第10話 正体

 小平芳野が語り出した。


「私が理人さんと知り合ったのは、中学一年の時です。

 たまたま同じクラスになったのが始まりでしたが、彼……あんな風に物腰が低くて人当たりがいい感じがするでしょ? しかも勉強も出来てスポーツも万能。

 たちまちクラスで男女問わず人気者になったの。

 もちろん、女子達の熱の入り様も半端じゃなくて、同学年だけじゃなくて、上級生からもラブレターを貰ってたわ。

 私も御多分に漏れず、最初は彼に夢中だった。

 それで勇気を出してラブレターを書いて告白したの。

 そしたら、それを彼が受け入れてくれて、私達は公認カップルになったのよ」


「なんだい。ノロけかよ……」

「いいから黙って! ここからよ……」

 エリカに話の腰を折られて、芳野がふくれた。


「中学一年の夏休み。私は彼をうちの蓼科の別荘に招待したの。

 私ん家の執事とメイドがついてきて、彼は一人だった。

 そして……そこで結ばれたの」


「やっぱ、ノロけじゃねえか! 

 にしても中一でエッチとか……早くねーか?」

「だからー。黙って聞け! そん時は私も恋に酔ってたの!」

 芳野が話を続ける。


「様子がおかしくなりだしたのは、二学期に入ってからよ。

 理人さんの彼女を自称する生徒が急に増えだしたの。

 それで私、彼を問い詰めたの。そうしたら、彼が言うには、あいつらは勝手に僕の彼女を自称していて許しがたい。君が懲らしめてくれないかって。

 そして、どうしていいか分からないと言った私に彼が指導してくれたの。

 その子たちをいじめる方法を……」


「ちょっと待て! お前、そこで変だって思わなかったのか?」

「正直、あんまり思わなかったわ。理人さんが私を愛してくれているのは間違いなかったし、それに……人をいじめるのが楽しく思えちゃったの。

 ちゃんといじめてその子が言いなりになると、理人さんは私を褒めてくれたわ。

 そしてその度に愛してくれた」


「……んで。お前がいじめた奴にリヒトが手を差し伸べて、いじめから救うフリして、ウリをやらせたってか?」

「そう……」


「やっぱ、あんた馬鹿だろ? ドSまで見抜かれて完全に利用されてんじゃん!」

「……そうよね。今考えると確かにそうかも。

 理人さんが私といっしょに同じ高校に行きたいって言った時、それが畑山高校って聞いて何でって思ったの。私も理人さんも、もっとレベルの高い進学校でも全然問題なかったのに。それで彼に理由を聞いたの。そしたら……」


「商売がしやすい!」エリカが答えた。


「ちょっと、何で知ってるのよ!」

「いや、これ誰でも分かるだろ?」

「……それで私は怖くなって、もうやめようって……そしたら、理人さんは、私がやってきたいじめの証拠をたくさん持っていて、親にバラすって。それに私の性癖がドSの変態だって、世間に広めるって……それに、いっしょにいる限り愛してくれるって……そしたら逆らえないじゃない? 」


「あーあ。馬鹿につける薬はねえってか。

 結局、他の男とエッチしたとたん捨てられてんじゃん。

 で、あんたの親は何の商売してるんだ? 

 金まわりもよかったんで奴に使われたんだろ?」

「医療法人の理事長。大きな病院を何軒も持ってるグループなの」


「だいたい分かった。

 でもそれ、あんたが腹くくれば解決なんじゃないか? 

 やっちまった罪は罪だ。

 リヒトを告発して、ちゃんと罪を清算すれば、あんたほどの器量だ。

 真っ当な暮らしに戻って、いい男と結婚出来んじゃね?」


「だめなのよ! ここからが本題!」

「なんだよ。まだ裏が有んのかよ……」


「あいつ……反社の構成員なの……」

「なんだそりゃ……ちょっと待て。何々、ああヤクザか! 

 へー、あの歳で大したもんだ」

「大したもんだ……じゃないわよ。あいつを本気にさせると、ヤクザが動くの!

 父の病院とかで騒がれたりしたら……あたし、勘当どころじゃすまないよ!

 それに、あの女子買う方の先輩方……あれもヤクザの息がかかってるの。

 あたし達の学校。レベルもそれなりなだけあって、族上がりとかチーマー崩れとかも結構いて、相当数、反社に関わってる奴がいるのよ」


「うーん。別にそうした社会からちょっとはずれちゃった奴らがみんな極悪ってわけじゃねえとは思うんだが……」

 それを言ったら、人間から見た魔族なんて、みんなヤクザ以上に極悪だよな。


「油断しちゃだめなのよ。あいつら女子高生を薬漬けにして、風俗に落とすくらい平気でやるんだから! だからもう、私達もどうなるかと思うと……」

「何が風俗だ……同じ様な事を人にさんざんやって来た癖に……。

 でもまあ、よっく分かった。よっく分かったが……。

 具体的な手の打ち様が思いつかねえ。

 それにやっぱ、あんた達まで守る義理はないかな……」


「何よ。そんな事言わないで! そりゃあなたは失うもの何も無いのかも知れないけど、私にとっては、命に係わる問題なの!」


(ふざけんな!! ほのかも私も……もう命さえ失ったのに……)


 ナナ! ……そうだよな。確かにどんなにわめこうが、こいつの罪は消えねえ。

 だがな、ナナ。こいつにはいずれケジメを付けさせるとして、元凶はリヒトだ。

 あいつにケジメつけさせるまで、せいぜいこのお嬢様は利用しようや。

(……わかった)


「そんじゃ、お嬢様よ。どんなお手伝いが出来るかは、まだ分からんが……。

 リヒトをつるし上げるまでは、一時休戦と行こうじゃねえか。

 とりあえず、毎日お昼の弁当と……あと、緊急時の連絡用に、スマホっての? 

あれ貸してくんないか?」

「そんなのお安い御用ですわ。それじゃ来宮さん、よろしくね」

「ああナナでいいよ。あたいもあんたを芳野って呼ぶから。

 その方が同盟関係をクラスにアピール出来るだろ」

「そうですね。そのほうが理人さんも警戒レベルを上げるでしょう」

「……もう……いいかげん、さんづけはやめろよ……」

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