第13話 麻美
大久保の自宅のアパートにナナの身体が転移したら、眼の前に麻美がいた。
突然、目の前に全裸の娘が現れて、度肝を抜かれたような顔で硬直している。
「ナナ……お前。どこから……それにそんな恰好で……血だらけじゃないか!」
「ああ……おかあさん……ちゃんと顔見られた……。
ずっと深層だったから、声しか聞こえなくて……おかあさん!」
ナナは麻美に飛びついて、思い切り頬をすりすりした。
「やめろよ……って、お前。ナナ? そうだよな? お前はナナだ!
じゃあ、こないだあたしをぶん殴りやがったのは一体誰なんだ!」
「おかあさん……ごめんなさい……私、もう死んじゃってて、今幽霊なんだ。
この間おかあさんを殴ったのはエリカっていって、私の身体を貸してるの。
でも、こうしてもう一度おかあさんの顔を見られた……触れた……うれしい!」
あーあ。ばらしちまったか……でも、まあこんな事信じないだろうけどな。
「死んじゃったって……あんた……」
「うん。二週間位前……私、由比ガ浜で自殺したの。
それで、この身体を魔王エリカに取られちゃってね。
……お家に帰ってきて、高橋ぶっ飛ばしたのもエリカなのよ。
あっ、そうそう。
今日、高橋が私の身体切り刻んでいたら、いきなりお巡りさんが入ってきたの。
それで捕まったらまずいって思って、エリカに頼んで、ここに飛んできてもらったんだよ」
「切り刻んでって……あんた……」
「へへ……全然気持ち良くなかったよ!」
「ナナ……」麻美がナナをそっと抱擁した。
はは……よかったな、ナナ。
「はっ! でも、それじゃ……すぐ逃げないと……」麻美が突然顔を上げた。
「えっ、どうしたのおかあさん?」
「今日のシノギが失敗だとすると、直ぐに組の奴らがあたしのガラを抑えに来る。
高橋も来るかも知れねえ。ナナ、何でもいいから早く服着な。
一刻も早くここをずらかるぞ!」
「うん! わかった!!」
ナナが身支度を終え、麻美と外に出ようとした時だった。
いきなり玄関の戸が蹴り破られ、チンピラ風の男が数人入ってきた。
「くそっ! 間に合わなかったか……」
麻美は両手をあげて無抵抗の意思表示をする。
(エリカ……どうしよう?)
(替われナナ! 荒事はあたいの得意分野だ!)
(わかった! おかあさんをお願い!)
(おお、任せとけ。
お前ももっと怒れ! 悲しめ! それがあたいの魔力になるんだよ!)
(うん!)
「呼ばれて飛び出て……ジャジャジャジャーン! エリカ様、参上!」
「あ、あんたが……エリカなのかい?」麻美が問う。
「おうよ、クソババア。他ならぬナナの頼みだ。一回だけ助けてやる!
しっかりつかまってろよ!
シャイニング!!」
エリカの掛け声で、ものすごい明るい光球が発生し、周りにいた者すべての眼がくらみ、エリカは麻美の手を引いて部屋の外に出た。
「ジャンプ!」
麻美の手をしっかり握って、エリカは空へ飛びあがる。
おー、東京の夜景ってきれいだねー。
程なく、二人は人気のない広場に降り立った。
「どこだいここは? あたいは土地勘がないんだよ」
「なんだよ、あんた。自分で飛んでて分からねえのかよ。
ここ、多分都庁のところだ。西新宿の……。
あたしの仕事場がすぐそこだよ!
まっ、こんなところにいるなんて絶対バレねえけどな。
……それであんた、エリカってんだろ?
ナナは……ナナは本当に死んじまったのかい?」
「ああ、間違いねえ。十日程前に、海に身を投げて死んだんだ。
それでこの身体をあたいが借りてる」
「ちくしょー、こんやろっ!
さっさとナナの身体から出てけ! ナナを元に戻せ!」
「いや、だからあたいが出て行ってもナナには戻らねーよ。
もう、魂の尾が切れちまってる。
たまたま偶然の事故で、あたいの魂と絡みあっちゃって出て行けないだけでな。
こっちの世界じゃ、こういうの地縛霊とか言うんだっけ?
いやそれは土地に縛られる奴か‥‥‥。
こいつは自分の肉体に縛られているんで……肉縛霊?。
まあ、そんな訳で、すぐに成仏もさせてやれねえ。すまねえな……」
「そんな……そんな……」麻美ががっくりを膝を落として落涙している。
「何だよおめー。あいつが邪魔だったんじゃねえのかよ。
一人で自由に暮らしたかったんだろ?
まあ、いろいろトラぶっちまったが、願ったりかなったりじゃねえのかよ!」
「……な! ……けるな! ふざけるな!
いくらあたしが馬鹿だからって、娘が死んで悲しくない訳あるか!」
「何をいまさら……。
それなら、もっと生きてるうちに寄り添ってやりゃーよかったんじゃねーかよ」
「……んだよ」
「あーん。なんだって? 声ちいせえよ!!」
「わっかんねーんだよ! どうやって子供に接すりゃいいのか……あたしだってずっと一人だったんだ。くそったれの酒乱オヤジにさんざん殴られ、生理が来たと思ったらいきなり犯された。そんな家を飛び出して悪事に手を染めて捕まって、施設逃げ出してからは、身体売って食ってくしかなかった。あとはお決まりで、ヤベーやつらとつるむしかなかったんだ。
それでも、ナナは……ナナはあたしが生んだ子だぞ!
いっしょにいちゃいけねえのかよ! ちきしょー……神様……」
そう言いながら、麻美は泣き崩れた。
なんてこった。こいつ、本当に知らないんだ。
親の愛情とか子供への接し方とか……。
(エリカ……もう一度、替わって貰っていいかな?)
(ああ)
エリカと入れ替わって表に出たナナと麻美は、しばらくそのまま二人で抱き合って泣いていた。
さって、これからどうしたものか……深層でエリカは、これからの事を考える。
(ま、あの吉村さんってのに相談するのが妥当かな?)
あれ? スマホが鳴ってる? 芳野に借りてたやつか?
(エリカ。ちょっといい? 芳野がいなくなったって……)
何だって!?
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