龍田姫エクスカーション
ひかみ
#1 教室
あかりの白い喉が動いて、鈴の音のような声がまろび出る。
『一緒に、きれいなものを沢山見たいよね』
人もまばらな教室には、5月の風が軽やかに吹き抜けていた。
わたしは、修学旅行の計画表を優美につまんだあかりの指先を目で追う。
『見たいよねー京都ならいっぱいあるでしょ』
『6月ってどこが観光にいいのかな』
お寺?神社?抹茶?
特別な行事に浮かれてみても、どこに行ったらいいのかよくわからない。スマホで漫然と検索ワードを叩きながら、わたしとあかりはプリントにメモを取る。
計画は全然まとまらないけど、あかりと二人で何がしたいかは決まっていた。高1で出会った時からずっと同じ。二人できれいなものを見るのだ。
ペンを走らせる度にさらさらとした前髪が揺れるのが気になる。肩までに切り揃えられた髪も真っ直ぐだ。猫っ毛のわたしからしたら羨ましい。
『2日目の午後と3日目はエリア変えようか』
『金閣寺と銀閣寺ってあんま近くなくない?』
あかりのまつ毛は緩やかにカーブを描き、外光を受けてちらちらと艶めいた。眼球の光沢が窓の形をしている。
世界で一番きれいなものは、わたし一人で見るだけなんだよな。
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