第75話 課題のお手伝い
「あぁ、ちょっといいか?」
夕飯時に声をかけてきたのは、イアンの兄であるライアだ。
「なんだよ」
イアンが、面倒そうな声を出した。顔を見ると、ニコニコしているので、本当に面倒なわけではないのが、筒抜けだ。
「頼みがあってな。
実は、俺らの特別課題の事なんだが、君らに手伝って欲しいんだよ」
ライアは115期生。次の長期休暇で卒業する。卒業課題は、合格間近。エインスワール隊に所属しても班で活動するための、特別課題に挑戦することに決めたらしい。
「俺らって、魔道具班だろ?」
魔道具作りが得意な生徒を集めた、魔道具特化な班だ。
「だから、普通の特別課題か、魔道具班用の特別課題か、どっちかに合格すればいいんだ。
俺たちは、魔道具班用の方にしようと思っているんだけど、始めての魔道具を作るってやつで、なんかヒントないかなって。
3班には、レインがいるだろ? あったら便利な魔道具を聞きたいんだ」
カレンの精神魔法用の魔道具も作ってもらっているのだが、今までの技術を応用しているのもあって、課題に出すには弱いらしい。
家庭で誰でも使える魔道具を考えるよりも、魔力食いに特化した魔道具の方が、今まで作られたものも少ない。始めての魔道具と認定されると思ったのだ。
「ちょっと、考えておいてくれよ。明日、昼はどこにいる?」
「明日は……。練習場だよな?」
「図書館で図鑑を借りて、カーシャ先生のところでお茶しながら、情報収集かな」
「お前ら……。楽しそうだな」
「そりゃ~ね~」
ライア達は、ミーティングルームで魔道具を作っていることが多いので、3班と一緒になることはあまりなかった。
「じゃあ、あ・・・・」
「お前なぁ~!! なんで学校に戻ってこなかったんだよ!! お前らのせいで、課題が遅れているんだぞ!! お前らが悪いんだ!!」
ライアの言葉を、マシューの大声が遮った。
大きな荷物を持った女の子が、食堂を突っ切って、急ぎ足で女子寮へ向かっている。
「お前なぁ!! 何とかいえよ!! この埋め合わせはしてくれるんだよなぁ~??」
女の子は、マシューの方を一度も見ずに、最後には駆け足で、女子寮に入っていった。
「うちの班の、レナです」
スワンが心配そうに視線を送る。
レナの消えた階段前にはマシューが地団駄を踏んで荒れている。異性の寮への立ち入りは、禁止されているのに、今にも階段をのぼってしまいそうだ。近くには、寮母のリサさんが、仁王立ちで睨み付けている姿があった。
「大丈夫でしょうか……」
「う~ん。今日は、そっとしておいた方が……」
大声で階段上に向かって怒鳴るマシューを、リサさんが階段から引き剥がし、やめるように言い聞かせているようだ。
なんとなく、楽しく話をするような雰囲気ではなくなってしまい、急いで夕飯を食べると、それぞれ部屋に戻った。
「うっ、重たい……」
本、主には大きな図鑑を両手に抱えて、ニーナの動きが止まる。
これも、これもと、ダンジョン5階に関係がありそうなものを選んでいたら、両手で抱えきれないほどになってしまった。
「ニーナ、持ちすぎ。僕が持つから貸して」
「むぅ~。身体強化するから、大丈夫!」
「まず、そんなに必要なのか?」
「う~ん。ファイアウルフ、お金にならなかったから、なんか、高く売れる魔物いないかなぁ~って」
「んで、手当たり次第、探すのか?」
イアンは呆れているが、ニーナはもう一冊図鑑を取り出した。
「そう! そう! 次はどこに遊びに行こうかなぁ~」
「もう長期休暇のこと、考えてるの?? 新学期始まったばっかりだよ」
そういうミハナに、
「そろそろ、ミハナの地元も行ってみたいな~」
「うち!?」
「実家じゃなくて、地元でいいからさ~。名物を食べて、工芸品を買うの」
ニーナの実家は王都、イアンの実家は学園都市なので比較的近い。
あと行っていないのは、ミハナの地元だけだった。
「う~ん。まぁ、いいかな。家の様子もこっそり見てみたいし」
「そうと決まれば、稼がないと!!」
「その前に、今度の休みよぉ~。甘いもの食べに行きたいかしら。ワッフルか、マフィンかぁ」
「いいねぇ!! マフィンに一票!!」
「とにかく、手分けして持とう。練習場行くぞ。ライア《あにき》との約束に遅れる」
「はぁ~い!」
「カーシャ先生~!!」
「あら、あら、あら、あら、今日は多いのね」
すでに、ライアと赤髪の先輩と眼鏡の先輩が来ていた。
「お待たせしました~」
「あぁ。っていうか、どんだけ借りてきてるの??」
結局、一人では抱えるのも大変な量になり、イアンとレインで手分けして『浮遊』の魔法を使って持ってきた。だから、大量の本が、フヨフヨと浮いて、練習場の中に入ってきたように見えたはずだ。
「ニーナが、お金になる魔物を知りたいって」
「お金??」
「長期休暇の旅行代です!」
「あぁ、まだ、長期休暇は終わったばかりだが……」
眼鏡の先輩に呆れられてしまう。
「たくさん貯めて、豪遊するんです!」
「あぁ、それなら、ダイヤモンドスネークってのがいいんじゃない?」
赤髪の先輩が、「高く売れたと思うのよね~」と呟く。
「ダイヤモンドですか~!!」
「8階にいるのよ」
「はちーぃ……??」
「ふふふ。どんどん進むことを考えるのね~」
鼻息を荒くしてやる気を出すニーナに、穏やかな笑い声が広がる。
「で、レイン。困ってることとか、あったらいいなってものを知りたいんだけど」
「困ってること~? 特にないかなぁ」
「レイン。今は、ないかもだけど、学園に来るまでは、大変だったんだろ?」
ユージが腕を組んで難しそうな顔をした。
「あれ? 緊急用に魔石持ってるけど、気持ち悪くなるんじゃなかったっけ?」
ミハナも、心配そうにする。
レインは、今、まったく困らないので、昔のことなど忘れていたようだ。緊急のときのことも。
「確かに……。緊急事態なんて起きないけど……」
「普通は起きないから緊急事態なんだし、他の魔力食いの人は今も困っているかもしれないだろ?」
やり取りを聞いていた先輩達が、顔を見合わせて頷く。
「魔石から、気持ち悪くならずに魔力が補給できる魔道具か。レイン。実験に付き合ってくれよ」
「う~ん。ちょっとですよ」
「ちょっとって~!!」
ガタン!!
練習場の扉が開いて、スワンが転がり込んできた。
「大丈夫か?」
「うん。実は、うちの班のマイから、僕宛に手紙が届いたんです。マシューがなかを見ようとするから、逃げてきたんです」
「手紙は、スワン宛だけか?」
「そうみたいなんで、マシューが、怒っちゃって……」
「入り口は見張っててやるから、奥で読んでこいよ」
ユージとイアンは、乱入を止めようと、入り口に立っていたが、マシューは練習場に来ることはなかった。
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