36. 再会 ※琴乃視点

「お母さん邪魔しないで! 琴乃ことののお父さん取らないで」


「うぅ……。いつになったら琴乃ことのはお母さんしゅきしゅきになってくれるのかしら」


「ならないもん。お父さんと別れたら考えてあげる!」


「な、なんでそういうこと言うのぉ……!」


琴乃ことののお父さん取るお母さんなんて大っ嫌い! お母さんなんていなくなっちゃえばいいんだ!」




●●●




◆ 古藤ことう琴乃ことの ◆



 体育委員の仕事を終えて、私は唯人ゆいと君を探していた。


 今日はおばあちゃんも叔父さんもみんな来てくれて、とても良い一日だった!


「むー?」


 差し入れのジュースを片手に唯人ゆいと君を探す。

 いつもならすぐ私が見つかるようなところにいてくれるのに、今日は全然姿が見えない。


「ねぇねぇ、唯人ゆいと君知らない?」 


 クラスメイトたちに聞きまわってみる。


湯井ゆい君? 湯井ゆい君ならさっき木幡こはたさんと屋上に行くって言ってたよ」

「えっ」

「何だか湯井ゆい君、怖い顔してたけど……」


 胸の奥がざわざわする。


 二人とも、私とはこの前ちゃんと約束してくれたからそんな心配してないけど――。


 や、やややっぱり心配だ!


 私も早く屋上に行かないと!!




※※※




 私の人生十五年間は後悔の連続だった。


 あの日なぜあんなことを言ってしまったのか。


 あの日なぜもっと優しくなれなかったのか、今でも時々考えてしまうときがある。


 だから、せめて後悔がないように。自分が最善だと思ったことを全力で頑張ろう思って今まで生きてきた。


「うぅ……。あんなに一緒にいないでって言ったのにぃ」


 おばあちゃんのあの時の言葉をふと思い出してしまっていた。


(付き合うってなると、嫉妬とか独占欲とかがもっと出てきちゃうでしょ。そういうマイナスの感情に振り回されるの嫌だったんじゃないかしら。そうなると、大好きだった子にどうしてこうしてくれないんだって不満が出てきちゃうのが人間なのよ)


 今、真にその言葉を理解してしまった。

 唯人ゆいとくんにそんな理不尽な怒りがこみ上がってきてしまっている。


(屋上で二人に会ったらなんて言えばいいんだろう……)


 私の唯人ゆいと君を取らないで?

 これは前にも言った気がする……。


 もう近寄らないで?

 なんかこれも違う気がする……。


 そんなぐちゃぐちゃな感情のまま屋上に足を進める。


 二人は否定するだろうけど、唯人ゆいと君と心春こはるちゃんは匂いがどこか似ている。


 これは鼻で嗅ぐ匂いの話じゃなくて、雰囲気というか心の奥底が似てるというか……。


 な、なんて言っていいか分からないけどとりあえずそんな感じがする!


 考えが一切まとまらないまま、私は屋上の扉の前に着いてしまっていた。




※※※




「うぅ、何か緊張するよぉ」


 屋上の扉を開けることができないでいた。

 何やら二人の話し声が聞こえてくるが、ここからじゃよく聞こえない。


(あんまりお行儀良くないけど……)


 ほんの少しだけ扉を開けて、その先を見てみる。


「……?」


 心春こはるちゃんがすぐ目に入った。

 何故か、屋上の真ん中でぺたりと座り込んでしまっている。


「本当にあなた? 本当にあなたなの?」

「本当に俺だよ。古藤ことう琴乃ことのの父親で、古藤ことう美鈴みすずの夫だった男だよ」


 ――えっ?


 今、唯人ゆいと君が私のお父さんだって言った……?


 なんで二人が私のお父さんとお母さんの名前を出しているのだろう。


(あ、あれ?)


 混乱した頭のまま二人の様子を見守っていると、唯人ゆいと君がしゃがみ込み、心春こはるちゃんの体を……。


「!!」


 抱きかかえている!


「あ、あなた! 実の娘と付き合ってるなんてどういうことよ! 私のことなんてどうでも良くなったんだ!」

「違う違う! 大体この事態になったのはお前も加担してるからな!」



ガタッ



 私は持っていた差し入れの用のペットボトルを落としてしまった。


 えっ? どういうこと?


 実の娘と付き合っている……?


 えっ? えっ?



バタンッ!!



 私は屋上の扉を勢いよく開けてしまった!


「な、何してるの!?」


 体育祭の応援よりも大きな声が出てしまっていた。


「「こ、琴乃ことの!?」」


 二人が声を揃えて、私の名前を呼んでくる。

 その様子が私の幸せだった頃の記憶を呼び起こす。


 その様子はまるで二人が……。


「うぅ……うっ!」


 言葉が出てこない!

 何か言わないといけないのに何も言葉が出てこない!


「ど、どういうこと……?」


 鼻の奥がツンと痛くなる。

 混乱した頭のまま、目の前が真っ赤に染まっていく。


「これは一体どういうこと!? 二人とも私の大切な両親の名前を出してどういうつもり!?」


 

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