第88話 帰り道
「じゃあね~」
大胆に母に手を振って、ニーナは実家を後にした。一泊という短い帰省だったが、ダンジョンで倒した魔物の話や、ライアの班の特別課題に協力した話、1班が大変だった話など、夜を徹して話し尽くした。
そろそろレインが寂しがってる頃だろうと、帰りを急ぐ。
王都の中は早歩きで通りすぎ、学園都市に続く一本道に入った。
ニーナは後ろを振り向いた。
「う~ん。やっぱり誰かに尾行されている気がするんだよね~」
独り言を漏らして、少し進んでは後ろを振り返る動作を繰り返す。
利き手で背中の大剣を確認する。ニーナの大剣は持ち手の魔力を使って、思いどおりに動かせる特殊な剣だ。今は、背中にぴったりとくっついている。
この大剣があれば、負ける気はしない。
「う~ん。別に、逃げる必要はないと思うけど、レインも待ってるし、急ごうかな」
軽い準備運動をするかのように跳ねると、
「身体強化!」
魔法を発動して、走り出した。
王都に向かう人とはすれ違ったが、学園都市に向かう人はいない。普通に歩いたら半日ほどかかる道のりだ。日が暮れそうな時間から向かう人はいない。
王都に急ぐ商人の一団とすれ違ったのを最後に、誰もいなくなった。
一人きりは、ちょっと寂しい。
皆とバカみたいな話で盛り上がっていたら、寂しいなんて思う暇はないのに。早く帰ろう。
本気で走り出した。
あと少しで学園都市に入るというところで、腰の曲がったおばあちゃんが、よろめいているのを見つけた。
フラフラとして、そのまま転んでしまう。
持っていた荷物が、地面に散らばった。
ニーナは足を止める。走ってきたとは思えないほど、まったく息は切れていない。
「おばあちゃん、大丈夫?」
おばあちゃんを助けて座らせると、散らばってしまった荷物を集め始める。
野菜や果物を拾い集め、両手にかかえて、おばあちゃんのもとに戻った。
「おばあちゃん。これ、どこに入れればいい?」
おばあちゃんは視線を下げて、袋を指差した。
ニーナは、おばあちゃんのまえにしゃがんで、袋に食材を詰め始める。
詰め終わると、項垂れているおばあちゃんのところに運んだ。
「おばあちゃん、入ったよ。どこか痛いところある? 待っていってあげるから、帰ろう」
カチャ!!
足になにか取り付けられたのがわかり、急いで足を上げようとした。
「おっと、悪いな」
なにかが取り付けられた足を捕まれて、転ばされる。足を捕まれて、上にあげられているので、つけられたものが取れない。
あれ??
おかしい……。
魔法が、使えない??
魔方陣を書こうとしても、何もでてこない。
ニーナはすぐに気がついた。
魔力封じの魔道具だ……。
魔法が使えないニーナは、ただのか弱い女の子だ。
おばあちゃんだと思っていた人物は、小柄な男だった。小柄な男は、てきぱきとした動作でニーナの両足に枷えおつけていく。その枷は繋がっていて、魔道具が抜けるないようになっていた。
「よくやった」
影から現れた男が、ニーナの腕を掴む。
スーッと魔力が抜けていく感覚がする。魔力食いだ。
嫌だ!! 止めて!!
ニーナは腕を引いて、逃げようとする。
「こっちへ来い!!」
引っ張られると、地面に大剣が引っ掛かった。
ニーナの魔力が途切れたことで、ぴったりくっついていた大剣は背中から離れ、地面に刺さるように落ちていた。ニーナが引っ張られると、大剣は地面に倒れ込む。
先程まで意味をなしていなかった大剣とニーナを繋ぐベルトは、今はニーナを、地面に縫い止めていた。
「おい! この剣、捨てていけ!」
「わぁっかったよ!」
「やめてよ!!」
ガチャガチャと、大剣を外そうとする小柄な男と、少しでも抵抗しようとするニーナ。
「おい!! 少し隠れろ!! 誰か来る!!」
大剣が取り外されてしまった。無理矢理引っ張られて、物陰に入る。
小柄なニーナなど、男二人がかりで引っ張れば、抵抗することが出来ない。
ニーナは、自分のことを尾行していた人がいたのだと、確信した。隣でニーナを押さえつけているのが敵。尾行していたのも敵? それとも味方?
「おい!! いったぞ。今のうちだ。あいつが戻ってくるまでに行くぞ」
嫌がるニーナを引っ張る。
「馬を持ってきた方が早い!」
懐から取り出した小瓶の中身を、汚れた布に垂らす。その布でニーナの口許をおおう。
抵抗むなしく、ニーナは意識を失った。
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