第150話 つかの間の休息2

「アイスクリーム~!!」

 ニーナが、イアンの手元に広げた地図を覗き込みながら叫ぶ。


「ニーナ!! アイスは食後だよ」

 イアンは、地図を畳んでしまった。


「あぁ~!!」

 ニーナが残念そうな声をあげる。

「アイスは行くから。ほら、あそこのお店だよ」


 指差す先は、どうみても住宅だ。


「えっ、イアン? 何かの間違いだよ」

「地図はここなんだよね。黄色い建物ってなっているし、えっと、ちいさく魔道具店って書いてあるって」


 恐る恐る近づいて探してみると、扉の真ん中にちいさく『ミラー魔道具店』と書いてあった。

「ほら~。ここだよ」

「でも、やっているのかな?」

「とにかく入ってみよう」


「ごめんくださーい」

 挨拶の声がだけが、店の奥に向かっていく。しばらく物音だけがしていたが、ゆっくりとした足音が近づいてきた。


「はいはい」


「ここで、魔道具を整備してくれるって聞いたんですけど」

「はいはい」

 分厚いメガネをかけた、腰の曲がったおばあちゃんが出てきた。

 杖を頼りによたよた歩いているし、ニーナ達の顔が見にくいのか、メガネのつるをつかんでズレを直しながら、顔を付き出している。


「えっと、おばあちゃん、これなんですけど。最新の台車だけど、みてもらえますか?」


「はいはい」


 近くまでもっていくと、『浮遊』の魔法で浮かせて、台車の裏が見えるように横倒しにする。


 ライトで照らす。「はいはい」といいながら、じっとみている。


「ちょっと、あんたでいいから、ハンドルを握って魔力を流しておくれ」


 近くにいたユージが指名されて、言われた通りに魔力を流す。


 「はいはい」といいながら、近くに落ちていたぼろ布を掴んで、ゴシゴシと拭き始める。


「あんた達、魔力が多いんじゃないかね」


「そうですけど、魔道具をみてわかるものですか?」


「あぁ、ここに魔方陣が定着させてあるんだけど、ところどころ焼ききれそうになっているよ。ちょっとお待ちよ」

 そういうと、部分ごとに分けて魔方陣をかき、張り付けていく。


 その作業を二台とも済ませると、壺をもってきてその中身を塗り始めた。


「これで、しばらく持つはずだけど、あんた達、魔力が多いからね。定期的にメンテナンスしないと、ダンジョン内で動かなくなったら大変なことだよ」

「うわ~。それは、最悪ですね」

 台車があれば、細かい魔力の調節などしなくても適切に浮いていてくれるが、自分達の『浮遊』の魔法で浮かせるとなると、長時間、魔力の調節が必要となり、神経をすり減らす作業だ。

「特別に、厚く塗っておいてあげるさ」

「ありがとうございます。料金はお支払しますので」


「なんだ。あんた達、若いのに羽振りがいいね」

「上級の階層で動かなくなったらと思ったら……」

「これ、担いで戻るの??」

 ニーナが、驚愕している。

「いや、『浮遊』をかければいいだろ?」

「『浮遊』は苦手!! だったら、担いだ方が早いよ」


 ニーナは、魔力が多すぎるため、細かい魔力操作が苦手だ。それなら、『身体強化』で担いだ方が楽だと思っている。


「担ぐんかい。あんた達、面白い子達だねぇ。次は、どこのダンジョンへ行くんだい?」


 グランさんは、まだ新人のイアン班に無理はさせたくなかったらしい。ちゃんと休むようにと、しばらく、ダンジョンは禁止されてしまった。

「まだ、決まっていないんですけど……」

「アイスクリームを食べにいくんだよ!!」

「それは、今日の話だろ!?」


「ははは。やっぱり面白い子達だねぇ。通称、冒険ストリートって知ってるかい?」

「ちょっと北の方ですよね」

 ニーナがきょろきょろとみんなの顔を見比べる。

「どこ~??」

 エインスワール隊に入るまでは、あまり外出しなかったはずのレインもわかっているらしい。

「えっと、みんなの家のなかでは、うちが近いかな」

 レインが説明する。


 腕に自信がある他国の冒険者が、エインスワール王国のダンジョンを目指して、通る街道だから、そう名付けられた。


「知っているなら、近づくんじゃないよ。ベルゼバブがよく出るってさ」

「またぁ、ベルゼバブ~?? 偽物なんじゃない?」

 国境のダンジョンでは、タグル達が流した偽情報だったのだ。


「わしが聞く限り、本物だよ。あんた達みたいな若い子は、近づくんじゃないよ。はいはい。できたから、アイスクリーム食べに行きな」


「はぁ~い」


 おばあちゃんの話が、気になった。ニーナは、ベルゼバブの幹部と一緒に逃げた男のことが、ずっと頭のなかにある。しかし、治安維持にも携わっているエインスワール隊の本部に、そういった情報が入っていないわけがない。

 休養期間が終わったら聞いてみた方がいいかもしれない。


 お昼を軽く食べて、教えてもらったアイスクリーム屋に向かった。

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