第14話 拉致

「やあ、芳野ちゃん。また会ったね」


 雑居ビルの上の方にある狭いライブハウスのような所で、芳野は身動き取れないまま、例の先輩達に囲まれていた。


 理人りひとの事もあり、学校から帰った後は、外に出ない様にしていたのだが、双葉から緊急事態だということで連絡があり、あわてて学校まで来てみたらこの始末だ。


「あんた達! こんな事して後でどうなるか分かってんの!? 

 早く縄を解きなさい! 大声出すわよ!」

「おーおー。出来るだけでっかい声だせよな。ここ、完全防音だから……。

 せっかくまた会えたんだし……こないだの続きをしない? 

 よ・し・の・ちゃん!」

 そういいながら、先輩の一人が芳野の胸をなでる。


「ひっ! な、何を言ってるの? やめなさいよ……。

 理人さんが黙ってないわよ!」


「くっ、ははは……仮にあいつが出て来たって、俺達に敵う訳ねえだろ!

 だいたい、お前。理人に三行半みくだりはん突き付けられてんじゃねえのかよ?

 そーだよな? 俺達にお前を沈めてくれって頼んできたの、理人だしな!」


「それじゃ……やっぱり理人さんは、私の事を……」

「ああ。変な生ゴミとつるんでて、目障りでしょうがねえらしいぜ。

 だから、今夜以降、表社会から消えて欲しいんだとよ」

「ふざけないで! 私の友人達が学校や警察に知らせるわ……」


「ぷっ。くはははははは……お前、ほんとお目出度てえな。やっぱ馬鹿だろ?

 お前の友達ってのは双葉達だろ? もう全員俺達側なんだよ! 

 そりゃそうさ。みんな、自分の身や家族が大事だもんな……。

 お前もそうだろが!」


「うそだ……」……だが、確かに双葉から直電で呼出しがあったのは事実だ。

 芳野は泣きながら、がっくりとうなだれた。


「おや? もう折れちまったか? 

 そんじゃ一発……ん? はっ、丁度理人君から電話だー。

 なんか文句でも言うかい? 芳野ちゃん!」


「……あん? ……ああ、分かった。

 こっちは据え膳だ。早くしろよな……」

 先輩が理人とスマホで話をしているが、芳野にはもう言葉を発する気力もなかった。


「芳野ちゃん。お楽しみはちょっとお預けだ。

 理人がもう一人、ここに呼んでるらしいからな。

 全員揃ってから、乱交パーティと行こうじゃねえか。

 そんでその後、薬でソープにに沈めてやるよ……」


(くっ……なんで私がこんな目に……でも、もう一人って……ナナ?)

 


 ◇◇◇



 スマホに双葉から直電が入り、ナナが受けた。

 芳野が理人に呼び出されて外出したまま戻ってこないとの事で、もう夜中の十時を過ぎており、芳野の家では警察に捜索願を出した様だ。


 しかし……こりゃ……。

 手を組んだとはいえ、こいつはあたいらの仕事じゃねえぜ、ナナ。

 正直、芳野がどんな目にあっても、自業自得だろ?

 とりあえず、おまえのかあちゃんの方をなんとかしねえとよ……。

 ナナだと麻美と踏み込んだ話が出来ないと思い、エリカが深層から表に出た。


「で、麻美さんよ。これからどうする? 

 相手がヤクザじゃ、あんたじゃ逃げ切れねえだろ? 

 どうだい。ナナといっしょに、あの児相に行ってみるってのは?

 あんたは本当にロクでもねえ母親だが、まだやり直せるんじゃねえのか?」


「でも……ナナはもう生き返らないんだろ? 別にあたしはどうなってもいいさ」

「あー、めんどくせえな。ナナは死んじまったけど魂はまだここにいるし、後三年、あたいがいるうちは、話たり抱っこしたり出来るっちゅうの! 

 だから、その間だけでも親子やり直したらどうなんだい? 

 せっかく手を貸してくれる他人がいるんだし、利用しろよ!

 ナナが成仏する前に、すこしは母親とのいい思い出作ってやれよ!」


「……出来るのかな……いまさら……」

「ぐだぐだ言うな! やれっ!!」


 またスマホが鳴動した。

 ちっ、芳野の事なんか知らねえよ……。

 そう思いながらスマホを見ると、あれ、なんだよ芳野じゃん。無事だったんか。

「ああ、どうしたー。大丈夫だったかー」エリカが電話口で話掛けた。


「えー、ナナさん。僕の事心配してくれてたの?」

「リヒト!?」

 電話の相手はリヒトだった。芳野のスマホからかけているのだろう。


「ナナさん。今、おかあさんといっしょかなー。あんまり手をかけさせないでよ。

 これから芳野のリンチが始まるんだけど、君も見に来ない?

 君も芳野には恨み骨髄だよね? 楽しめると思うよー。

 もう、先輩方も下半身コチコチみたいだし……。

 取り巻きの三人も見に来てるから大丈夫だよー」


「ふざけるな! あたいはもう、麻美と児相に行くって決めたんだ! 

 これから警官のところに二人でいくのさ! 

 ざまみろ。もうお前の手には届かねーぞ。

 芳野は好きにしろ。あたいの知ったこっちゃない。

 お前の言う通り、そいつには恨み骨髄だしな!」


「あれー、それでいいの? それだと、君のおかあさん。明日の朝には、女子高生四名殺害の容疑者として、新聞の一面飾るんだけど……」

「!! てめえ……いったいどういう了見だ!?」


「どうもこうも……お前、目障りなんだよ! ことごとく僕の仕掛けをすり抜けてくれてさ……もう、君に引導渡さないと、いい加減僕が危ないんだ。

 だから来いよ! 僕がちゃんとお前とケリつけてやる!」


 リヒトてめえ……ほんとこいつ、魔軍の将軍クラスかよ。

 ラスボス感、ハンパねえな……。


(ナナ。あいつあんな事言ってるが……どうする?)

(決まってる! おかあさんをひどい目になんか、絶対あわせない。

 私、思いっ切り怒ってる……エリカ、構わないから全部吹っ飛ばして!!)

(ああ……了解!)


「わかった、リヒト。そんなにあたいに会いたいんじゃ仕方ねえ。

 これからソッコー顔見せに行ってやる。

 だが、分かってんだろうな。おめーも男なら姑息なマネすんじゃねえぞ!」

「僕を誰だと思ってるんだい? そんな卑怯な事はしないよ」


 まったく……どの口が言ってやがる……。


 リヒトの指定した場所は、南新宿でそんなに遠くはなく、大体の行き方を麻美に教えてもらった。


「あんたは、あたいが戻るまで、ここ動くなよ。

 そんで朝まであたいが戻らなかったら、構わねえから、警察かけ込め! 

 そんで今のリヒトの話をぶちまけろ。

 信用されなくてもいいから、保護して貰え!」


「ああ。でもあんた……大丈夫なのかい? 相手はヤクザもんだろ?」

「はは、ただの高校生だけどな……結構凶悪な。

 まっ、任せておけや。あたいを誰だと思ってんだい。

 天下の大魔王エリカ様だぞ! 

 それにあんたの娘のナナがいてるんだ。

 ぶっ飛ばせねえ奴なんかいねえさ!」

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