第58話 初ダンジョン2

「1、2、3・・・・6匹。ステーキのするのは1匹分でいいかな?」

 そう言いながら、尾を切り落とす。


「このまま持って帰るしかないよね」


 ナイフがないので、捌くことができない。本当は部位に分けてから、適切な処理をした方が高く買い取ってもらえるのだが、まるごと売るしかない。


「ニーナ。こっちにおいで」


 笑顔で手招きしているレインに素直にしたがうと、『浄化』の魔法をかけてくれた。

「僕が、持っていくよ」


 クロコダイル6匹を、ざっと纏めてロープで縛ると、『浮遊』の魔法をかける。

 ニーナに手を差し出してくるので、クロコダイルの尾を掴んでいる手とは反対の手で、その手をとった。

 レインは嬉しそうに目を細めると、指を絡ませてくる。


「何か・・・」

(恋人みたい・・)

「この方がいいな」


 指と指の柔らかい部分にレインの体温を感じ、全身が熱くなる。

 その途端に、スーッと魔力が減った。


(魔力が受けとりやすいとか??)


 ニーナはレインをチラリと盗み見るが、その満足そうな顔に口をつぐむ。



 クロコダイルをふわふわと浮かせて皆のもとに戻ると、一塊にされたクロコダイルに視線が集まった。その視線は、次にニーナとレインの繋ぐ手に集まったが、一様に視線をはずす。


「ニーナ……。そんなことだろうとは思っていたけど。多すぎないか?」


 レインがクロコダイルを台車に放り込むのを見て、ユージが笑う。

 

 ちなみに、この台車、魔石をエネルギーに浮いて進む、優れものだ。


「ちょっと、やりすぎちゃった。みんなは?」


「一人、一匹づつ」


 ラビットとマウスがまとめられている。こちらも、捌くことはおろか、内臓さえも残ったまま。


「ナイフを買わないと、どうにもならないな」


 事務所に売ろうとしたら、お姉さんは盛大に顔をしかめた。捌いていないのが、嫌だったらしい。それでもナイフがないのはわかってくれているので、「安いけど」と、買い取ってくれた。そのお金で、全員分のナイフになったから、ひと安心だ。




 クロコダイルのステーキは、口の中でとろける。油がのっていて、ほんのり甘い。


「ニーナちゃん。もしかしてダンジョンデビュー??」

 背後からの軽やかな声に振り返ると、お肉を見つめるトーリ先輩。


「トーリ先輩も食べますか?」

「いいの!?」

 お裾分けするのも、学園の日常。厨房に声をかけようと、ニーナが席を立つ。

「あれ? ニーナちゃん、背、伸びた??」

 

 トーリ先輩が、自分の肩辺りとニーナの身長を比べている。


「そうですか? やったぁ~」

 弾むように厨房に向かったニーナを、笑顔のトーリ先輩が追う。


 お肉を受けとったトーリ先輩は、ニーナにウィンクをしてみせた。


「僕、トーリ先輩・・・」

「レイン!」

「ニーナは、僕のも・・・」

「レ、イ、ン!!」


 イアンがレインの言葉を遮って、髪の毛がごちゃごちゃになるまで撫で回す。

 レインが膨れて、「もう!」とイアンの手を払った。


「わかってるよ」


 眉間に皺を寄せたまま、レインが小さな声で呟いた。

 

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