第43話 氷の刃と実験
もう、いつ雪が降ってきてもおかしくないくらい寒いのに、練習場の中は暖かい。カーシャ先生が「寒いのは嫌なのよぉ~」と魔法で暖めていた。
そのせいで、結界の持ち時間はだいぶ短いくて、練習できる時間も短い。
3班は、事前に予定を聞き出し、それに合わせて課題を合格していった。カーシャ先生とは、そんな気軽な話ができるくらい、仲良くなれたということだ。
「カーシャ先生~、おっはようございま~す」
弾むような挨拶、楽しそうに雑談しながら入ってきた3班に、カーシャ先生は目尻を下げた。
「あら、おはよう。今日は課題15だったかしら? そんなに急がなくてもいいのよ。もうちょっと練習してからの方がいいんじゃないかしら?」
「え~!! 昨日、できてましたよ」
ニーナが膨れると、イアンが笑った。
「カーシャ先生は、また、特別課題阻止を企んでいるんじゃないかな? 最近、順調に課題を進めているから」
「カーシャ先生~!! 私たち、頑張っているんですから~!!」
ニーナが、抗議すると、
「だって、あなた達がいなくなると、寂しくなるじゃない。もうすぐ新入生も来るけれど、その子達と仲良くなれるとは限らないし」
と、カーシャ先生は何食わぬ顔で言う。
「えぇ!! 新入生??」
「そうよ。エインスワール学園は特殊なのよ。だから、半年に一回、新入生が来るわ。まぁ、そのまえに長期休暇ね」
「長期休暇??」
「そうよ。今回の休みは、どこに行こうかしらね~??」
「もしかして、長期休暇って、課題進められなくなっちゃうんですか??」
「そうね。私は、一日も来るつもりはないわよ」
「カーシャ先生~!!」
いくら悲鳴を上げても、カーシャ先生の気持ちは変わらなそうだ。
これでは、長期休暇になるまでに、ひとつでも多くの課題に合格するしかない。
「とにかく、課題見てください」
「あら、あら、順番ね~」
イアンを先頭に、次々と合格していく。ニーナ以外は、薬草採集しながらも練習していたのだから、当たり前と言えば、当たり前か。
「ニーナ、頑張れ」
レインが、そっと握っていた手を離す。
「うん。大丈夫」
右手を付き出して、集中する。腕の辺りで、魔力を絞るようにイメージして、魔方陣を描く。二重の魔方陣が出来上がった。溢れんばかりに詰め込まれた魔力で、魔方陣がキラキラと光っている。
魔力を制御するのにもなれてきたのだが、それでも少し多い。
右手をあげて、魔方陣を高いところに移動させると、ニーナの詠唱が響き渡る。
「氷の刃!!」
魔方陣から生まれた水がその場で凍りつき、細長く生成された。その後、氷の重さで、落下する。
ズサッ!!
重たそうな音を立てて、地面に突き刺さる。
「大きいね~」
レインが近づくと、肩ほどの高さまである、細長い氷をペタペタとさわる。
「はぁ、課題15に全員合格よ。本当に早いのよね~」
カーシャ先生が、ため息とともに、小さく拍手してくれた。
「もう少し、練習していっていいですか?」
「あなた達、本当に課題に詳しいのよね。まさか、カイトが教えているんじゃないわよね~??」
急に矛先を向けられたカイト先生が焦る。
「まさか!! ちゃんと、決められている通りにしか教えていませんよ!!」
さすがにカイト先生が疑われたままってのは、申し訳ない。
「だって、カーシャ先生。友達に教えて貰うのはいいんですよね~」
情報源はスワンだ。あれから、マシューに文句を言われながらも、食らいついていた。
ただ、1班は仲がいいとは言えない。常にギスギスしていて、特にスワンは、一人で行動していることが多い。
3班の食堂での勉強にも参加していたし、お風呂も一緒に行っていた。
「う~ん。お友達なら、大丈夫ね。人脈も、あなた達の能力よ」
その日の午後、カレンの両親が到着した。
カレンに魔道具をつけてもらい、実験する。
しばらく悩んだカレンが、両親の目を順番に見る。
「私のことを誉めて欲しいわ」
「そりゃ、かわいい娘を誉めるなんて、簡単だよぉ~。カレンは、生まれてきてくれただけで・・・」
「あなたは、いつまでも、可愛い可愛い、私のベイビーちゃんよぉ~。いつまでも、甘え・・・」
「ちょ、ちょ、ちょ、ちょっと」
「カレン!! 逆!!」
「できそうもないこと、言わないと!」
「あら、そうねぇ~。じゃあ、私のことを、
「えぇ~!! カレンのことを、
「そうよ~。こんなにかわいい、カレンちゃんなのよぉ~」
フルフルと首をふって、ダメダメと訴える両親。
「カレン、よかったな。実験も成功だ」
「えっと、何のことかしら?」
カレンの両親に今までのことを説明した。カレンが、自分達の課題をそっちのけで、皆が協力してくれたことを力説したので、二人とも涙を流して感謝した。
そのとき、長期休暇はユージの実家に行くとカレンが話す。
「帰ってきてくれないのか?」と初めは顔をしかめていたパパさんも、「みんなにお返しするのよ」とカレンが主張するので、パパさんは旅費として、お小遣いをくれたのだ。
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