第19話王都に向けて

マリオン家から王都に向かうメンバーは、エンデ、エヴリンの他に、

メイドのエリアルとアラーナ。


それぞれの専属の従者だ。



出発当日、マリオンの屋敷の前に、4台の馬車が止まる。


先頭の馬車から降りて来たのは、ジョエルと2人の娘。


「エンデ様、エヴリン様、不束な娘達ですが、どうぞよろしくお願い致します」



ジョエルが代表して、挨拶を告げた後、

従者達の手によって、最後尾の馬車に荷物が運び込まれる。




その間、エンデとエヴリンが両親に挨拶をしていた。


「頑張って来い」


「はい、父上の名を汚さぬよう、行ってきます」


「うむ」


「エンデちゃんの事、頼むわよ」


「任せてくださいお母様。


 あの子には、誰も近づけさせたりしませんから」


エブリンとルーシアの会話を、横目にしつつ

エンデは、一足先に馬車に乗り込んだ。


暫くして、エヴリンが乗り込むと、

馬車が走り出した。



王都までは4日かかる。


その間は、ジョエルの雇った冒険者達が護衛にあたる。




旅は順調に進み、初日の夜を迎えた。


エンデとエヴリンは、料理をしたことが無い。


いや、する必要が無かったのだ。


その為、他の者達が、テキパキと動く姿を眺めるしかなかったが

見ているだけではつまらないと、エヴリンが、エンデを誘う。



「ねぇ、いい機会だから、私達も教えてもらいましょうよ」



エヴリンは、そう提案すると、エンデの返事も聞かずに立ち上がる。


「行くわよ」


エンデの手を引き、料理を作っているメイド達のもとに向かった。



「エヴリン様、何かございましたでしょうか?」


問いかけてきたのは、アラーナ。


「私達に手伝える事って、何かない?」


日頃から、活発なエヴリン。


いつも、このような調子なので、アラーナは驚きもせずに答える。


「申し訳ありませんが、料理は出来上っておりますので、

 他の仕事をお願い致します」


アラーナは、そう伝えた後、考えた。


「そうですね・・・・・冒険者の方々と一緒に、薪拾いをお願いできますか?」


「わかったわ」


エヴリンは、エンデと手を繋いだまま、山の中へと駆け出して行った。



旅の最中、エンデとエヴリンは、自分たちに出来る事を探し

皆を手伝いながら、旅の楽しみを見つけて過ごしていた。



2日目の野宿も無事に終え、旅は、3日目を迎えていた。


一行が、最後の険しい山道を進んでいると、

何処からか、人の声が聞こえてきた。


それは、叫び声と笑い声。


護衛する冒険者達が、馬車を止める。


「ジョエル様、様子を窺ってきますので

 暫く、お待ち下さい」



冒険者達のリーダー【ドクス】の指示により、

斥侯の【デール】と【ヘドガー】が様子を見に向かう。


その間、馬車は、残った冒険者たちに守られているが

突如、停車したことで、不安が広がる。



2台目の馬車に乗っているエンデ達4人もそれは、同じ。


「何かあったみたいね」


エブリンが、話しかけると、

エンデは、素直に答えた。



「たぶん、盗賊。


 前の方で、誰か襲われているみたいだよ」


その言葉に『イラッ』とするエヴリン。


「あんた、気が付いていたの?」


「まぁ、なんとなくだけどね・・・・・」


「それなら、早く言いなさいよ!」


エヴリンは、そう怒鳴ると、

先頭の馬車の前で、待機している冒険者達を見た。


警戒は、怠っていない。


──これなら、大丈夫よね・・・・・


少し、不安そうな表情を見せるエヴリン。


その表情に、エンデが気付く。


「お姉ちゃん、僕、行ってこようか?」


そう言って、エンデは立ち上がったが

エヴリンに、腕を掴まれ、

その提案は、あっさりと却下される。


「ダメ、あんたは、ここにいなさい。


 冒険者の方々が、いるから大丈夫よ」


「うん・・・・わかった・・・・でも・・・・・」


何か言いたそうなエンデだったが、

素直に姉の指示に従い、腰を下ろす。


だが、その態度を見て、

何か、気付いているかもしれないと思ったエヴリンは

エンデに、再び、問いかける。


「何か言いたいことがあるの?


 もし、そうなら、はっきり言いなさい!」


「うん、盗賊の数が多いから、大丈夫かなって・・・・・」


エヴリンは、その言葉を聞き、

思わず、驚いてしまうが、皆を心配させない為、強気な態度を見せる。


「だ、大丈夫よ!


 あんなに強そうな冒険者の方々が、護衛に付いてくださっているのですもの

 何も、心配する事なんて、無いわよ・・・」


そう言いながらも、エブリンは、不安な表情をしていた。





その頃、馬車から離れ、

斥侯に出た2人は、声の聞こえる場所に辿り着き、

木の陰から様子を窺っていた。



視線の先に見えたのは、

馬車と屍と、捕らえられた女性たち、それに盗賊たち。


馬車から、引きずり降ろされた女性達の中に

ドレスを着ている者もいる。


「ありゃ、貴族だぜ・・・・・」


小声で呟くヘドガー。


「時間の問題みたいだが・・・・・」


彼女達に、逃げ道はない。


捕虜にされ、慰み者になる姿が見えている。


馬車の周りには、屍と化した護衛の兵士達。


彼女達を守る兵士は、もういない。


「おい、どうするよ?」


盗賊達は、ざっと数えて30人。


ジョエルに雇われたの護衛の冒険者の数は、7人。


それに、この場にいるのは、2人だけ。


彼らは、斥候の役目を果たす為、一旦、引き上げる事を選択する。


「おい、一旦、戻ろうぜ」


ヘドガーの提案は、正しい。


2人だけでは、何も出来る事はない。


仕方なく、デールは頷く。


助けることが出来ず、見殺しにするしかない。


言い表せない感情が、心を搔き乱す。


それは、ヘドガーも同じで、

2人は、強くこぶしを握り締め、来た道を引き返し始めた。



だが、デールとヘドガーは、監視されていた事に、気付いていない。


それもその筈。


盗賊の中に、ビーストテイマーがいたのだ。


その男の召喚獣は、山ネズミ。


山ネズミの仕事は

この場所を通る者達を監視する事。


それと、襲撃時の警戒。


その為、2人は、近づいた時から、山ネズミに見張られていたのだ。


何も知らず、馬車まで引き返す2人。


その2人を尾行する山ネズミ。


そして、2人の後をつけた山ネズミは、

ジョエルの馬車に辿り着いた。


勿論、この事は、ビーストテイマーである【ネウロ】に伝えられる。


「頭、この先に、4台の馬車が待機しているようです」


ネウロの報告を受け、『ニヤリ』と笑う【セルグード】。


「おい、おめえら、喜べ!


 今日は大漁だ!


 この先にも、獲物がいるぞ!」


「おぉぉぉぉぉ!!!」


歓声を上げた盗賊達は、馬車に向かって、一斉に走り出した。


暫くして、馬車を発見した盗賊達だが、

直ぐに、襲う事はせず、草むらに隠れて様子を窺っている。


目の前には、豪華な4台の馬車。


やる気に満ちた盗賊達は、セルグードの合図を待つ。


全員が配置に付くと

セルグードが叫ぶ。


「今だ!

 やれぇぇぇぇぇ!!!」


「「おーーー!」」


声を張り上げながら、盗賊達が襲い掛かる。


7人の冒険者も、迎え撃つ構え。


「盗賊だ!」



斥侯からの報告を受け、念のためにと武器を携え、

陣形を整えていたので、焦りはない。


だが、数が数だけに、思わず愚痴をこぼす。


「チッ、本当に来やがったぜ」


思わず舌打ちをするドクスの前に

姿を晒した盗賊達が迫る。


だが、一定の距離で、突如、足を止めた。


予想外の行動に、ドクスは、驚いてしまっている。


──こいつら、何を企んでやがる・・・・・


足を止めた盗賊達は、馬車ではなく、冒険者達を取り囲み

逃げ道を塞ぐ。


本来、彼らの狙いは、馬車なのだが、

今の狙いは、冒険者達。


護衛の冒険者達を倒せば、後は、どうとでもなる。


その為、冒険者たちの始末に、取り掛かっているのだ。


逃げ道を塞いだ盗賊達は、次の行動に出る。


背後に控えている魔法士が、

冒険者達に向かって、魔法を放った。


隊列の後ろから放たれる『ウインドカッター』。


冒険者の中にも、魔法士はいたが、全てを守り切れない。


その為、一部の者達は、成す統べなく、風の刃に刻まれてしまう。


「うぎゃぁぁぁぁぁ!」


「ぐはっ!」


3人の冒険者が倒された。


魔法士のおかげで、助かったドクスは、唇を嚙み締めた。


──こいつら、戦い慣れていやがる。


  それに・・・・・・統率も・・・・・


残った4人では、到底、守り切ることなど不可能。


だが、最後まで守り切る事を誓い、声を張り上げる。


「俺達のプライドに賭けて、馬車は守る!」


その言葉に応えるように、

仲間達も、行動に出る。


4人は、盗賊達の中へと飛び込んでいった。



そのおかげで、隙が出来た。


ジョエルの従者は、迷わず、エンデたちの馬車に飛び込むと

声を張り上げる。


「直ぐに、お逃げください!」


必死に伝える従者に、エンデが問う。


「ジョエルさんたちは?」


「・・・・・・」


答えようとしない従者に、苛立ちをぶつけるエヴリン。


「はっきり言いなさい!


 ジョエルさんたちは、逃げないの?」


「・・・・・はい、この場に残り、囮になるそうです・・・・・

 ただ、娘たちをよろしくと・・・・・」


「お父様・・・・・」


目の前にいる2人の表情は、悲しみに満ちている。


グッと息を飲む。


「そう、わかったわ」


エヴリンのその返事を聞き、安堵の色を見せた従者。


「一刻も早く、お逃げください」

 

ジョエルの従者は、深く頭を下げた。


──この方たちだけでも、お逃げくだされば・・・・・


そう思っている従者だが、

彼は、エヴリンをわかっていない。


呆れた顔で、エヴリンは、従者に言い返す。


「なんで、私達が、貴方達を見捨てないといけないの?

 そんなつもりは、無いし、殺させもしないわよ」


「えっ!?」


驚く従者を他所に、エヴリンは、エンデの方を向く。


「・・・・・」


なんとなく察するエンデ。


「わかっているわよね?」


「うん、でも人数が多いから・・・・・」


エンデの言いたい事がわかったエヴリンは、言葉を遮る。


「遠慮は、いらないわ、やっちゃって!」


「わかった」


エヴリンから、許可をもらったエンデは立ち上がり、馬車から降りた。


「ぼ、坊ちゃま、何をなさるのですか?」


慌てて声をかける従者に、エヴリンが命令する。


「ここから先の事は、忘れなさい。


 いい?


 他言無用。


 記憶から消すのよ」


「え?

 はっはい!」


エヴリンが、ジョエルの従者を強引に説き伏せた時、

既に、冒険者達は倒されていた。


護衛を始末した盗賊達は、

奇声ともとれる雄叫びを上げている。


そんな盗賊達に、セルグードが命令する。


「おい、砦まで、馬車を運ぶぞ!

 馬車の中身は、後のお楽しみだぁぁぁぁぁ!!!」


再び、声を張り上げ、喜びを露にしている盗賊達。


しかし、突然、馬車から少年が降りてきたことで、

歓声が止まった。


盗賊達の前に、エンデが、立ち塞がったのだ。






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