエヴリンが悲しむ事の方が嫌なのだ。



だから、今回の命令にも素直に従う。


「エンデ、しっかり見張るのよ」


「うん」


3人は、会話を終えると

馬車の中で隠れていたジョエルに伝える。


「もう、終わったわよ」


「えっ!

 ・・・・・そうですか」


驚きながらも、恐る恐る外を見るジョエル。


そこには、冒険者達の屍。


流石に、冒険者たちの屍を、土に還すのはどうかと思い

そのまま放置していたのだ。


凄惨な光景だが、ジョエルも商人。


屍など、何度も見て来た。


だが、娘達には、刺激が強いと判断する。



「あの、娘たちは?」


「馬車の中で、待ってもらっているわ」


そう告げると、ジョエルは、娘たちの馬車へと駆け出した。




暫くして、落ち着きを取り戻したジョエルは、ネウロを見張るエンデに近づく。


「エンデ様、その・・・盗賊は?・・・・・」



「うん、もういないよ。


 それより、この人達どうする?」


エンデが問うのは、冒険者達の屍。



「王都に、運びましょう」


エンデ達の被害は、冒険者の7人。


その屍は、ジョエルの従者達によって、荷馬車に積み込まれた。



再び、走り始めた4台の馬車。


エンデとエヴリンは、先頭の馬車に乗り替えている。


御者は、勿論ネウロ。


行き先は、盗賊のアジト。


「しっかり案内しなさいよね!」


エヴリンに檄を飛ばされながら、ネウロは、アジトへと馬車を走らせる。


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